多々良之枝 一
少し3,4,5くらい続く話を始めます。
「・・・あ、そうだ。みんな、こういう話を聞いた事はあるかな?」
授業中、歴史の先生がいきなり話を始めた。この先生は怪しい見た目の通り、授業では到底習わない歴史や文化を暇を見つけては生徒に教えたがる、いわゆる変人だ。
しかし、退屈な歴史の授業を聞いているよりも、こういうおかしな話を聞いた方が私的には楽しい。
「この街には昔、【多々良之枝】と言われる幸運を呼ぶ枝が祀られていたんだ。その枝は君たちの手ぐらいの長さで細く、枝には三枚の葉がついている。そして、枝についている三枚の葉の一枚が落ちた時、その時願っていた者の願いが叶うと言われている。」
先生は律義に黒板に書いていた授業の内容を消し、そこに多々良之枝を描く。先生が書いた枝の絵は何の変哲もない枝の絵だったが、唯一特徴的な所である葉が黄色く色塗られていた。黄色い葉なのか?それなら確かにあんまり見た事ないかも。
というより、授業の内容を消してまで紹介する事だったんだろうか?私は良いが、他の真面目に授業を受けている生徒達の中には、まだノートに書ききれていない者もいるはず・・・少なくとも、遠目から見てもハッキリと分かるほどにイライラしているサヤカは書ききれていなかったんだろう。
キーン、コーン、カーン。
授業終了のチャイムが鳴り、先生は話し足りなかったのか、残念そうな顔をしながら教室から出ていった。
すると、先生が教室から出た瞬間、教室中の生徒達が一斉に溜息を吐いた。あー、みんな書ききれなかったんだね。
「そんじゃ、私は私のお姫様のご機嫌でも取りにいくか。」
自分の席を立ち、サヤカの席に向かうと、サヤカは黒板に書き残された枝の絵を睨みつけながら、ペンを巧みに回し続けていた。
「わぁ、凄いテクニックですね。経験者ですか?」
「なんの経験者よ・・・あんの変人教師、いつになったら真っ当に授業をしてくれるのかしら・・・!」
「いいじゃん!結構面白いよ?」
「面白い面白くないの話じゃない!私達はハンデを負わされてテストに挑む事になるのよ!?今日やってた所だって、テスト範囲だから集中して聞くようにって授業の始めに言ってたでしょ!?」
そう言われると何も言い返せない。私は別に赤点を回避出来ればそれでいいけど、他の人達にとっては、いかに自分が過去の自分の点数を追い越すかを全力で取り組んでいるのだろう。
「あーイライラするー・・・アキ、あんた今日付き合いなさい。」
「いつも付き合ってるけど?」
「このイライラした気持ちを発散しなきゃ勉強どころじゃないわ!久しぶりにバッティングセンターでも行こうかしらね!」
「サヤカ、40キロの球も打てないじゃん・・・それじゃあさ、あそこ行こうよ。」
「あそこ?」
「こういうイライラした時や悩み事を抱えた時は、あそこで愚痴を聞いてもらうに限る。」
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「で?ここに来たって訳ね。」
放課後、未だにイライラしていたサヤカを連れてやってきたのはルーさんのカフェ。やっぱりここは落ち着く。置いてある不気味なオブジェクトや変な置物で、まるでここが私達が知っている世界とは別の世界だと思える。
「あのねー、アキちゃん?ここはカフェなのよ?悩み事なら聞いてあげるけど、たまには感謝の意を込めてコーヒー一杯くらい注文してもいいんじゃない?」
「大丈夫ですよ、買ってきたんで。あ、ルーさんも飲みますか?」
「・・・まぁ、貰うよ。」
来る途中に買ってきていた缶コーヒーを一つルーさんに渡し、私達三人は何を祝ってか、缶コーヒーで乾杯をした。
