1話
今作は友人との共同作品となります。
完全不定期投稿とはなりますが、気長にお付き合いください。
俺の名前は「六道 達也」。万年ボッチの高校三年生だ。
晴天の下でクラスメイト達が部活にいそしむ中、俺は『あるもの』を求めて一人柄にもなくウキウキとしながら歩いていた。
「昨日発売の最新刊、熱が出たせいで発売日に買いに行けなかったからなぁ。今日こそ絶対に買ってやる!」
そう『あるもの』とは俺の好きなラノベの最新刊のことだ。友達のいないボッチの俺にとってラノベを読むことは至福の娯楽なのだ!
そんなことを考えながら書店に向かう階段をおりていると、階段横の塀の上にうずくまっている何かが俺の視界に入ってきた。
「ん?」
よく目を凝らしてみるとそこには黒い毛をした一匹の猫がいた。だが、塀が思ったより高く降りられなくなってしまったようで、猫は丸く縮こまりながらキョロキョロと周囲を見渡して降りる方法を模索しているようだ。
俺は猫のほうへ近づきこう言った。
「降りられなくなったのか?」
自分で言うのもなんだが、俺は無類の猫好きだ。だからできるだけ助けてやりたいのだが……
「ジャンプじゃ届かねぇな。踏み台になるものは…」
そう思い周りを見渡して見ると、一つ隣の家の勝手口に剪定用の脚立が立てかけてあった。
「よし、あれを使おう!…非常事態だし借りても怒られないよな」
俺は脚立を猫がいる塀に立てかけ十分な高さまで登った後、猫に手を伸ばした。
「ほら、おいで。怖く無いから」
ゆっくりと伸ばした手がもう少しで届きそうになった瞬間、先ほどまで怯えて縮こまっていた猫が突然立ち上がった。
そして、伸ばしていた俺の手をスルリと避けると俺の乗っていた脚立を使って器用に塀から降り、見えない位置まで駆け抜けていった。
「あっ…」
後ろへ駆け抜けていった猫を目で追いながら俺は振り返った。しかし、それと同時にバランスを崩してしまった。
そして、俺の視界はどこまでも高い青空を映した後、後頭部への大きな衝撃とともに暗闇に包まれた。
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微睡む意識が、まるで水面へ近づいていくように覚醒に向けて歩みを進め始めた。遠くには輝く白い光のようなものを感じる。
そして意識はついに水面を破り目を開く。
「何処だ? ここ…」
俺は体を起こしながら辺りを見回す。しかし、焦点のあった俺の視界に映り込んできたのはどこまでも続く白い空間だった。
混乱していると、座り込む俺の頭上に何者かの影が落ちてきた。反射的に上を見上げると、そこにはこの異様な空間にいる事に違和感を感じさせない不思議な雰囲気の女性がこちらを覗き込んでいた。
「初めまして六道達也さん、ここは世界の境界。
あなたは剪定用の脚立から落ちつい先ほど亡くなりました。お辛いでしょうが、あなたはもう亡くなったのです。」
「は!?」
(マジか…。でも、やっぱりそう言うことだよな。こんないかにもって感じの場所と女性がいるし)
普通、突然死んだと言われても混乱するだろう。だが、数多のラノベを読み終えた俺は状況をすぐに把握し、冷静になることができた。
死因が脚立からの落下ってのはどうにも締まらないが、過ぎたことより今は目の前のことを優先しよう。
「…あなたは?」
「私の名は、女神『シアン』。日本で死んだ者を次の道へ導く者」
そう宣ったのは、空色の髪と瞳に、丈の短い服とミニスカートを身につけた少女だった。それだけならば特に驚くことはないのだが、異様なのは背中に名前通りシアンの色をした翼を広げ、頭の上に輪を浮かべている点だ。
見た目からは神というより天使のような印象を受ける。
「次の道?天国地獄に行くだけじゃないのですか?」
「そうです。あなたにはもう一つ選ぶ道があるのです。それは……世界に行って魔王を倒すこと!!」
「つまり、異世界転生ってやつか!」
まさに王道展開!死んだと思ったら異世界に転生して魔王討伐……誰しも一度は憧れたことのあるシチュエーションだ。まさかそれが俺の身に起こるとは。
正直、分からないことだらけだがこの話を受けない手は無いだろう。そう思い、俺が女神の方へ向き直ると女神はこう言ってきた。
「その通り。異世界に行けば心踊る冒険や不思議な魔法が使えるのよ。あなたからすれば異世界で冒険できる、異世界の人からすれば魔王を倒せる人が来る。win-winの関係ね。どう、異世界行ってみない?」
身振りを加えて熱く語る女神の誘いに対する俺の答えはとうに決まっていた。
「行きます!!」
俺の食い気味の返事を聞くとシアンはいかにも想定通り、といった表情を浮かべて高らかにこう言った。
「分かりました。では、一つだけあなたが望むものを与えましょう。どんな能力でも武器でも才能でも。さぁ、何が欲しいですか?」
「そうだなぁ…」
これはありがたい。
強力な能力や武器が手に入れば異世界チートも夢じゃ無いぞ!
そんな事を顎に手を当てながらしばらく考えているとシアンが突然得意げな顔をして胸を張りながらこういった。
「ねぇ、早く決めてくれな〜い?次の人もいるんだから〜。まったく人間は生まれつきスキルが無いから大変よね〜。私なんて生まれたときから回復系のスキル全て取得してるのに〜」
…なんなんだコイツ。さっきまでの態度とは打って変わって、突然ナチュラルにはるか上から見下してきたな。
だが、腹が立った代わりに有用な情報を得られた。冒険をするならヒーラーは必須だ。それも全回復系スキルを使えるとなれば是が非でも仲間にしたい。
もし、ここでコイツをパーティーに組み込めればかなり有利になれるな。しかも、コイツへの意趣返しにもなる。まさに一石二鳥だ!
そう考えた俺は顔をあげ、シアンに向かってニヤけながらこういった。
「分かった、決めたよ………じゃあ、お前!」
「………今、なんて?」
シアンが呆けた顔をした瞬間、足元が光り輝き始めた。
「うぉっ!?これは…魔法陣か!てことは、これで俺もついに異世界に行けるのか!」
「えっ…?えっ…え〜!!!無理に決まってるじゃない女神を連れてくなんて……無理よね?お願い誰か無理って言って〜〜〜!」
しかし、そんなシアンの叫びも虚しく俺とシアンは魔法陣の光に飲まれていった……
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