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岸サヤカはツンデレのつもりでいる  作者: 夢乃間
一章 ほのぼのとした日常
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岸サヤカは小悪魔だ。

今日は一限目から化学の授業だ。化学の授業って苦手なんだよね。授業っていうのは各分野に分けられているはずなのに、化学は数学も混じってある。先生が黒板に書いたのをノートに写していると、あれ?自分は今化学の授業を受けているの?それとも数学?なんて事を考えてしまう。

お陰でテストの点数はいつも悪い。


「私は化学者にはならない方が世の為だな。」


「唐突にどうしたのよ?自虐する暇あるなら教科書出しなさいよ。」


「国語の教科書出したら国語の授業にならないかな?・・・あれ?」


サヤカからのツッコミが来ない。いや、来る前提なのはおかしいが、いつも返してくれるから珍しく感じる。どうしたのかと隣を見ると、サヤカは真っ青な顔をしながら、机の中に突っ込んでいた手を見つめていた。


「どうしたのサヤカ?」


「・・・無い。」


「何が?」


「教科書・・・昨日勉強する為に持っていったから、部屋に置いたままだと思う・・・。」


「家でも勉強するなんて偉いね、サヤカ。」


「えへ、ありがとう!・・・じゃないわよ!あー、どうしよー!」


そこまで慌てる必要は無いだろうと思ったが、既に先生からの評価が落ちている落ちこぼれの私とは違い、サヤカは優等生だ。こういった小さな事で優等生のイメージが崩れるのが嫌なのだろう。


「良かったら、私の教科書使う?」


「え?だけど、あんたはどうすんのよ?」


「いいのいいの。あっても無くても、同じようなものだから!」


「笑って言う事じゃないわよ・・・なら、こうしましょう。」


すると、サヤカは自分の机を私の机と合体させ、私の教科書を真ん中に移動させた。


「これならお互い見れるでしょ?・・・にしても、なんか懐かしいわね。」


「あー、確かに懐かしいね。昔、毎日のように何かの教科書を忘れた私に、サヤカはこうやって自分のを見せてくれたよね。」


「今は逆になったけど・・・くそっ・・・!」


そこまでか?そこまで悔しいのか?何千と忘れてきた私と比べたら、一度忘れたくらいじゃノーカンみたいなものでしょ。


「そういえば、あんたは教科書以外にも忘れてきてたわね。」


「あれ?そうだっけ?」


「そうよ。例えば・・・エプロン!家庭科で使うエプロンを忘れてきたって言って、自分が着ていたパーカーをエプロン代わりにしてたわね。」


「着ていた服をエプロン代わりって・・・それ意味ある?」


「どうしてあんたが私に聞くのよ?あとは・・・リコーダーだっけ?」


「あ、それは憶えてる!」


懐かしい。あれは確か、小学校の時だ。音楽の授業でリコーダーを忘れた私は何を思ったのか、サヤカが吹いているリコーダーの音が出る穴に口を付けて吹いたな。

結局音は出ないわ、サヤカは私をリコーダーでぶん殴るわで散々な目に合った。


「あの時は楽器の仕組みなんてサッパリ分からなかったからね。」


「今もじゃないの?」


「流石にもうリコーダーがどこから音が出るのかは知ってるよー!」


「じゃあドはどこを抑えたら音が出るかしら?」


「いや、あの後一度も自分のリコーダー吹いた事無いから分かんないや。」


「・・・化学者だけでなく、音楽家にもならないでね。」


私はサヤカに嘘をついた。最初に忘れてきて以来、私はリコーダーを忘れ続けた訳ではない。持ってこなくなった理由は、私がリコーダーにトラウマを植え付けられたからだ。

あの日の夜、私は部屋で自分のリコーダーを探していると、ベッドに下に転がり込んでいた事に気付いた。リコーダーに手を伸ばし、どんな音が出るのか吹いてみようと穴を見ると、穴から小さな虫が一匹出てきたんだ。

その時感じた気持ち悪さが原因で、リコーダーはもちろん、虫にもトラウマを抱くようになってしまった。

しかし、改めて振り返ると、私はサヤカに迷惑を掛けてばかりだな・・・いや、待てよ?そういえば一度、サヤカに私の何かを貸してあげた事があったような気が・・・。


「あー、あれか。」


「あれ?あれって、どれよ?」


「サヤカ、憶えてない?中学の運動会で、私達のクラスが負けそうになった時の事。」


「っ!?・・・ええ、憶えてるわ・・・あんたがヒーロー気取りになった時ね。」


そう、あれは確か最終種目の時。私のクラスは他のクラスと比べて圧倒的に負けていた。そして最後の種目になり、その種目で一位になれば逆転勝利出来るポイントを得られる時だった。

その種目はグラウンドを一周走る長距離走だ。そしてその種目に出るはずだったサヤカは、自身に圧し掛かるプレッシャーに耐え切れず、泣いてしまった。

私は幼少期の頃からサヤカが好きだったから、泣いているサヤカの顔は見たくなくて、私は着ていたジャージの上をサヤカに被せて「選手交代だサヤカ。私が代わりに全員ブッ飛ばしてやる!」と言った。

結果はもちろん私が独走状態で勝ち、見事私達のクラスは優勝した。思い出してみると、結構カッコつけていたな。


「そういえばずっと忘れてたけど、あの時貸したジャージってどうしたの?」


「・・・知らない。」


「無くしたの?まぁ、別にいいけど。ボロボロだったから新調しようとしてた時だったしさ。」


「・・・ごめん。」


「だから気にしなくてもいいって。」


「そうじゃ、なくて・・・やっぱいい。」


なんだろう、何か言いかけているのは分かるけど、一体何を言いかけたんだろう?その事について聞こうとした時、教室の扉が開き、化学の先生が現れた。


「はーい。それじゃあ授業を・・・あれ?岸さんと黒澤さんはどうして席をくっつけてるの?」


「あ、いや実はですね、サヤカが―――」


「黒澤さんが教科書を忘れたので、私が見せてあげてます。」


あれ?


「そうですか。流石は岸さん!みんなも岸さんのような優しい心を持とうねー!」


すみません先生、私の隣のサヤカさんは平気で私を利用する小悪魔なんですよ。このクラスのみんながサヤカのような小悪魔になったら地獄絵図になると思います。


「サヤカー?」


「ふふ。ごめんね、アキ。」


首をかしげながらイタズラな笑みを浮かべたサヤカ。うん・・・サヤカになら、私の全部を盗まれてもいいや。

岸サヤカ

・自分が泣いている姿を隠す為に動いてくれたアキの姿を鮮明に憶えている。


黒澤アキ

・高校に上がるまで、サヤカに毎日教科書を見せてもらっていた。

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