岸サヤカは怒っているらしい。
今年最後の百合作品、ご照覧あれ。
私は今、先生から用事を頼まれているサヤカを教室で待っていた。すぐに終わるとあの先生は言っていたが、もうかれこれ30分は経つ。私以外の他人に優しいサヤカの事だ、先生の日頃の悩みでも聞いているんだろう。
「早く来ないかなー・・・というか、今日のご飯何にしよう?」
席に突っ伏せながら、今夜の晩御飯を何にしようか考えていると、教室の扉が勢いよく開いた。その音にビックリしながら視線を向けると、サヤカが息を荒げながら私を睨みつけていた。
「お、サヤカ!やっと終わったの?」
「あんた!!!」
あれ、なんか怒ってる。しかも尋常でない程に。何かサヤカに悪い事したっけか?
「え、あのサヤカ?なんでそんなに怒ってるの?」
怒ってる理由を尋ねてみるが、サヤカ何も言わず、ただ怒りを露わにしながら私に近づき、一枚の紙を私の前に突き出してきた。
その紙は、この前提出したはずの進路希望であった。
「あんた!これどういう事よ!」
「どういうって・・・私の進路だけど?」
「そうねあんたの進路ね!それでこの内容は!!どういうつもりって言ってんの!!!」
え、何かおかしな事を書いただろうか?結構真面目に考えて書いたつもりだったんだけど。
「えっと・・・どこが問題なのかな?」
「ここ!ここに書いてある事よ!」
「えっとー・・・第一志望、岸サヤカさんと同じく。第二志望、岸サヤカさんと同じく。第三志望、岸サヤカさんと―――」
「なんで私を巻き込むのよ!?なんでか分からないけど、私が怒られたんだからね!?」
それで先生に呼ばれていたのか。というか、なんで先生はこれに怒ったんだ?だって自分の進路を書けばいいのだろう?
なら、私の進路はサヤカが行く場所だ。それ以外、選択肢なんて無い。
「ほらさっさと書き直して!次は真面目にね!」
「真面目にって、私は真面目に書いたんだけど・・・。」
「自分の進路に他人の名前を書く奴がいるもんですか!」
「いるじゃん、私。」
「自覚があるなら最初から書かないで!?ほら、ペン持って!」
私はサヤカに強引にペンを握らされてしまう。サヤカの小さく細い手が私の手に激しく絡みつく・・・これは良い、癖になりそうだ。
「はい握ったわね・・・どうしてニヤついているのよ?」
「はぇ?」
「もう!真面目にやって!これはあんたの将来に関わる事なんだから!」
「そうは言ってもさー、これが私の進路なんだよ。サヤカが行く所に、私も行きたい。」
「っ!?・・・ば、馬鹿なこと言ってないで、は、早く書きなさい!」
早く書きなさいと急かされているけど、本当にこれが私の進路なんだけどなー。けど、それをまた言ってしまえば、今度は引っ叩かれる気がする。現に、サヤカは私の前で腕を組みながら鋭い眼光で見下ろしている。
困った・・・自分の進路を書く為に自分に嘘をつかなきゃいけないなんて、それじゃあおかしいでしょ?
とにかくここは嘘でも何か書かないと。とりあえず書いてあるのを消して・・・さぁ!どうしよう?
「サヤカ、どうしよう?」
「なんで私に聞くのよ?」
「いやだってさ、ほんとにさっきまで書いてあった事が真実だったのに、それを駄目だと言うなら嘘を書かなきゃいけないし。」
「あんた嘘は得意でしょ?・・・まぁ、私と同じ進路にしたいって言うのはさ、正直嬉しい・・・。」
おー、見事なツンデレ。最近のサヤカ、ツンデレに磨きがかかってるね。おっと、それについては後で考えるとして、さて何と書こうか・・・。
「・・・あ、そうだ。」
「何か思いついた?」
「今日はコロッケにしよう。商店街の町田さんの所のコロッケ、今日安くなるんだよねー。」
「へー、私も今晩はそうしようかしら?」
「それじゃあ私の家で一緒にご飯食べようよ。そっちの方が楽しいし。」
「そうね、そうしましょう・・・いやいや違う違う!!!」
「え?コロッケは嫌?ならメンチカツも確か安かったよ。あ、でも売り切れてるかもね。」
「そうじゃなくて、今は進路の話をしてたでしょ!?今夜のご飯について考えてって言ってないわよ!」
くそっ、有耶無耶に出来なかった。いけると思ったんだけどな。とにかく、今夜の晩御飯は決まったし、サヤカも一緒に食べてくれる。そんな楽しい予定を組んだんだ、早く進路調査を書き上げなければ。
「うーん・・・それじゃあ、駅前の花屋にしておこう。」
「花屋?あら、随分可愛らしいわね。あんたにしては。」
「だって昔サヤカ言ったじゃん。将来は花屋さんになって、来てくれた人に合ったお花を渡す事が夢だって。」
「・・・それ、私の進路になっちゃうじゃん。」
「あ、そうか。参ったなー、やっと思いついたのに・・・。」
あとは、なんだろう・・・スポーツ選手?いや、無理か・・・カメラマン?いや、絶対サヤカしか撮らなくなる。でもサヤカの写真だけで埋め尽くした展覧会を開催するってのも面白そうだな。会場は最低でも東京ドーム以上の広さは必要だな、あと写真に合った音楽を奏でるオーケストラとか・・・うん、金が掛かり過ぎて無理だな。
「うーむ、どうしたものかー・・・。」
「・・・花屋でいいんじゃない?今はね。」
「え?でも、それってサヤカの夢で―――」
「そんな事、昔から付き合いのあるあんた以外誰も分からないわよ。さ、決まった事だし早く書いた書いた!」
「う、うん・・・それじゃあ、書くよ?」
サヤカに急かされながら、私は花屋と書いた。書き上げたと同時に、サヤカは紙を取り上げ、自分の席に置いていたカバンを手に取った。
「ほら、さっさとこれ渡して帰るわよ。早く帰らないと、コロッケ売り切れちゃうし。」
「そうだね。それじゃあ、とっとと済ませようか。」
自分のカバンを取り、サヤカの後を追うように教室から出ていく。教室を出た時、一瞬サヤカが私の進路が書かれた紙を見て笑っていた気がする。
「サヤカ、さっき笑ってなかった?」
「別に!」
「えー、やっぱり私が花屋ってのは似合わな過ぎるかな?」
「そうね。あんたは花の包み方も知らなそうだし、似合わないかもね。」
「う・・・や、やっぱり書き直そうかな・・・。」
「でも、いいじゃない。似合わなくたって・・・私が隣にいれば、様になるわよ。きっと。」
そう言いながら振り返ったサヤカの表情は、今まで見てきたサヤカの笑った顔の中で、一番可愛らしかった。
岸サヤカ
・幼少期の夢はお花屋さん。その理由はアキに似合う花を毎日プレゼントする為。
黒澤アキ
・サヤカがいる場所が自分のいるべき場所だと幼い頃から思っている。その為、将来の夢など考えた事は無い。




