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岸サヤカはツンデレのつもりでいる  作者: 夢乃間
一章 ほのぼのとした日常
2/81

岸サヤカは力持ちのつもりでいる

授業終了のチャイムが鳴り、黒板に音を立てて書き続けていた先生の手が止まった。


「おっと。もう終わりか・・・それじゃあ今日はここまで。あ、そうだ。誰か職員室について来てくれ。集めていたノートを渡したい。」


誰も手を上げようとはしない。まぁ、いくらノートといっても束になればそれなりの重さがある。そんなのを積極的に運ぼうとする女子なんかいないだろう。


「先生!私が行きます!」


勢いよくそう言ったのは、サヤカであった。


「あと、アキも一緒に手伝います!」


「・・・え?」


私の方を見ずに指を差しながらサヤカは勝手に宣言した。いや、サヤカが行くなら私も行こうと思ってたからいいけどさ?


「そうか。それじゃあ来てくれ。」


「はい。それじゃあアキ、行くわよ!」


何故だろう、やたらと張り切っている。誰かの手伝いは普段から積極的にしている子だけど、ここまで張り切ってやるのは初めてな気がする。

まるで何かを自慢したいが為に、この状況を利用しているように思える。


私達が職員室に出向くと、先生の机の上にはノートの塔が立っていた。実際に見ると、これを一人で運ぶのはちょっと難しいかも。


「それじゃあサヤカ。私このくらい持つから、あとはサヤカが―――」


「ストップ!」


半分以上持とうとした時、私の手をサヤカが掴んできた。


「どうしたの?」


「今、自分は多く取って私の分を少なくしようとしたわね?」


「え?そうだけど?だって無理でしょ?」


「いつまでもお子様扱いは困るのよ!このくらいの量!私だって!」


そう言って、サヤカは私が持とうとしていた量以上のノートを持ち上げた。サヤカは持ち上げているノートの塔から顔を出すと、ほら見ろと言わんばかりのドヤ顔をしながら、おぼつかない足取りで先に行ってしまった。


「あの子、大丈夫なのか?」


「ははは・・・それじゃあ、残りも持っていきますね・・・。」


残されたノートを脇に抱え、私は急ぎ足でサヤカの後を追う。職員室から出ると思った通り、サヤカはフラフラと左右に動きながら、少しずつ足を進めていた。

私はサヤカの隣に近づき、彼女の顔を覗き込んだ。彼女は歯を噛み締めながら、グラグラと揺れるノートの塔と僅かに見える前方の視界に集中していた。


「ねぇサヤカ?少し持とうか?」


「こ、これくらい余裕よ!」


「いや、そんな顔で言われても説得力なんか無いよ。」


「余裕って言ってるでしょ!?今集中してるんだから話しかけないで!」


全然余裕じゃなさそうだ。というか、ノートを持っている腕もプルプルと震えている。ますます分からなくなってきた。なんでサヤカは無理をしてでも私よりも多く持とうとしてるんだろう・・・あ、なるほど。私よりも力がある所を見せたいのか。

昔から女の子らしいサヤカと比べて、私は男の子みたいな背や力があるから、こういった力仕事はいつも私がやっていた。そこでツンデレ期間中の今、私よりも優位に立とうとして無理をしているのか。

なら、ここは何も言わずに、サヤカの頑張りを見守っていよう。


「ッ!?」


「ん?どうしたの、サヤカ?」


サヤカの足が突然止まった。


「やっぱり重かった?」


「・・・別に。」


そう言うも、サヤカは一歩も動こうとしない。それどころか、腕の震えは増している。そろそろ限界なんだろう。手伝おうかと言えばきっとサヤカは拒否してしまうので、私はサヤカには何も言わずに半分以上を奪い取った。


「あ・・・。」


「ほら、早く行こ。」


「・・・うん。」


積み上がったノートを減らした事で、サヤカの明らかに落ち込んだ表情が見えた。今すぐにイジワルしたくなりたいのを抑え、私達は教室にノートを運んでいく。


教室に運び終え、席に戻るとサヤカは机に顔を突っ伏せて未だに落ち込んでいた。私は彼女の席の前に立ち、どうしてあんな事をしたのかを聞いてみた。


「ねぇサヤカ。どうしてあんな無茶な事したの?」


「・・・無茶じゃないもん。」


「でも結局、ほとんど私が持っていったよね?」


「・・・から。」


「え?」


「私だって出来る事を証明したかったから・・・いつもアキに頼ってばかりだったから。」


涙目を浮かべたサヤカが私を見上げながら呟いた。てっきり私より優位に立ちたいから無茶をしたかと思っていたが、理由はシンプルに私の為だった。

嬉しい・・・けど、私に頼ろうとしなかった彼女に、私の心の奥底から湧き上がる黒い感情も浮かんでいた。


サヤカにはずっと私に頼り切りになってほしい。私がいなきゃ何も出来ないようにさせたい。


そんな自分の気持ちを抑えながら、私は彼女の頭を優しく撫でてあげた。


「サヤカの気持ちは嬉しいけど、無茶をして怪我をしたら嫌だよ。だから、今はまだ私に頼ってよ。」


「・・・うん、ありがとう・・・えへへへ。」


サヤカは泣き止むと、撫でられている猫のように幸せそうな表情で、私の撫でる手を堪能していた。

そんな彼女に改めて私の黒い感情は湧き上がり、ニヤケながら彼女の髪や頬を撫で続けた。


(ずっとずっと・・・サヤカはこのままでいてね?)


岸サヤカ

・身長150 


黒澤アキ

・身長179 

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