表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

番外編、トレ・カワヤー氏の日常

 拙者は、カイドー国のある公爵閣下に仕えるしがない執事だ。


 普段は閣下のお側に控えてお世話を甲斐甲斐しくしている。まあ、閣下は基本的な事はできるから、あまり実際は手が掛からないがな。

 拙者は執務のサポートや細々した事を主に仕事にしていた。食器磨きや邸の掃除、衣服のアイロン掛けなど意外とやる事は多いが。拙者なりに充実した日々を送っているでござる。


 今日も、閣下を早朝から起こしに行く。実は閣下は非常に朝に弱い。だから、叩き起すくらいでないとなかなかに難しいのだ。ドアを開けてベッドに近づいた。大声で呼び掛ける。


「……閣下、いや。ジェラルド様。起きてくだされ!朝ですぞ!!」


「……うーん、何だよ。トレか」


「何だよではありませぬぞ、さっさと起きないと。婚約者のスーリノ様をお呼びしますが」


「わ、わかった、すぐに起きる!」


「最初から、すんなりと起きてくださればいいものを。全く、世話の焼けるお方でござる」


 ため息をつきながら、クローゼットに行く。中から、閣下の着替えを出した。まずはシャツやスラックスを手渡す。閣下はベッドから出て寝間着を脱いだ。


「なあ、トレ。今日の予定を訊きたいんだが」


「今日でござりますか、確か。午前中は普段通りに執務があります。午後からはスーリノ様とのお茶会が控えておりまする」


「……はあ、スーリノ、ソティとか。あの子は積極的なのはいいんだがな。ちょっと、賑やか過ぎるし強引過ぎるきらいがある。嫌いではないんだが」


 閣下は珍しく弱音を吐いた。まあ、それもそうか。スーリノ様もとい、ソティリア・スーリノ侯爵令嬢は明るく朗らかで積極的な方だ。良い言い方でいえばなんだが。その実、声が大きいしスキンシップが激しい方とも言えた。閣下はもっと、穏やかで慎ましい女性が好みらしいのだが。さて、どうしたものやらと考え込んでしたう。


「閣下、スーリノ様とのお茶会は欠席なさいますか?」


「いや、それはそれでまずい事になる。欠席はしないよ」


「わかり申した、では。そのように致します故」


 頷くと、閣下はスラックスを履いた。ネクタイを締めてジャケットを羽織る。最後にネクタイピンをつけたら、身支度は完了であった。閣下はちゃんとしていれば、なかなかの美男子なのだが。普段はちゃらけているせいか、そうは見えない。何とも、残念至極でござる。閣下は寝室を出ると朝食をとりに食堂に向かった。拙者は、その場に残ったのでござった。


 後から来たメイドに寝室のベッドメイキングや掃除を命じた。それを見届けたら、エントランスホールに向かう。家令から手紙などを受け取るためだ。一階に続く階段を降りた。すると、白い物が混じった黒髪を撫でつけて黒のスーツに身を包む初老の男性が目に入る。彼が家令のドゥーエ・トレでござった。ちなみに拙者の実父でもあり申す。まあ、何で実父がいるのかは申し訳ないが、割愛させてもらうでござりまする。

 拙者はエントランスホールに着くと家令に声を掛けた。


「おはようでござる、ドゥーエさん」


「……おはよう、トレ。相変わらず、口調は直らぬようだな」


「直そうと頑張ってはみたでござるが、なかなかにうまくいきませぬ。それより、ドゥーエさん。閣下宛の手紙や書類はありますかな?」


 訊いてみると、家令はにこやかに笑いながら頷く。両手には何通かの手紙が握られていた。


「こちらがそうだよ、トレ。後、君にも手紙が二通届いているが」


「何と、そうでござりましたか。早速、内容を確認致しまする」


「それがいいだろうね、ちなみに。差出人は確か、白魔女の使い魔君とグリーン様の使い魔さんからだ」


 白魔女とグリーンと聞いてすぐにピンときた。すずお君とレミリア殿だ!

 懐かしくて、胸が久しぶりに躍る。閣下宛と自分宛の手紙を受け取り、執務室に急ぐ。

 執務室に着いたら、ドアをノックした。中から返答があったので、入る。


「閣下、手紙が届いておりますぞ!」


「あー、今日もか。見せてくれ」


「わかり申した」


 閣下に手紙を渡した。拙者はすずお君からの手紙をまずはペーパーナイフで封を開ける。内容はこうだった。


<トレさんへ


 お元気でしょうか?


 もう、トレさんと会わなくなってから二年が経とうとしていますね。


 僕から会いに行きたいのは山々なんだけど。


 また、トレさんの気が向いたら使い魔さんと一緒にいらしてください。


 お菓子やお茶を用意して待っています。


 主のサンショー様や旦那さんのソルトさんもトレさんの事を心配していました。


 それでは。


 敬愛するトレさんへ


 すずおより>


 なかなかに心温まる内容でござった。何故か、目から汗が出そうになったでござる。最後はレミリア殿からの手紙の封を開けた。


<トレさんへ


 お元気ですか?


 あたしは元気にしています。


 相変わらず、トレさんは公爵様のお世話で忙しいのだろうなと思っています。


 無理はなさらないでね?


 ご主人様も元気にしていますが。


 最近、白の大魔女様のブランカ様と急接近していて。


 この先が思いやられます。


 まあ、愚痴はこれくらいにしておきますね。


 それでは。


 敬愛するトレさんへ


 レミリアより>


 二通目を読んで、拙者は非常に驚き申した。ブランカ様とグリーンが急接近とな?

 もしや、あの二人は恋仲なのか?

 訳が分からぬ。仕方ないので、閣下に自室に戻る旨を伝える。お返事を書くのでござった。


 

※ちなみに、カワヤーさんの名前のトレはイタリア語で数字の「3」を意味します。

お父さんの名前のドゥーエは同じく数字の「2」を意味しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