第一話②
青空の下。すり鉢状の闘技場ではたくさんの観客が歓声をあげている。
観客が注目しているのは、一人の少年だった。少年の服装はこの辺りでは見ない、和服だ。闘技場の戦闘フィールドに立つ和服の少年は、ぼんやりと雲を眺めていた。対戦相手がまだ来ないのだ。
「ブリード! 次の試合も期待しているぜ!」
観客の誰かが少年の名前を叫んだ。声のした方へ視線を移し、微笑んだ。
「さあ! いよいよ準決勝が始まろうとしています!」
司会の声だ。司会は貝殻を手に持ち、アナウンスする。シェルと呼ばれる、貝殻でできたアイテムは音楽を録音や、連絡を取る手段、そして司会の行っているように声を拡張することなど、様々な用途に使われる。
茶髪の若い男が、戦闘フィールドへとやって来る。フィールドには、くるぶしほどの高さまで水が入れられていて、対戦相手である男が歩くたび、水面が揺れた。
茶髪の男は、短剣を二つ抜刀。逆手に持ち、構えた。ブリードも、腰に差した刀を引き抜く。
「それでは両者、レディ……」
ゴングの音が鳴り響いた。
「ファイト!」
開始と同時に男は動いた。短剣の持ち手にはめ込まれている石――クリマの力を引き出し、短剣に炎を纏わせた。二つある内の一つをブリードに向けて投げる。
「おっと」
ブリードは会場に満ちた水を刀で打ち上げる。水は柱となり飛んでくる短剣を止めた。
だが、男の動きは止まらない。もう一つの短剣を握りしめ、ブリードに向かって駆ける。水柱ごと斬るつもりのようだ。
男は、ブリードを守るかのように立っている水柱を横に一薙ぎする。水柱は上下に裂けた。しかし、肝心のブリードの姿がない。男は慌ててブリードを探す。
「ここだよ」
声は男の真上から聞こえた。タイミングよくジャンプしていたのだ。
金属音が鳴り響く。男の持っていた短剣は空高く飛んで行った。次いで、ブリードが男の喉元に刀を向ける。勝負あった。
「勝者、ブリード!」
「ふう」
歓声があがる中、息を整えるブリード。
「続いて、決勝戦と参ります。ブリード選手、休憩はなしです」
「ええ。そんな」
「ついに決勝戦! 観覧されている騎士団長タレス様も、ここまでくると目が離せないとのことです」
「そう言えば、観覧席で騎士の何人かが、試合を見ているらしいな」
息が整ってきたブリードは、騎士団と司会がいると思われる方へと視線を移す。しかし、騎士団長の姿は、ブリードからは見えない。
そのとき大きな歓声があがった。決勝戦の相手が歩いてきたのだ。白い肌。灰色に染まった長髪の、大柄な男。特徴的なのは、手に水かき。そして首にはエラがある。
「魚人族か」
赤い三又の槍を持つ、魚人の男が、手のひらサイズの巻貝――シェルを使い、会場全体に宣言する。
「やってやるぜ! 一分だ。一分でこの勝負を終わらせる! 相手はひ弱そうなガキだしな」
挑発的な発言をすると、満足したのか、シェルをブリードに投げ渡した。魚人の男は顎で、ブリードを指す。お前も何か言え、ということらしい、とブリードは理解した。
少し考えた後、ブリードは大きく息を吸った。