5話
すずお君達はお食事スペースでしばらく休憩をしていた。
ブランカさんはクレアさんと2人でスイーツに舌鼓を売っている。すずお君はグリーン氏やテッド氏と3人でガッツリ食事を取っていた。
「……女性陣はやはり甘い物に目がねえな」
「それは私も思うよ。テッド」
「それにしても。トレはいつになったら来るんだ。もう2時間近く待たされてんだが」
テッド氏が言うとグリーン氏は肩を竦めた。すずお君も苦笑いする。
「トレさんは確かレミリアさんの居場所を調べているんでしょう。なら。もうちょっと待ってみましょうよ」
「……まあ。すずお君の言う通りだな。後1時間は待ってみるか」
「そうだな。すずお君やグリーンが言うようにしてみるかな」
テッド氏がため息をつく。グリーン氏やすずお君もほうと息をついたのだった。
1時間後、やっとトレ氏が奥から出てくる。手にはアクアマリンのペンダントがあった。
「……申し訳ない。時間がだいぶ掛かってしもうた」
「ああ。結構待たされたぜ」
「本当にすまぬ。実はレミリア殿の居場所がわかってな」
意外な言葉に皆驚く。グリーン氏が前のめり気味に言う。
「……本当か?!」
「うむ。このコダーテからずっと南にあるヒダーカの町にレミリア殿の気配があったでござる」
「ヒダーカね。また随分と遠いな」
「たぶん。連れ去られたのでござろう。レミリア殿の他に大人数の人の気配も感じられてな」
「そうか。誘拐されていたんだな。レミリアは人型の姿が可愛らしいし」
グリーン氏がポツリと言った。ブランカさんは「親バカねえ」と呟く。
「……まあ。手がかりが見つかった事だし。ありがとう。トレ」
「そんなに役に立っていないでござるよ。もっと腕を磨きたいでござる」
「それもそうだな。トレはもうちょい鍛錬を頑張った方が良いと思うぜ」
テッド氏に言われてトレ氏は頷いた。何だかんだいって仲は良い2人である。
「なあ。トレ。1つ聞きたい事があるんだが」
「何でござろう」
「ここら辺でまずまずの宿屋ってないのか?」
グリーン氏が訊くと。トレ氏はふむと腕を組んで考え込む。
「……宿屋か。そうでござるな。コダーテだと。『宿り木亭』というお食事処がある。そちらであれば。宿屋も兼業しているはずでござる」
「成程。宿り木亭だな。行ってみるよ」
「ただ。店主が代替わりしたらしいので。今も宿屋をやっているかはわからぬ。すまん」
トレ氏は申し訳なさそうに頭を下げる。グリーン氏やテッド氏は笑いながら頭を上げるように言った。
「んな、謝る必要はねえよ。レミリアちゃんの居場所の情報を入手できたし。むしろこっちは礼が言いたいくらいだ」
「テッドの言う通りだ。頭を上げてくれ」
「……グリーン。テッド。ありがとう」
トレ氏は涙ぐんでいた。驚きながらもグリーン氏とテッド氏はトレ氏の肩にそれぞれ手を置く。それを何とはなしに眺めるすずお君だった。
夕方になりすずお君一行は宿り木亭に向かう。宿り木亭と書かれた看板がある3階建ての木造建造物がある。
「……これが宿り木亭か。とりあえずは入るとしますか」
「ああ。カウンターの応対は俺に任せてくれ」
「そうだな。テッドの方が慣れているし」
グリーン氏が言ったらテッド氏はニカッと笑った。2人に続いてすずお君、ブランカさん、クレアさんの順で入る。
「……いらっしゃい。お客さんかね?」
「……ああ。こちらで宿屋もやっていると知り合いから聞いたんだが」
「確かにやっているがね。お宅は初めて見る顔だ」
食堂のカウンターにいたおじさんが太い眉を寄せながらテッド氏を見据えた。どうやらおじさんが店主らしい。
「……俺はテッド。冒険者をやっている。隣にいるのは連れのグリーン。それから……」
「ぼくはすずおと言います。左側にいるのがブランカさんで。右側にいるのはクレアさんです」
「はいよ。テッドさんにグリーンさん。すずおさん、ブランカさんに。クレアさんだね。今日はこちらで泊まるのかい?」
「そうだ。1人部屋を1室、2人部屋が2室空いていたらいいんだがな」
「……うーむ。今なら1人部屋と2人部屋は空いているよ。合わせて3部屋か。鍵は渡しておく。食事は1階のここで。部屋には不浄処と洗面所は付いている。風呂は隣にある大衆浴場に行ってくれ」
テッド氏は頷いた。鍵を受け取ったらブランカさん、グリーン氏に手渡す。
「部屋割を今から言う。俺はすずお君と。グリーンが1人部屋、ブランカさんとクレアちゃんも2人部屋な」
「わかりました。て。何でぼくがテッドさんと2人部屋なんですか?」
「何でって。その方が都合が良いだろうが」
テッド氏が当然のように言う。グリーン氏がとりなすように割って入ってきた。
「まあまあ。私は1人部屋で構わないよ。けど。すずお君はテッドと一緒の方が良い。君は世間という物を知らないしね」
「はあ。わかりました」
「素直なのはいいけど。甘い言葉を言う輩にはホイホイと付いていっちゃあいけないよ。君が痛い目にあうからね」
とりあえずは頷いておいた。グリーン氏は笑いながら先に行ってしまう。
「……んじゃ。俺らも行くか」
「はい」
テッド氏に促されてすずお君は2階に上がった。ブランカさんやクレアさんも後を追いかけたのだった。
2階の2人部屋にすずお君はテッド氏と入る。同じ階の隣にグリーン氏がいた。3階の2人部屋にブランカさんとクレアさんがいる。
「……ふう。やっとベッドで寝られるな。すずお君も今日は早めに寝ろよ」
「そうですね。けど。お腹が空きました」
「そうか。じゃあ。荷物を整理したら。食堂に行くか」
すずお君はやったと内心で喜んだ。テッド氏は反対側を向くと荷物の整理を始める。すずお君も真似をして麻袋の中からお風呂に必要な道具類を出すのだった。
しばらくしてすずお君はテッド氏と2人で食堂に降りた。廊下でグリーン氏と合流する。
「あ。2人共。今から夕食かい?」
「はい。お腹も空きましたし」
「そうか。私も丁度向かっていたところだよ」
3人で喋りながら廊下を歩く。するとブランカさんやクレアさんもやってきた。
「あら。グリーンさん達じゃないの」
「ブランカさん。奇遇ですね」
「あたしもお腹が空いたから。皆で行きましょうよ」
ブランカさんが言うとグリーン氏も頷いた。テッド氏がすずお君に笑いかける。
「宿り木亭は初めてだからな。どんな献立があるのか楽しみだぜ」
「そうですね。行きましょう」
頷き合うと皆で食堂に向かう。すずお君は胸を躍らせるのだった。