4話
クレアさんの体調は休憩とブランカさんの薬のおかげで治った。
すずお君はほっとする。グリーン氏やテッド氏、トレ氏は昼食を終えてのんびりしていた。さすがに1時間もこうしてはいられない。ブランカさんやクレアさんがグリーン氏を叱った。
「……グリーンさん。そろそろ出発しないと日が暮れちゃうわ」
「ああ。主の言う通りだ!」
「わかったよ。女性からそう言われちゃあ。行くしかないよな」
グリーン氏はため息をつきながら立ち上がる。テッド氏やトレ氏も同様だ。すずお君も急いで荷物をまとめた。10分もしたら再び歩き出す。後を付いて行ったのだった。
町に近い所まで来た。また、モンスターと出くわす。大きなブラックラビットだ。普通のウサギより二周りも大きい凶暴なモンスターである。とっさにすずお君は氷の初級魔法を放つ。
「……かの者を凍りつかせん。アイス・ボール!」
『ピッ?!』
魔法は見事に命中した。前脚も後ろ脚も凍り付き、地面に張り付いてしまっている。それを見てグリーン氏が氷の中級魔法を展開した。
「……かの者を冷たき気にあわせん。アイス・ダスト!」
ブラックラビットは完全に凍りつく。すぐに氷は溶けてしまうが。モンスターが動き出す前にトレ氏やテッド氏が剣やダガーナイフで斬りつけた。トレ氏は首筋にナイフを突き立てる。急所を狙ったのだ。
『……グギッ?!』
突き立てたナイフをトレ氏が抜き、地面にスタッと着地する。テッド氏が長剣でトドメを刺す。突き立てる代わりにスパッと首筋の左側を切り裂く。大量の血が滴りブラックラビットはズンっと大きな音を立てながら倒れ伏した。
「……よし。倒したな」
「テッド。私よりトレと組んだ方がよくないか?」
「冗談はよしてくれ。トレと組んだら俺の方が大損だ」
グリーン氏に言われたのにテッド氏は本気で嫌そうだ。トレ氏も微妙そうな表情である。
「……拙者からもお断りさせてもらう。テッドと組んだらとんでもない目にあいそうだ」
「へえ。あんたとはある意味で気が合いそうだ」
「そうでござるか。けど。拙者はギルドマスターとしての職務と執事としての職務の2つがある。テッドと共に旅はできぬな」
あっさりバッサリ言われてテッド氏はうんざりしていた。グリーン氏も苦笑いだ。
「……わかったよ。トレ。テッド。ブラックラビットをどうにかする方を考えようか」
「相わかった。テッド。ブラックラビットの爪や毛皮はそちらに譲る」
「ああ。有り難くもらう」
3人の相談は終わったようだ。その後、トレ氏とテッド氏は2人で手際よくブラックラビットを捌いたのだった。
鋭い爪やふかふかの毛皮はグリーン氏がマジカルボックスに仕舞い込む。後でギルドにて売るらしい。トレ氏が了承してくれたようだ。
「これでちょっとは収入源ができたな」
「そうでござるな。テッドやグリーンがいてくれて良かったでござる」
「トレに言われると変な感じだな」
グリーン氏が軽口を叩く。トレ氏は困ったように笑う。
「なあ。トレ。それはそうと。ギルドまでは後どれぐらい掛かりそうだ?」
「うーむ。1時間もしたら着くでござるよ」
「……そうか。ギルドに着いたら馬を借りるかな」
テッド氏が考え込む。すずお君は首を傾げた。
「……クレア。やっぱり、馬は必須ですか?」
「……そうだな。これからの事を考えたら。馬に乗った方が徒歩よりは格段に速く目的地にたどり着ける。だが。私やすずおを乗せてくれるかはわからんな」
「そうなんですね。馬と仲良くなれたらいいんだけど」
すずお君が言うと。クレアさんは微笑ましげに笑う。
「私よりは気に入ってもらえるだろうな」
「はあ。ならいいんですが」
「とりあえずは。ギルドに行く事を考えよう」
クレアさんに言われてすずお君は頷いた。こうしてまた、コダーテのギルドを目指したのだった。
1時間程経ってやっとギルドにたどり着く。木造の二階建ての建物に剣を交差させたマークの看板が掛かっていた。
「こちらがコダーテギルドでござる。さ、皆入ってくだされ」
「ああ。久しぶりに来たな。レミリアの事で手がかりが見つかればいいんだが」
「……レミリア殿でござるか。グリーン。もしよかったらではあるが」
トレ氏がまっすぐにグリーン氏を見据えた。
「貴殿が持っているレミリア殿のペンダントを見せていただきたい。それには探索魔法が付与されているはずでござるから」
「そうだった。私とした事が失念していたよ」
「まあまあ。では。早速、調べさせてもらおう」
トレ氏が言ったのを聞いてグリーン氏が懐から美しいアクアマリンブルーの宝石があしらわれたペンダントを出した。それを手渡す。トレ氏は難しい表情になって先にギルドの中へ入っていく。他のメンバーも後を追いかけた。
トレ氏がペンダントを調べている間にグリーン氏はブラックラビットの毛皮や爪を受付に渡した。受付嬢――お姉さんは驚きながらも受け取ってくれる。
「……まあ。これは立派な爪や毛皮ですね。少々お待ちください」
「わかりました」
グリーン氏が頷くとお姉さんは奥に行く。しばらくして小さな麻袋を持って戻ってきた。
「お待たせしました。毛皮と爪を換金してきました。合計で3000ダラーになります」
「へえ。今回は高く買い取ってもらえたな」
「ええ。ブラックラビットの爪や毛皮は割と高値で取り引きされますから」
お姉さんがにっこり笑顔で言う。
ちなみにカイドー国では銅貨1枚が2ダラー、銀貨1枚で20ダラー、金貨1枚で200ダラーとなる。グリーン氏は金貨15枚を受け取った。
「……凄いですね。グリーンさん」
「……ああ。すずお君か。確かに。今回は高値で買い取ってもらえたしね」
「はい。魔術の腕もグリーンさんは主より上かもしれないです」
サンショー嬢が聞いたら怒りそうな事をすずお君は言う。グリーン氏は困ったように笑い、すずお君の肩に手を置いた。
「白魔女殿よりは腕が落ちるよ。特に治癒魔法などに関しては君のご主人の方が上だ」
「はあ」
「さ。今は休憩をしよう。クレアちゃん、ブランカさん。こちらには食事ができるスペースもあるから」
「え。そうなの?」
「はい。小腹が空いているでしょうから。甘い物も充実していますよ」
グリーン氏の言葉にブランカさんが目を輝かせた。こうしてすずお君はクレアさんと一緒にお食事スペースまで引っ張っていかれたのだった。