第一話③
「どうだい、あの魚人の男、なかなかの人材だと私は思うのだが」
特別席に座っている男が、その後ろに立っている茶髪の少女に話しかける。戦闘フィールドでは、魚人の男がブリードにシェルを投げ渡していた。
「そう……ですね」
茶髪で褐色肌の少女は曖昧な返事をする。
「やはり納得できないかい? 自分の小隊メンバーを、自分で選べるという優遇は。それも騎士団長と話しながら」
騎士団長タレスが、後ろを振り返った。
「騎士学校主席が確定している、ロゼ・アルバ君」
騎士団長の口調は優しかった。ロゼは首を横に振る。
「そんな滅相もない。ただ、わたしは、その人の実力よりも……」
そのとき戦闘フィールドでけたたましい声が響き、ロゼの声をかき消した。
「シルフウウウウウウウ!!」
フィールドから発せられたのはブリードの叫び声だった。観客の一部はうるさそうに耳を塞いでいる。ブリードは、更に空に向かって叫んだ。
「突然いなくなりやがって、ふざけんじゃねえ!!」
席に座っている騎士団長は、頬杖をつき、ブリードを見つめた。
「シェルを使っているようですね」
今まで会話に参加していなかった女性が、誰に言うでもなくつぶやいた。女性は騎士団長の隣で立っている。まるで従者のようだ。
「シェル。魚人族の技術で生み出されたアイテム。通信、録音、再生などが主な用途となる。ですよね、フリージアさん」
教科書で習ったことを思い出すように話すロゼに、フリージアは「その通りよ」と微笑んだ。
「面白いな、彼」
「えっ?」
ロゼはブリードを見つめた。
「何が大事な用があるから行ってくる。弱いから付いてくるなだ。精霊一、自由人なお前が、らしくねえんだよ! 心配するだろうが!」
精霊。その言葉に観客はざわめきだした。精霊は絵本などに登場する、架空の存在だからだ。
「精霊……」
と、つぶやくロゼも、精霊を見たことはない。奇異の目でブリードを見る。が、嫌悪感は不思議となかった。
「お前は言ったよな。弱いからだめだって」
刀を天に向けるブリードが、更に言葉を紡ぐ。
「証明してやるよ。その辺の大人や魔物にも負けないってところを! この大会で優勝して、その金でお前を探す旅をするから。待ってろよ!」
にかっ、と歯を見せ笑うブリード。そのとき、慌ただしく一人の騎士が騎士団長たちのいる部屋に入ってきた。
「失礼します!」
「何があった」
と、席から立ち上がり、冷静さを維持する騎士団長が訊ねる。騎士は顔を上げ、三人に伝えた。
「それが……男が、精霊ヴォルトと名乗る男が一人、襲撃してきました!」