「んく・・・あ、このコーヒー私のより美味しい。」
「大抵はそうだと思いますよ。」
「ぐっ・・・いや、どこかに一つくらいなら、私以下の缶コーヒーが―――」
「いや、カフェの店員ならもっと自分のコーヒーを美味しくしようと努力してくださいよ・・・。」
100円で買える缶コーヒー相手に対抗心を燃やすルーさんに、サヤカも流石に呆れてしまっていた。この調子じゃ、まだここではコーヒーを飲まない方がいいな。
「それで?何か悩みでも話しに来たの?」
「ルーさんが言ったじゃん。いつでも来ていいって。」
「いやそりゃ言うよ?二人とは仲良くなりたいしね?けど流石に毎回何も注文しないで来られたらさ、何の為に私はここに立ってるのって話な訳で。」
「じゃあ私の隣に座ってくださいよ。ずっと立ったまま聞いてもらうのも何ですし。」
私がそう提案すると、ルーさんは「こいつマジか!?」というような驚愕の表情を浮かべ、私があげた缶コーヒーを手に、私の隣の席に座ってきた。
「・・・はぁ。なーんか私、アキちゃんにナメられてきてる気がするなー。」
「ナメてるのはコーヒーだけですよ。」
「それ私の事をナメてるって言ってるのと一緒だからね?」
「・・・あの、ルーさんは、いつからそんなにアキと仲良くなられたんですか?」
「最近結構来るから、嫌でもなっちゃうよ。なんか、生意気な弟って感じかな?」
「それじゃあルーさんはおじさんですね。」
「ほら、こういう所。」
「ふふ。確かに、アキはなんか、妹っていうより弟って感じですね。」
両隣から男として扱われている・・・一応私って女の子な訳なんですけど。
「サヤカちゃんはあんまり来てくれないから知らないけど、なんか優等生って感じがするなー。」
「いや、それほどでも・・・。」
「その言い方が優等生って感じ。君とは真反対だね、弟よ。」
そう言いながら、ルーさんは私の頭を撫でてきた。別に年上の人から好かれるのは嫌じゃないけど、言い方が気に喰わなかったので、私もルーさんの頭を撫でてあげた。
すると、ルーさんはまた「こいつマジ?」みたいな表情を浮かべ、今度はあからさまに苦笑いを浮かべた。流石にやり過ぎたようだ。
「アキちゃんは将来、ビッグになるよ・・・。」
「ありがとうございます・・・あ、そうだ。」
唐突に、私は歴史の先生が言っていた枝の事を思い出した。沢山の変な物を店に飾っているから、ルーさんなら何か知ってるかも。
「ルーさん、枝って知ってますか?」
「馬鹿にしてる?」
「あ、いや違くて、えーと・・・サヤカ、なんだっけ?」
「はぁ・・・多々良之枝。この街で昔祀られていた枝みたいなんですけど。」
「多々良之枝?・・・あー、あれか。」
すると、ルーさんは席から立ち、店の端に置いてある宝箱のような箱から細長い木箱を取り出し、それをテーブルの上に置いた。
テーブルに置かれた木箱は時代を感じさせるような古さがあり、木箱に書かれている文字は恐らく日本語であると思うが、かなり独特な癖があって読めない。
「ルーさん、これは?」
「開けてみてよ。」
まずは見てみろと催促され、私は木箱の蓋をゆっくりと開け、サヤカと共に箱の中にある何かを覗き込んだ。
そこには、紫色の布に包まれた枝があった。入れられていた木箱の古臭さとは真反対な綺麗な枝だ。
そしてその枝には、目を惹く特徴があった。
「「金色の葉・・・。」」
聞いただけで実物を見ていない私達でも、それを見た瞬間、この枝が何なのかをハッキリと理解した。
それは紛れもなく、多々良之枝であった。
岸サヤカ
・好きな時代は室町時代。
黒澤アキ
・特に好きな時代は無いが、戦国時代の武将に興味がある。
ルー・ルシアン
・好きな時代は昭和。




