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8話

この回は残酷な描写があります。

苦手な方はご注意ください。

 すずお君一行は馬に乗ってひたすら南方にあるヒダーカを目指した。


 1頭目にはテッド氏とすずお君が乗り2頭目はクレアさんとブランカさんが3頭目はグリーン氏が1人で乗っている。テッド氏が操る馬は一際大きく立派だ。何でも軍馬として育てられたとか宿り木亭のマスターが言っていたが。

 本当だろうかとテッド氏は思っている。 


「……なあ。すずお君」


「はい。何でしょうか?」


「君な。馬に1人で乗れるように練習しないか?」


「1人でですか」


「ああ。その方がいいだろうしな」


 テッド氏は密かに心配していた。馬がバテてしまわないかをだ。実はすずお君、青年の姿になっているから馬に掛かる負担も少年時よりも倍になっていた。要は体重がそれだけ重たくなっているという事だが。


「……わかりました。今日から練習はしてみます」


「そうか。教えるのは俺だから安心してくれ」


「はい」


 その後、テッド氏は黙って馬を進めた。すずお君も後ろで景色をひたすら眺めたのだった。


 不意に荒原を進んでいたら。モンスターが現れた。


「くっ。ゴブリンか!」


「本当ですね。6体もいます!」


「しゃあねえ。しっかり掴まっていろよ!」


 テッド氏は腰にある剣を鞘から抜いた。馬上からゴブリンに斬りつけるつもりらしい。グリーン氏やクレアさんも剣を抜いて臨戦状態になっていた。実はグリーン氏とクレアさんはコダーテの町で長剣を調達している。2人共、剣術はテッド氏に劣りはしてもかなりの腕前だ。


「テッド。私は左側を攻撃する。お前は右側を頼む!」


「おうよ!」


「クレアさんは真ん中を頼むぞ!」


「わかった!」


「……よし。たぁっ!」


 馬の腹を蹴ってグリーン氏はゴブリンの群れに突っ込んでいく。すずお君は度肝を抜かれた。

 ……あの人。魔術士じゃなかったか?


「……彼の者を凍てつかせん。アイス・ブレスト!」


『グギッ?!』


 グリーン氏は剣を片手に氷の上級魔法を繰り出した。ゴブリンはパキパキと音を立てながら凍りついてしまう。


「……本当に何者だ?グリーンさんは」


「あたしもそれは思うわ」


「あのアイス・ブレストは。氷魔法の中でも上級の術だぞ」


 クレアさんが言うと。ブランカさんもそうねと頷いた。テッド氏はすずお君を後ろに乗せているために苦戦している。


「……くっ。すずお君、何か魔法を使えるか?」


「……わかりました。アイスダスト!!」


 すずお君が短い詠唱で繰り出したアイスダストは中級の氷魔法だ。2体のゴブリンの腰から下が凍りつく。


「よしっ。だいぶ、戦いやすくなったぞ!」


『グギャッ!?』


 テッド氏は嘶く馬から飛び降りると剣でゴブリンの右肩を斬りつけた。ザシュッと鈍い音がしてゴブリンの肩から赤黒い血が滴り落ちた。そのまま、頭から縦に斬り裂く。ゴトリと地面に倒れる。


「いよっし!1体目は倒せたぞ!」


「テッド。浮かれるのはまだ早いぞ!」


「……ちっ。そうだったな!」


 テッド氏は走って2体目を斬り伏せた。イライラをゴブリンにぶつけているようだ。首から脇腹にかけて袈裟斬りにされてこちらも一撃で倒れる。3体目はグリーン氏が同じく斬り伏せて倒していた。


「……うわわ。どうどう!」


「……ヒヒィン!!」


 未だに暴れている馬の首にすずお君はしがみついていた。これでも本人なりに必死だ。ゴブリンはまだ3体が残っている。クレアさんが片手で手綱をもう片方の手は剣を持って戦っていた。


「……やはり。こいつらは難敵だな」


「そうね。ファイアウォール!!」


 ブランカさんが炎の上級魔法を繰り出す。たちまち、3体のゴブリンは炎の渦に巻き込まれた。


「……ブランカ。本気で魔法は展開しないでくれ。あいつら、原形を留めてないだろ」


「……いいじゃないの。ゴブリンは大して高く売れないし」


「そういう問題じゃないんだが」


 一気に3体のゴブリンは燃やし尽くされてしまう。白の大魔女の名は伊達ではない。グリーン氏やテッド氏は驚きながらもそう思った。すずお君も呆気に取られていたのだった。


 戦闘が終わり再び馬に乗り直す。倒したゴブリンの持っていたハンマーや簡単な鎧を頂戴してこの場を後にした。


 夕方になりまた野宿になる。皆で手分けして薪になりそうな枯れ枝を探したり水を汲みにいく。また、グリーン氏が食べられそうな野草を探しに行った。すずお君はテッド氏と2人で水を汲みにいっている。


「それにしたって。ヒダーカは遠いな」


「そうですね」


「ふう。レミリアちゃんを見つけない事には。俺も家に帰れねえしな」


 珍しくテッド氏がグチっていた。すずお君は黙って水を皮袋に入れる。ちなみに水専用の容器でやっているが。


「……本当にレミリアちゃんはどこにいるんだろうな。ヒダーカの町にいる事くらいしか手がかりがねーし」


「ですね。ヒダーカのどこにいるのかは僕たちが直接調べてみないと」


「だよな。すまねえ。弱音を言っちまったな」


「いえ。ここには僕たちしかいませんし」


「……ありがとよ。吐き出したらちょっとすっきりした」


 テッド氏は微笑みながら言った。本当にこの場にグリーン氏がいたら酷く驚いた事だろう。それくらい、珍しい出来事ではある。すずお君は頷くと皮袋の蓋を閉めた。容器をテッド氏に手渡して立ち上がる。泉を後にした。


 すずお君がテッド氏と戻ると既にたき火が焚かれていた。クレアさんやブランカさん、グリーン氏も戻ってきている。


「……あ。すずおにテッドさん。戻ってきたんだな」


「ああ。水はたんまり汲んできたぜ」


「そうか。お疲れ様」


 クレアさんが言うとテッド氏はニカッと笑う。親指をグッと立てた。


「……やっぱり。女の子から言われるといいもんだな」


「……あら。あたしが言ったらいけないみたいね。テッド君」


「な。ブランカさんに言ったわけじゃねーぞ」


「ふうん。本当なの?」


「……悪かったって。本当だよ!」


 ブランカさんに笑いながら言われたが。目元は笑っていない。テッド氏は背中に冷や汗をかいていた。


「ならいいわ。今度からは言葉には気をつけてちょうだいね」


「はい」


 ブランカさんは勝ち誇ったように笑った。テッド氏はどっと疲れたらしく深いため息をつく。


「……どんまいだな。テッド」


「……だな。トレにこの場にいてほしかったぜ」


「同感だ」


 2人は苦笑いしながら頷き合った。クレアさんはすずお君の頭を何故か撫でる。


「……クレア?」


「いや。ちょっとな」


 曖昧に誤魔化されてしまったが。すずお君はテッド氏やグリーン氏の様子を見て何となくはわかったのだった。

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