3話
この回は残酷な描写が入ります。
苦手な方はご注意ください。
すずお君一行が旅立ってから半日が過ぎた。
やっとサホロの町からコダーテの町に入っているが。トレ氏がマスターをしているギルドまではまだ距離があった。はっきり言って遠い。それもそのはずだ。カイドー国は大陸にあるのでとにかく広大なのだった。
「……ねえ。トレさん。ギルドまでは後どれ位かかるの?」
「そうでござるな。後3時間はかかるでござる」
「えっ。まだそんなにかかるのね」
3時間と聞いてブランカさんはガックリとなる。クレアさんが宥めるが。それでも表情は暗いままだ。転移魔法を使いたくはある。が、魔力や体力を割と消費するために1日に2回使うのが限度だった。大魔女で人族トップの魔力量を持つブランカさんであっても。2回の壁は越えられない。
ブランカさんは魔力切れを防ぐためにも転移魔法は明日まで使えないのだった。
「……ただ歩くだけなのも退屈ね」
「それはそうでござるな。ちょっと休憩を挟もうか」
「やった!クレア、すずお君。お昼ご飯を食べるわよ!」
トレ氏が頷いたにも関わらず、ブランカさんはクレアさんやすずお君に声をかける。トレ氏は苦笑いした。
その後、道端にある倒木の辺りで一行は休憩を取った。トレ氏はテッド氏と隣り合い、グリーン氏はちょっと離れた所に座る。ブランカさんはクレアさんと隣り合ってすずお君は1人で一番端に腰掛けた。ちなみに皆の昼食は気を利かせたソルト氏やサンショー嬢の特製サンドイッチだ。普通の食パンにレータスやトーマ、チーズ、ハームを挟んだだけの物だが。マーガリンがたっぷり塗ってあるし隠し味にマスタードが使ってある。
「う〜ん。美味しいわあ」
「主。コンソメスープもありますよ」
「あら。サンショーちゃん、気が利いてるわよね」
「本当ですね。サンショー様には感謝しないと」
「うん!」
クレアさんが言うとブランカさんは頷いた。キャッキャウフフしている2人に男性陣は割り込めない。何というか、2人だけの世界という感じがするからだ。
「……すずお君。苦労するでござるな」
「……トレさん」
「拙者は早くギルドに戻りたい。そうすれば、食器磨きに没頭できるでござる!」
「はあ。食器磨きですか」
「そうでござるぞ。アイロン当てに衣服の整理整頓。きちんとできると嬉しくてたまらぬ!」
顔を赤らめながら言うトレ氏にすずお君はやや引き気味だ。仕方ないと言えた。すずお君は黙々とサンドイッチを頬張ったのだった。
また、歩くのを再開した。するとグリーン氏とブランカさんが胸元から短めの杖を取り出す。前を見据えて何かを睨みつけた。
辺りにいきなり霧が立ち込み始める。真っ白な物に覆われて視界が塞がれてしまった。
「……グリーンさん。前方から来るわね」
「気づきましたか。これはフォグウルフですね」
「……ふぉぐ?」
「……フォグウルフだ。フォグはヤマト国やこちらでは霧を意味する」
「そうなんですか。ありがとうございます。クレア」
すずお君がお礼を言うと。フォグウルフが5頭程唸り声をあげながらやってきた。皆、毛色は白銀色だが。目は真っ赤だ。
「……まずいわね。気が立っているわ」
「本当だな。レクイエム!」
ブランカさんが言うと素早くクレアさんが沈静魔法をフォグウルフにかけた。効果は抜群だ。ウルフ達はたちまち大人しくなる。
が、1頭が襲いかかってきた。前衛にいたテッド氏、トレ氏は慌てて各々の武器を出して構える。テッド氏は長剣でトレ氏はダガーナイフだ。トレ氏が見かけによらない素早い動きで1頭の横の間合いに入る。そうしてさっと斬りつけた。だが、掠り傷ができただけだ。トレ氏は悔しそうにしながら後ろへ跳躍して元の場所に戻る。
「……すまぬ。やはり拙者の腕も落ちているな」
「いいって事よ。むしろやる気が出てきた」
「そうか。なら。こいつらを片付けるに限るな」
トレ氏がにやりと笑えば。テッド氏も同様にした。グリーン氏が雷の中級魔法をとっさに放つ。
「唸れ。サンダーバーズ!」
『グギャアア!!』
凄まじい雷撃と束縛効果によりウルフの内、3頭が戦闘不能に陥った。すずお君やクレアさん、ブランカさんはグリーン氏って何者?と思う。それでもテッド氏が残ったウルフ達に反撃を仕掛けていく。
「……クレアちゃんとグリーン。感謝するぜ。これで断然戦いやすくなった!」
「テッド。程々にな」
テッド氏は長剣でウルフの1頭の眉間を切り裂いた。1頭の頭から血が迸る。次に2頭目も間合いに入り込んで腹をズバッと斬った。傷は深くて2頭目のウルフは力なく倒れる。頭を切り裂かれたウルフも同様だ。3頭目も脇腹を貫かれて即死だった。
戦闘は呆気なく終わる。が、辺りは血まみれだ。テッド氏の頭や顔なども血が滴る。ドン引き気味の他のメンバーにテッド氏はニカッと笑うのだった。
その後、「やり過ぎだ!」とグリーン氏に怒られながらテッド氏はカラカラと笑う。
「別にいいじゃねーか。俺は人助けをしたんだぜ」
「それでもだ。もうちょい、スマートにやれと言いたい」
「へいへい。わーったよ」
グリーン氏に注意されてテッド氏は肩を竦めた。すずお君はやっとテッド氏は敵にまわしたらいけないとわかる。クレアさんやブランカさんも同じようだ。
「……すずお君。さっきは凄かったわね」
「はい。大丈夫ですか?」
「ええ。あたしはいいのよ。クレアがちょっとね」
ブランカさんが言うとクレアさんは苦笑した。が、顔色は悪い。
「……クレア。ちょっと休みますか?」
「……すまない。そうするよ」
「あの。お水を飲んでみてください」
クレアさんは「ありがとう」と礼を述べる。すずお君が差し出した皮袋を受け取り麻袋から木のお椀を出した。それにお水を入れて一気に呷る。
「ふう。やはりお水を飲むと生き返るよ」
「そうですか。良かった」
「すずお。グリーンさん達にも休憩を取りたいと伝えてくれないか」
「わかりました」
「頼む」
クレアさんに言われてすずお君はグリーン氏達の所に向かった。近づくとテッド氏が気づく。
「……ああ。確か。すずお君か。どうした?」
「あの。クレアさんが休憩を取りたいとか。それを伝えに来ました」
「そうか。わかったよ。そろそろ、ちょっと休むか」
「だな。そうしようか」
「拙者も賛成でござる」
3人共から了承を得られたのですずお君はクレアさん達の元に戻る。こうして休憩に入ったのだった。