亀裂
私の部屋にはパソコンが無い。別に無くても不便はないが、たまにパソコンを触りたくなる。そんな時は、サヤカの部屋に遊びに行き、彼女のパソコンを触らせてもらっている。
「それで?今日は何を調べるの?」
「ん~・・・天気でも見るか。」
「それくらいテレビでいいでしょ・・・。」
「いや、毎回の事なんだけどさ。いざパソコンの前に立つと、何を調べればいいか頭に浮かんでこないんだよね。」
「じゃあ何で使いに来るのよ・・・。」
サヤカに見守られながら、私はマウスを動かしてネットを起動させる。起動すると、検索したいものの文字を打つスペースがあるので、そこに文字を打とうとキーボードに指を置く。
「えーと。て、て、て・・・・あれ?」
キーボードにある【て】と書かれてある場所を何度も押すが、表示された文字は【w】であった。
「サヤカ、これ壊れてるよ?」
「あー、もう!いい加減文字ぐらい打てるようになりなさいよね!」
私が座っている椅子に無理矢理座ってこようとしてきたので、右に少しズラしてサヤカがギリギリ座れるくらいのスペースを作る。そこにサヤカは座り、彼女は慣れた手つきでキーボードを打ち込み、あっという間に天気予報のページを開いた。
「おー、流石はサヤカ。インテリだねー。」
「今の時代はパソコンくらい使えなきゃ駄目よ?」
「とは言うけどさ、私の家にパソコン無いし。それにパソコンって色々種類があるでしょ?どれを買えばいいか分かんないんだよ。」
「使う用途によって値段が違うし、下手に高いパソコンを買っても持て余すしね。まぁ、あんたなら3万円くらいのやつでいいんじゃない?」
「3万かー・・・また今度考えとくよ。」
そう言って、もう1年以上経とうとしている。値段もそうだけど、最初の設定をするのが面倒くさいんだ。携帯でさえサヤカに頼り切りだったのに、パソコンとなれば、泊まり込みでやってもらう事になるかもしれない。
「お、明日からずっと晴れるらしいよ。」
「へぇー。しかも気温もあんまり高くないみたいね。」
「新しく買った扇風機の出番は見送りかな・・・ん?」
サイトを下へ下へと見ていくと、端っこにある相性占いというものに目が留まった。吸い寄せられるようにそこへカーソルを動かしていき、迷わずクリックすると、画面一面が黒く染まり、相性占いという文字がデカデカと浮き出してきた。
「あら。あんた占い信じるの?」
「いや、別に。サヤカは?」
「私は半信半疑ね。悪い結果の時は忘れて、良い結果の時だけ記憶の端に残しておくの。」
「都合のいいとこだけを切り取るってか?」
「そういうものよ、占いって。」
「ふ~ん。それで、これってどうやるの?」
「多分、ここの空白に二人分の名前を書くんだと思うわ。」
サヤカは空白に私の名前と、何故かもう一度私の名前を入力した。これって相性を占うやつだよね?
確定ボタンが押され、しばらく待っていると、画面一杯に60%という数字が表示された。
「微妙な数字ねー。100%だったら面白かったのに。」
「これって高ければ高い程良いんだよね?だったら結構当たってるかも。」
【次へ】と表示されている場所をクリックすると、占いの細かい情報が次々と出されていく。
『あなた達は気持ちを正直に伝えられずにいます。もう少し素直になれば、もっと高い数値になるでしょう。』
ここに書かれている事はほぼ当たっていると思う。私は自分の気持ちを全てサヤカに伝えている訳ではない。その点ではこの占いの結果は当たっている。
けど、その気持ちをさらけ出して、私は私の事を好きになれるのかと言われると、違う。きっと逆に、私は私の事を嫌いになるだろう。
「次は、サヤカと私にしてみようよ。」
「え?私達?」
「いいでしょ?」
「いや・・・いいけど、さ・・・。」
なんだ?急に大人しくなったな。心なしか体をモジモジとさせているし、頬だって赤くなっている。
さっきまでの軽い感覚で文字を入力していた時とは違い、一文字一文字をゆっくり確実に入力していく。
『黒澤アキ 岸サヤカ』
「それじゃあ・・・いくわよ。」
サヤカは恐る恐るに決定ボタンをクリックし、数秒待つと、結果が画面に表示される。
『0%』
「「・・・え?」」
画面には0%と表示されている。この結果に私はショックを隠せなかった。しかし、本当にショックを受けたのはサヤカだろう。さっきから瞬きせずに画面を見たまま固まっている。
「サ、サヤカ?」
「0・・・。」
「いや、たかが占いだから!あんまり気にしなくていいと思うよ!」
なんとか慰めようとしたが、サヤカの機嫌が直る様子はない。とにかく画面を消さないとと思い、慣れない手つきで次のページに進んでいく。
すると画面が切り替わり、画面にはさっきの占いの細かい情報が書かれていた。
『あなた達は相手に隠し事が多すぎます。今は良いかもしれませんが、このまま隠していると、近い内に亀裂が走るでしょう。』
「余計なお世話だ!」
書かれていた内容にイラついた私は強引にパソコンの電源を切り、画面は真っ暗になった。しまった、感情に任せて強引に消しちゃったけど、壊れてないよね?
不安になりつつ、サヤカの方へ視線を向けると、サヤカはさっきよりも表情が暗くなっており、歯を噛み締めていた。
「サヤカ、大丈夫?」
「・・・大丈夫よ!」
サヤカはパッといつもの強気な彼女へと変わり、椅子から立ち上がってベッドの中に潜り込んだ。
「ごめんだけど、私結構眠くなってきちゃって、今日は帰ってくれない?」
「いいけど・・・本当に大丈夫?」
「大丈夫ったら大丈夫。今度の休みに、あんたのパソコンを見に行きましょう。」
「うん、分かった・・・それじゃあ。」
サヤカの部屋の窓から私の部屋の窓へと飛び移り、自分の部屋に帰る。するとサヤカの部屋から、すすり泣くような声が微かに聞こえてきた。
今すぐもう一度サヤカの部屋に飛び入って抱きしめてあげたい・・・けど、それは出来ない。それが出来る自分なら、こんな風に自分の部屋に逃げるように帰ってはこない。
結局私がした事は、自分の部屋の窓を閉じ、壁に寄りかかって座る事だった。
「こういう時、真っ先に助けにいけると思ってたんだけどな・・・。」
理想の自分と現実の自分の違いが嫌になる。結局私は、自分からサヤカに好意を伝える度胸なんて持ち合わせてはいないんだ。
岸サヤカ
・調べもの以外でパソコンを使う事は無い。
黒澤アキ
・パソコンが欲しいと思ってはいるが、買って何をするのかは考えておらず、1週間で触らなくなる。




