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岸サヤカはツンデレのつもりでいる  作者: 夢乃間
二章 暗闇からの招き手
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岸サヤカは変わり始めた。

新章!夏編!開幕!


変わらぬ二人の関係が変わり出す、彼女達の夏の日常をお届けします。

アラームの音で私は目を覚ました。大きく口を開けてあくびをして、二度寝をしないようにベッドから飛び起きる。寝間着をパッと脱ぎ捨て、クローゼットにかけてあった制服に着替え、脱ぎ捨てた寝間着を手に1階に下りていく。

1階のリビングにつき、食パンをトースターにセットし、焼き上がるまでに脱ぎ捨てた寝間着を洗面所にある洗濯機に放り込む。


「うっへぇぇ・・・寝癖が・・・。」


リビングに戻ろうとした時、洗面台の鏡に一瞬映った自分の今の髪に驚いた。まるで風に吹かれた木のようだ。最近髪を切りに行けてなかったから、結構伸びちゃったな。


「・・・私の床屋さんに頼むとしますか。」


しかし、この寝癖を直すにはかなり時間を使いそうだ。今の時刻は7時・・・今から直せば、彼女を待たせてしまう。


「オールバックにでもするか。」


洗面台に置いていたワックスを手に付け、髪を後ろに流していく。3度髪を流すと、私の髪は立派なオールバックになった・・・うん、まぁいいか。


キィン!


トースターの音だ。という事は、もう5分経ったのか。歯磨きをサッと済まし、リビングで今か今かと待っているカリカリに焼き上がった食パンを手に取り、何も付けずに食べながら学校のカバンを手にして玄関に歩いていく。

靴を履き終え、食パンの最後の一口を口に放り込み、私は扉を開けて外に出た。


「・・・おはよ、サヤカ。」


家の前の塀に寄りかかっているサヤカに声を掛けると、サヤカはパッとこちらに振り向き、眩しい笑顔を向けたと思いきや、すぐに不機嫌な表情に移り変わってしまう。


「なに、その髪・・・。」


「これ?寝癖が酷くってさ。あ、そうだサヤカ。近い内に私の髪切ってよ。」


「・・・はぁ。まぁそれは置いておいて・・・口、尖がらせて。」


「え?口?」


言われたまま口を前に突き出して待つと、サヤカはゆっくりと私の方へ近づいてくる。これって、もしかして朝の口づけってやつ!?朝から大胆だよサヤカ!

まぁでも、別に嫌じゃない。むしろ嬉しい事だ。外でなら私の理性が保てなくなる事は無いだろうし、今日は天気も良い。

朝一番にこんな嬉しい事が起きちゃったら、今日一日ハッピーに過ごせそうだ!さぁ、サヤカ!遠慮なく私に飛び込んできなさいな!


「サヤカ、ん~。」


「あんた口の周りにパンカス付け過ぎ。これで学校に行こうとしたの?」


唇から感じたのは、布のようなサラサラとした感触だった。目を開けて確かめてみると、サヤカはハンカチで私の口の周りを拭きとっていた。


「・・・あ、そっち?」


「そっちってどっちよ?あんた他にもカス付けてんの?」


「いや、何でもないよ。」


「・・・あー。なるほど、なるほどね~。」


サヤカは私の口の周りを拭き終えると、イタズラな笑みを浮かべて私の唇を指で挟んで引っ張ってきた。


「ふぁふぃふんふぉ?」


「私にキスされるかも、とか期待してたんでしょ?」


「ごめいふぁふ。」


「ふふ、バーカね~。私が朝っぱらからそんな恥ずかしい事するはずないじゃない。」


サヤカは唇から指を離し、私の頬をペチペチと叩いてから私の下から離れていった。


「さ、行くわよアキ。モタモタしてたら遅刻しちゃうわ。」


そう言いながら、サヤカは太陽にも負けない程の眩しさの笑顔を見せてくれた。最近のサヤカにはドキドキされっぱなしだ。前までは私がその役割だったのに、今じゃ立場逆転。金髪ツインテールの可愛い小悪魔だ。

