6話
食堂に行くと他にも何人か先客がいた。
ほとんどがガタイがいいおじさん達だ。中には若いお兄ちゃんもいるが。女性はほぼいない。皆、お酒を酌み交わしたり食事をしたりと割と自由にしている。
「あちゃー。もう結構いるな」
「本当だな。どうする。テッド?」
「しゃーねえな。マスターに声をかけてみるか」
グリーン氏とテッド氏が話し合う。すずお君はこういう酒場的な場所に慣れていない。目を白黒させていた。
「……お〜い。マスター!」
「……おや。確か。テッドさんかね?」
「ああ。他に座れる場所はないか?」
テッド氏が言うと。店主もといマスターが答えた。
「……そうさな。隅っこでもいいんなら。空いてるぞ」
「成程。じゃあ。そっちに案内してもらえるか?」
「わかった。皆さん。こっちだよ」
マスターに案内してもらい、食堂の隅にあるテーブル席についた。テッド氏やグリーン氏は隣り合って座る。ブランカさんとクレアさんも同じくですずお君は1人ちょっと離れて腰掛けた。
「んじゃ。エールを2つと。黒パンを5つ。後はグラタンも5つな!」
「はいよ。エールはテッドさんとグリーンさんのでいいかい?」
「ああ」
「わかった。エール2つに。黒パンとグラタンが5つだね!」
「頼むぜ」
マスターは頷くと奥の厨房に入っていった。すずお君は黒パンはわかるが。グラタンが何の料理かわからない。
「……クレア。グラタンってどんな食べ物なんですか?」
「……ああ。すずおは食べた事がなかったな」
「はい。主にも作ってもらった事がないですから」
すずお君が肩を竦めながら言う。クレアさんはちょっと考えてから説明した。
「……グラタンというのは。具材を油で炒めて。味付けをする。そして牛乳や小麦粉、バターなどを混ぜて作ったホワイトソースを加えて。牛乳なども入れて煮込んだら。耐熱容器にバターを塗って具材を入れて煮込んだホワイトソースを入れる。上にチーズやパン粉を乗せたら。熱したオーブンで焼く料理だな」
「詳しい説明をありがとうございます」
「まあ。先程言ったような食べ物だな。結構熱いが。なかなかに美味だぞ」
クレアさんがにっこりと笑いながら言った。すずお君はそれならと頷いたのだった。
その後、マスターや女将さん、ウェイトレスのお姉さんの3人がかりでエールや黒パン、グラタンを持ってきてくれる。エールはグリーン氏やテッド氏の前に置かれた。他のメンバーにはサービスらしくてムギチャという飲み物が置かれる。中には茶色い液体と氷が幾つか入っていた。恐る恐るすずお君は飲んでみる。香ばしさがあり紅茶や緑茶とも違う味だ。意外と後味もすっきりで飲みやすい。今は夏に近い季節だから余計にそう思えた。
「……このムギチャ。美味しいですね」
「お。兄ちゃん。いい事言ってくれるね!」
「本当に美味しいです。今の季節にはぴったりだと思います」
「そうだろう。そうだろう。それはね、東方のホーンシュって国の飲み物さね。確か、クジョー大麦っていう原材料を天日干しして。そのお茶っ葉をお湯で淹れた飲み物だよ」
「へえ。女将さんは物知りでいらっしゃるんですね!」
すずお君が言うと。女将さんはカラカラと笑う。
「やだよ〜。あたしを褒めたってなんにも出やしないさ。けど。そうだね。後でデザートを兄ちゃんや連れの人らに出してあげるよ!」
「ありがとうございます」
「ははっ。お茶を褒めてもらったお礼だよ。ゆっくりしていきな!」
女将さんは黒パンやグラタンが盛り付けられたお皿を置くと奥に戻っていく。すずお君はフォークで具材を突き刺してグラタンを食べたのだった。
満腹になりすずお君一行は上階の部屋に戻る事にした。
「……はあ〜。デザートのハクトウはうまかったな」
「はい。ぼくもハクトウは食べやすかったです」
「おう。すずお君はもっと食った方がいいぞ。細っこいしな」
テッド氏はニカッと笑いながらすずお君の頭を撫でた。グリーン氏やブランカさん、クレアさんは微笑ましげに眺めている。
「なんか。私よりもテッドさんの方が仲良くなるのが早いな。ちょっと羨ましくはあるが」
「ははっ。テッドは人懐っこいしな。意外と動物からも好かれやすいんだ」
「そうなんだな。だから。すずおも嫌がらないのか」
クレアさんが言うと。グリーン氏は笑いながらクレアさんの肩をスルリと抱いた。
「私も君は嫌じゃないよ。何というか。泣かせたくなる」
「……私を口説くか。言っておくが」
「なんだい?」
「私はすずおや同じ使い魔以外は。気を許さないようにしているんだ」
「へえ。なら。今からでも試してみない?」
蠱惑的にグリーン氏が笑いながらクレアさんに顔を近づける。けれど。その前に2人はベリッと引き剥がされた。
「……何をしてるんですか。グリーンさん!?」
「はいはい。口説くのは後にしてね〜」
「そうだぜ。おいたは無しだぜ。グリーン」
すずお君がブランカさんと2人でクレアさんを抱きすくめて。テッド氏がグリーン氏を羽交い締めにしていた。
「……邪魔をするな。テッド」
「あー。はいはい。文句は後で幾らでも聞くからよ。今は落ち着け」
「私は冷静だぞ」
グリーン氏が口を尖らせながら言う。が、耳が赤い。テッド氏は苦笑いした。
「……すまねえな。クレアちゃん。グリーンな、酔っ払うと。女の子だと誰彼構わず口説く癖があるんだ。またされたらよ。ぶん殴ったらいいからな」
「わかりました。テッドさん。ありがとうございます」
「いいって事よ。それより。レミリアちゃんを早く助けに行かねえとな。風呂に入ったら。さっさと寝ような」
「はい」
「んじゃ。解散!」
テッド氏はまだ不満そうなグリーン氏を引きずって行ってしまう。すずお君も後を追いかける。2人で見送るクレアさんだった。
ブランカさんと2人で部屋に戻る。クレアさんはふうと息をついた。
「……危なかったわね。クレア」
「ああ。テッドさんやすずおがいてくれたから。何とかなったが」
「うん。今度からは気をつけないと」
ブランカさんの言う事に頷く。クレアさんは麻袋から着替えやお風呂セットを出した。
「ブランカ。風呂に行こうか」
「そうね。行きましょう」
「ああ。気分がさっぱりするだろうしな」
ブランカさんも着替えなどを出す。一緒に大衆浴場へ向かったのだった。