9話
この回でトレ・カワヤー氏が再登場します。
また、新キャラも登場です。
翌朝、すずお君は明け方近くに目を覚ました。
他のメンバーも起きている。たき火は消してあり辺りに朝方特有のひんやりした空気が漂う。
「おはよう。すずお」
「おはようございます。クレア」
爽やかに2人が挨拶し合う。ブランカさんやグリーン氏はだるそうにしていた。テッド氏は元気そうだが。どうやらブランカさんとグリーン氏は朝に弱いらしい。
「ブランカ。近くに泉があるから。顔を洗ってきてくれ」
「……わかった。ふわぁ」
大きなあくびをブランカさんがする。クレアさんが歯磨きセットやタオルを持たせた。
「んじゃ。身支度を済ませてくるわ」
「ああ。行ってらっしゃい」
「眠い」
ブランカさんは目をしょぼしょぼさせながらも行ってしまう。すずお君は珍しいなと思った。いつもは凛としたクレアさんが世話焼きなお母さんみたいな表情だからだ。その後、30分が過ぎた辺りでブランカさんは戻ってきた。交代で身支度を済ませに行ったのだった。
朝食や片付けも終わり出立をしたのは朝の7の刻だ。再び馬に乗り荷物を鞍に括り付ける。荒野の中を進んだ。すると早速、モンスターと出くわした。
「……最先が悪いね。すずお。後援は頼んだぞ」
「わかりました。あれは?」
「あれはね。ファイアスネークだ」
クレアさんが簡単に教えてくれる。すずお君は主であるサンショー嬢やブランカさんに教えてもらった事も思い出す。
『……モンスターにも魔法にも相性がある。例えば、水は火に強くて。反対に土には弱いようにね』
ハッとなる。すずお君はとっさに巨大な炎に包まれた大蛇に水魔法を放つ。ブランカさんが仕込んでくれた彼が使える1番強力な技をだ。
「……彼の者に惑いを与えん。ウォーター・フォグ」
「すずお君?!」
両手から現れたのは白い雲状のものだった。それから降り注ぐのは霧のように降る雨で。ファイアスネークは白い靄に包まれた。
『シャシャッ?!』
戸惑ったような鳴き声を相手が出すが。霧雨は降り続く。だが、靄が晴れると未だに大蛇はそこにいた。
「くっ。やはりダメか」
「……仕方ないね。出番だよ。トレ!」
グリーン氏が呟くと召喚術が展開された。無詠唱で地面に複雑な模様の魔法陣が浮かび上がる。それが眩く光りだした。皆はあまりのまぶしさに目を閉じる。
少し経ってから再び目を開けると。そこには白い物が混じった髪を撫でつけて片眼にアンクルを付けた黒の背広姿の男性が佇んでいた。が、横には異様な生き物もいる。
「……何だ。あれ?」
「あれは。モルモットンね。モルモットが人型に変化した魔族よ」
「ブランカさん。知ってんのか!」
テッド氏がツッコミを入れるが。ブランカさんはスルーした。
「……やれやれ。執事として我が主人のお世話をしていたのに。何でござるか?」
「ノンキに話している場合じゃないんだ。状況をまずは確認してくれ」
「ああ。ファイアスネークであるか。仕方ない。倒すとしようか」
トレ氏がコキコキと首を鳴らした。腕も回してからおもむろに魔法を展開する。
「……ウォーター・フォール!」
『シャッ?!』
名前の如く大量の水が滝のようにモンスターに降り注ぐ。シュウと火が消える音がして辺りに響き渡る。同時に霧が発生した。周りに立ち込める。
「……凄い。トレさんってあんなに魔術が使えたんだ」
「そのようだな。ウォーター・フォールは水魔法でも最上級の術になる」
「へえ。トレさんも何者なんでしょうね」
すずお君が言うと。クレアさんも同意だと頷いた。
「……すずお君。クレア。油断はしていられないわよ!」
「この声は。ブランカか!?」
「ええ。今はあたしが防御壁を展開しているから。大丈夫だけど。それもいつまでもつかわからないわ!」
ブランカさんの忠告にすずお君とクレアさんは馬から降りる。そうしてすずお君が短い杖をクレアさんは短剣を懐からそれぞれ出して身構えた。
「すずお。ファイアスネークが襲ってきたら。氷魔法で足止めしてくれ。私は水魔法で仕留めるよ」
「……その必要はないでござる」
「トレさん?!」
いつの間にか霧は晴れていた。そして近くにトレ氏がいる。もちろん、謎の生物もといモルモットンもだ。近くで見ると黒と白の体毛に全身を覆われている。確かに人型をしてはいるが。筋骨隆々だし背が異様に高い。顔はいかついモルモットだが。
「……アルジ。アレヲタオセバイイノカ?」
「そうでござる。行くでござるぞ!」
「ワカッタ!」
モルモットンは頷くと。凄い勢いでファイアスネークの元に走っていく。そしてモルモットンは驚く間もなくファイアスネークに拳を振り下ろした。
「……マッスルバスター!」
『シャアアー!!』
ファイアスネークは断末魔の叫びをあげる。脳天をかち割られてバタッと鎌首をもたげていた頭が地に伏した。
「アルジ。スネークヲタオシタ」
「ご苦労でござった。よくやった!」
「ホメテクレルノナラ。アレヲクレ」
「わかり申した。トレミーの好きなヒマワリの種でござる」
「ヤッタ!」
トレ氏が胸元のポケットから茶色いヒマワリの種を取り出す。1つ1つの粒が大きい。そら豆くらいはあるだろうか。大人の親指の第一関節くらいまでの大きさとも言えた。モルモットンもといトレミー君は種の1つを器用に摘まむ。口を開けてポイッと放り込んだ。
「ウン。ウマイ!」
ポリポリと良い音を立てて食べた。飲み込むと2個、3個とたいらげていく。気がついたらトレミー君は出された種を全て食べてしまった。あまりの食欲にすずお君は驚きを隠せない。
「……オマエ。オレトオナジニオイガスル」
「あの。トレミー君?」
いきなりトレミー君はすずお君を見るなりそう言った。どうやら嗅覚で気づいたらしい。
「ナマエハ?」
「……すずおです」
「ソウカ」
トレミー君はそう言うと後ろを向いた。
「アルジ。オレハモドル」
「わかった。よく眠るのでござるぞ」
トレミー君は頷いた。彼は眩い光に包まれる。気がついたらもう既に姿はなかった。
「……もういない」
「それはそうでござる。トレミーは特殊な魔族でござるから。地上にいられるのは僅かな時間であるな」
「そうなんですか。けど。トレミー君は強いですね」
「強くはあるが。身体強化くらいしかまだできないでござる」
「はあ」
トレ氏はちょっと不満そうだ。が、ブランカさんやクレアさん、グリーン氏が駆け寄ってきてそれどころではなくなった。質問攻めにあうのだった。
↑はみてみんにてやり取りさせて頂いている厠 達三氏に依頼した挿絵。ちなみにモルモットンになります。