岸サヤカは猫派である。
タイトルのパターンを増やしてみました。決してネタ切れではありません、多分。
珍しく今晩はサヤカの部屋に招待された。いつもは私が断りもせずに行くのが当たり前だったから、誘われた時はちょっと驚いた。なんでも、見せたい物があるらしい。なんだろう、新しい服とかかな?
サヤカが私に見せたい物を想像しながら、窓から窓へ移り、サヤカの部屋へお邪魔した。
「お邪魔ー。」
「あら、早かったわね・・・って、あんたはお風呂上りに髪も乾かさないズボラな人だものね。」
「失敬な、タオルでちゃんと拭いてるよ。」
「逆に濡れっぱなしだったら問題よ。それより、あんたに見せたい物があるのよ!」
「随分ご機嫌だな。」
「そりゃそうよ!頼んでいた本がやっと来たもの・・・これよ!」
そう言って渡してきた本は、フカフカの毛布の上で眠っている子猫が表紙の写真集であった。なるほど、これが届いたからご機嫌なのか。そういえばサヤカは猫が好きだったもんな。
「写真集ね~、読んでも?」
「読みなさい読みなさい!」
椅子に座って写真集を開こうとすると、サヤカは私の背に寄りかかり、顎を私の頭の上に乗せてきた。中々可愛い事してくれる。このまま写真集を開かずにサヤカを愛でたいよ。
でもそんな事をしたらぶん殴られる事は目に見えているので、黙って写真集を開く事にした。
「おぉ、可愛いな。」
「わぁ~!可愛いー!」
一ページ目から猫のあざとさを見事に収めた写真がデカデカと載っていた。猫という生き物は不思議な奴だ。顔を少しかしげて見つめられるだけで可愛く見えてしまうのだから。
「お、次のページの猫は黒猫か。」
「黒い子もカッコ可愛いね!」
「次は白か。可愛いね。」
「白い子もお餅みたいで可愛い!」
「お次は茶色か。しかも豪華に四匹も。」
「みんな小っちゃー!お鼻が可愛いね!」
「そんでお次は―――」
「ちょっと待ってアキ。あんた読むの早くない?」
ページをめくろうとする私の手をサヤカは後ろから掴んできた。もうちょっとゆっくりめくっていけば良かったのかな?
「ねぇ、ちゃんとこの子達の可愛さに気付いてる?ねぇ?」
やめてサヤカ。顎で私の頭頂部をグリグリするのはやめてくれ。地味に痛いし、最悪剥げてしまう。
「もちろん可愛いのは分かるさ。ただ声に出してまで言う程のものか?」
「言う程のものでしょうが!この子達の可愛さで声を出さないって言うのなら、あんたは一体何で可愛いって声に出すのよ!」
君だよサヤカ。まぁ、サヤカが言いたい事を私なりに解釈するのなら、恐らくサヤカは私とこの猫の写真集を見て共感したかったんだろう。それなのに私が軽い感想しか言わないから怒ってるんだ。
けど、正直どう言っていいのか分からない。サヤカの可愛さについてなら夜通し語れるが、猫には可愛いというしか感想が出てこない。
「こんな可愛い子達を見て悶絶しないなんて・・・まさか、あんた・・・犬派なの!?」
てっきり私の気持ちがようやく伝わってくれたのかと思っていたから、犬派なのだと言われてズッコケそうになった。
でも、犬も悪くない・・・いや、結構好きだ。あの人懐っこい姿は猫には無い可愛らしさだと思う。けど猫よりも犬が好きという訳じゃなく、両方を平等に可愛いと思っている。
「まさか・・・あんたが、私の敵だとはね・・・!」
「サヤカ?ぐへぇ!?」
いきなりサヤカが私の首に腕を回して絞め始めてきた。本気で絞めてないから別に苦しくもないが、この後に私が言う返答次第では本気で絞めてくる気がする。
「サヤカ、私は別に犬の方がって訳じゃ―――」
「それじゃあ問題。あんたの目の前に腹を空かせた犬と猫がいます。さぁどちらを助ける?」
「えー?んーと、そうだなー・・・じゃあ―――」
「遅い!」
「ぐぇ!?」
今言おうとしたのに!?駄目だ、少しでも迷っていたら不正解扱いにされてしまう!とにかく猫の方を選ばないと!
「それじゃあ次の問題。」
「デーデン!」
「ふざけないで!」
「ぐぇぁ!?」
だってその言葉を言われたら効果音を口に出したいじゃん!駄目だ、茶々を入れてもペナルティが発生する・・・なんだこの理不尽なクイズは!?
「気を取り直して、問題。」
「デ・・・はい。」
「・・・猫が触れられて嫌な場所は?」
え、普通に知らない・・・なんだろう、お腹?
「えと、お腹・・・?」
「・・・。」
お、正解かな?
「馬鹿者ー!」
「あだぁ!?」
後頭部に頭突きは普通に痛いって・・・えー、何が正解なの?
「正解はその時々によって変わる、よ。」
正解が曖昧過ぎない?それってサヤカの事じゃないの?
「それじゃあ次。」
まだあるのかー・・・このままじゃ記憶が吹き飛びそうだ。どうにかして彼女の怒りを鎮めないと・・・いや、あるじゃないか。それもとっておきの物が!
「サヤカ、これどう?」
私は適当にめくったページに載せられていた猫の写真をサヤカに見せた。猫がきっかけで起きた事だ、猫でこの状況を鎮められるかも。
「んー・・・?」
あれ、なんか困っている感じの声だ。適当に開いたから、私もサヤカにどんな猫の写真を見せたのか分からない。そんなに変な写真なのかな?
「それを猫、と言ってもいいのかしら・・・?」
「え?」
サヤカに見せる為に掲げていた写真集を下ろし、私も見てみた。見せていたページには確かに猫の写真があった。いや、猫のような人と言った方が正しいか。
そこに載っていたのは、猫耳を生やしたカフェの店員のルーさんだった。
「あー・・・。」
よりによってこのページを開いてしまったのか。そりゃサヤカも悩む訳だ。というか、なんであの人が写真集に載っているんだ?猫耳を見せてくれた日、ルーさんは私達に誰にも秘密ねと言っていたはずなのに。それがどうしてこんな大衆向けの写真集に、こんな堂々と撮られているんだ?
「まぁ、ルーさんって美人よね・・・うん。」
「そうだね・・・。」
親しい人の恥ずかしい場面を見た時のような気まずい雰囲気が流れた。
「と、とりあえず違うページの所を見ようか。そして私にその子の可愛さを教えてよ。」
「そ、そうね。そうしましょうか。」
予期せぬ事だったが、ルーさんのお陰でサヤカの怒りは冷め、そこからサヤカによる猫の可愛さの解説が始まった。サヤカの言ってる事のほとんどが理解出来なかったが、楽しそうにしている喋るサヤカの声だけで、私も幸せになれた。
岸サヤカ
・圧倒的猫派である。犬派の人間が目の前に現れるとたちまち厄介な暴君と化してしまう。
黒澤アキ
・猫も犬も好きだが、それ以上にサヤカの事が好き。
ルー・ルシアン
・店の宣伝の為、猫耳カチューシャを付けていると嘘をつき、写真集に載せてもらった。大人びた容姿と可愛らしさが混ざり、予想以上に読者から人気が出て、彼女の写真集を望む者が続出する。
ちなみに店の宣伝はされていなかった。




