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岸サヤカはツンデレのつもりでいる  作者: 夢乃間
二章 暗闇からの招き手
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おまじない

『裏庭に来なさい。』


休みの日にゴロゴロと過ごしていたら、こんなメールがサヤカから届いた。裏庭って、サヤカの家の?まだサヤカの家に両親がいた時は、小っちゃい裏庭で花や野菜なんかを植えていたな。

けどサヤカの両親がいなくなってからサヤカは何も手をつけてないって言ってたけど・・・何か植えるのかな?

とにかく私はサヤカの家の裏庭に向かう事にした。家から出てサヤカの家の前に行き、裏の方へ回っていくと、サヤカが地面にブルーシートを敷いていた。


「あら、意外と早かったわね。」


サヤカの美しくも可愛らしい微笑みに頬が緩むが、彼女の手に握られていた物を目にして背筋がゾクリと凍え走った。彼女の手には、銀色に光るハサミが握られていた。


「サヤカ・・・何、するの?」


「晴れて良かったわ。こんな良い天気じゃなきゃ外に出れないし。中でやれば、散らかって片付けが面倒臭くなっちゃうしね。」


中でやれば・・・中で殺れば!?


「私、何かサヤカを怒らせるような事したかな!?」


「別に無いわよ。それに、前からやろうと思ってたし。」


前から!?殺ろうと!?ちょっと待って、何が原因でそうなっちゃったの!?・・・落ち着け、ここは誰の目につかない場所だけど、叫べば誰かが異変を感じて来てくれる。けどそうなれば、彼女は警察に、最悪刑務所に行ってしまう。

だけどこのままじゃ、人知れずサヤカに殺されて終わりだ・・・いや、彼女に殺されるのなら、別に何も悪い事じゃない。むしろ、サヤカに殺されて良かったと思えるだろう。


「・・・いいよ、サヤカ。今まで抱えた分、思いっきりやって?」


「え、思いっきり?そんなに切られたいの?」


「細切れでも千切りでも良い・・・サヤカに殺されるのなら、それで・・・。」


「・・・はぁ?」


「・・・へ?」


ん?なんかサヤカの反応が思ってたのと違う・・・あ、そっか。


「そっか、私の髪切ってくれるのか。」


「ええ、そうだけど・・・あんた、また推理小説にハマってんじゃないでしょうね?」


「いや、最近は読んでいないんだけどねー・・・。」


「はぁ、馬鹿ね・・・安心しなさい、あんたを殺す時はもっと良い場所で殺してあげるから。」


今度からサヤカと遠出する時は遺書の準備をしておこう。読んでくれるのはサヤカしかいないけど。

気を取り直し、私は外に出されていた椅子をブルーシートの真ん中に置き、そこに座った。すると、サヤカが大きめの布を私に纏わせ、端と端をピンで留める。形だけ見たら、本物の床屋みたいだな。


「準備オッケ―ね。それじゃ、切り始めるわよ。」


「いいよー、じゃんじゃん切っちゃってー。」


「はいはい、丸刈りね~。」


そんな冗談を言いながら、サヤカは櫛とハサミを使って私の髪を切り始めた。前にも何度か切ってもらっていたが、こんな風に外で切ってもらう事は初めてだ。室内の時とは違い、外という開放的な場所で髪を切ってもらうというのは、気持ちがいい。


「外で髪切ってもらうって、なんか新鮮でいいね。」


「風が弱くて良かったわ。少しでも強い風が吹いちゃえば、切るのも一苦労だし。」


「次切ってもらう時も外がいいな~・・・あ、そうだ!次は私がサヤカの髪を―――」


「私はちゃんと美容院で切ってもらうからいいわよ。大体、免許も無い人に髪を切ってもらうなんて、普通ありえないわよ?」


「そうなんだ。でもサヤカっていちいち細かいし、こういうのも得意でしょ!」


「・・・それ、褒めてるの?とにかくあんまり動かないでよ、お客さん。」


ハサミが髪を切る音が耳に聴こえてくる。私はこの音が好きだ。理由を言葉にするのは難しいけど、なんか心が落ち着く。しかも切ってくれるのがサヤカだからか、とてもリラックスした状態で、切ってもらっている間は何もかも忘れられる。

ポトリ、ポトリと太ももの上に落ちていく私の髪の毛。たまに黒髪に混じって違う色があるのを目にして、それが白髪じゃない事を知ってホッとする。

こんな小さな、何でもない事だけど、なんだかとっても心が温まって落ち着く。


「これは、お金を払わないとね。」


「私の指名料は高いですよ、お客さん。」


「指名料?そんなのあるの?」


「あるわよ。金額は基本的に千~2千くらいかしら?私もあんまり詳しくないから、ハッキリと言えないけどね。」


「へぇ~。それで、サヤカさんの指名料は?」


「3千円ね。それに施術費・手間賃・場所代・その他諸々合わせて、4万円ね。」


「友達割引は効く?」


「それじゃ、3万円ね。」


「随分安くなるね。それじゃあ、将来ビッグになったら払うよ。」


「花屋で?それなら、3万円分のお花をプレゼントしてもらおうかしら。」


あー、本当に落ち着く。気温も高過ぎず、肌を撫でる程の優しい風が吹き、どこからか聞こえてくるセミの鳴き声が夏を感じさせる。そして傍には、大切な人が笑ってくれている。

良い日だ、本当に。この時間がずっと、永遠に流れればいいのに。そうすれば私も、サヤカも、ずっと幸せでいられる。

けど、こういう時にいつも思う。この幸せな時間よりも、もっと幸せな時がきっと来る。だから永遠なんてものはいらない。私には、大切な人と過ごせる時間が必要なんだ、と。


「・・・ねぇ、サヤカ。」


「ん~?」


「髪を切り終わったら、どこかに遊びに行こう。」


「どこに行く?」


「ショッピングセンターに行って服を買いに行ってもいい。公園でゆったりと過ごすのも悪くない。とにかく、どっかに行こう・・・今日は本当に良い天気だから。」


「そうね・・・はい、とりあえず終わり。仕上げをするから、目を閉じて。」


「目を?・・・うん、分かった。」


目を閉じ、ジッと待つ。すると、おでこに何か柔らかい物が当てられた。これは何だろう?そう思いながら目を開け、下に散らばった私の髪をホウキで集めているサヤカに尋ねてみた。


「サヤカ、今のって何をしたの?」


「おまじない。私が髪を切ってあげた事を忘れない為のね。」


「へぇー。」


おまじないをされた時、サヤカの匂いを近くで感じたけど・・・ま、この様子から察するに、別に変な事はしてなさそうだ。

岸サヤカ

・髪を切る時は行きつけの美容院に行っている。何度も同じ店に行っているが、未だに店員と話す事が出来ない。


黒澤アキ

・髪を切る時はサヤカか、昔からある床屋のおばちゃんに頼んでいる。

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