けど、ドキドキされるのも悪くない。サヤカの言葉や行動でドキドキするこの胸の高鳴りが、私がどれほどサヤカの事を好きなのか再確認出来る。


あの日、私がサヤカの部屋に押し入った日から私達の関係はほんのちょっと変わった。恋人・・・とはいかないが、友達以上の関係になった。

登校する時は一緒に登校して、帰る時も一緒、遊ぶ時も晩御飯を食べる時も。一見、前と何ら変わっていないように見えるが、前とは違ってこれが当たり前の事になっていた・・・あれ?やっぱり前とあんまり変わんない?

分かんないけど、確かに前とは変わった事に確証を持てる。


「ねぇ、サヤカ。」


「ん?なぁに?」


「そりゃ!」


「うひゃ!?」


不意にサヤカの右手を握った。サヤカは驚いた声を上げ、頬を赤く染めながら私を睨みつけてくる。


「あんたいきなり何を・・・!こんな突拍子もなくするんじゃないわよ!」


いつも通り、サヤカは怒った口調で私に訴えかけてくる。一つ違うとすれば、今までは手を振り払っていたが、今は手を振り払う事はなく、逆に強く握りしめてきた。

ほんの少しずつだけど、サヤカは素直になってきている。


「サヤカは可愛いね。」


「ほらまたそんな・・・!あんたねぇ!?」


「そんな怒っちゃっても、まだ手を握ったままだなんて。体は正直なようだね?」


「変な言い方するな!?こ、これは・・・別に!」


言い訳が思いつかなかったのか、サヤカは私から顔を背け、小さな声でグチグチと何かを呟いている。正確に聞き取れないが、この状況を嫌がっているような言葉は出てきていないようだ。


「・・・あ、そうだ!」


ワザとらしく声を大きく出しながら、サヤカは私から手を離し、自分のカバンの中から何かを探し始めた。


「はいこれ!」


「・・・小型のブーメラン?」


「違うわよ!これはカチューシャ。あんたも一応女の子なんだから、せめてこういうのくらい付けてきなさいよね?」


そう言って、サヤカは背伸びをしながら私の頭にカチューシャを付けると、急に腹を抱えて笑い出した。


「ぐふっ、あはははは!!!」


「どうしたの?」


「あ、あんた、カチューシャ似合わな過ぎて・・・!ご、ごめん、あはははは!!!」


「え~・・・そんなに似合わない?」


携帯の画面に自分の姿を映すと、そこには女装なのか男装なのか分からない中途半端な奴が映っていた。確かに、これは笑える。まさかここまで私に似合わない小道具があるなんてね。


「これは傑作!次からは毎日これ付けて来ようか?」


「や、やめて!わ、私のお腹、笑い過ぎて壊れちゃうから!」


「あはははは!!!」


「あはははは!!!」


「ちなみに後5分で遅刻だよ。」


「くだらない事で笑ってないでもっと早く言いなさいよ!?走るわよ!」


スッと切り替えたサヤカは、慌てた様子で学校へと走っていった。なんとも理不尽な事を言われたものだ。まぁ、そこもサヤカの可愛い所なんだけどね。


「待ってよ、サヤカ!」


少し遅れて私もサヤカの後を追いかけ、彼女の隣に並んで一緒に学校へと走っていく。


セミが鳴き始め、青空に鳥達が飛び交う今日この頃。未だに一歩踏み出せない私と、変わり始めたサヤカ・・・昔から変わらなかった関係が少しだけ変わり始めた、私達の夏が始まった。


岸サヤカ

・納豆には醤油だけかける。


黒澤アキ

・納豆には醤油・カラシ・ネギ・焼き肉のタレを少しかける。

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