番外編 タチマチ岬にて
僕はある日に主や旦那さんとお出かけをしまひた。
ちなみに旦那さんはソルトさんといい、魔導車という便利な四角い箱みたいな乗り物の操縦が得意でふ。運転席にソルトさん、助手席に主のサンショー様、後部座席に僕が乗りまひた。朝方の早くに起きて身支度をして、サンショー様お手製のお弁当やらを準備しまひたね。
けど、サンショー様は不意にこう言いまひたよ。
「……すずお、あんたは人型になりなさい」
『な、何ででふか?!』
「いいから、なりなさい!」
強引に押し切られ、仕方なく人型になりまふ。ソルトさんが慌てて衣類を持ってきてくれまひた。ちなみに少年の姿だと色々と面倒なので、青年の姿でふ。
「うん、これでいいわ。モルモットの姿だと崖から落ちるかもしれないし」
「……何気に怖い事を言わないでくださいよ」
「あら、心配はしているのよ。さ、早く服を着てちょうだい」
僕はため息をつきながら、肌着類から身につける。もそもそとズボンやシャツを着た。
「すずお、今日はかなり冷え込んでいるから。厚着をした方がいいよ」
「わかった」
頷いたら、ソルトさんは毛糸で編んだセーターや厚手の靴下、外套などをクローゼットから出してきた。後、編み上げの滑り止め付きのブーツも出してくる。
「今日はタチマチ岬まで行くからね。すずおはまだ、寒さに慣れていないし。これくらいは着込んでいないと風邪をひくかもしれない」
「そうなんだね」
「俺が着方を教えるから」
ソルトさんはそう言って、僕にセーターなどの着方を教えてくれる。
一通り、着込んだら編み上げブーツの履き方も教えてもらった。
「よし、準備は完了だな。さ、魔導車に乗りな」
「うん」
僕はヤー家から出て、外に停めてあった魔導車の扉を開けた。既にカイドー国は冬になっている。確かにソルトさんが言ったように、厚着をしていないとダメだな。ブルリと震え上がりながら、乗り込んだ。
お弁当やら着替えやらの荷物を積み込む。早速、運転席にソルトさんが、助手席にサンショー様が座る。
「さ、出発よ!」
「ああ、行こうか」
サンショー様が言うと、ソルトさんがにっこりと笑いながら答えた。相変わらず、仲は良いな。僕はそう思いながらも動き出した魔導車の窓から、空を見上げた。雲一つない快晴の空だった。僕はまた、ため息を小さくついた。
道中、ソルトさんは迷いなく魔導車を進めていく。サンショー様は数日前に焼いておいたクッキーを食べながら、窓から見える景色を眺めている。僕はぼんやりと同じく景色を眺めていた。海が綺麗だな。
「……すずお、あんたはタチマチ岬は初めてだったわね」
「そうですね」
「凄く綺麗な景色が見られるから、楽しみにしていてちょうだい」
サンショー様はそう言ってまた、景色を眺める。僕はタチマチ岬ってどんな所なのかと思った。魔導車はその後も進み続けた。
やっと、タチマチ岬に着いた。眼前には切り立った険しい崖や蒼の海、どこまでも澄み切った空が広がっていた。僕はあまりの絶景に言葉が見つからない。強く吹き付ける風や潮の匂いはするが。そんな事が気にならないくらいには、美しい光景だ。
「凄いでしょ。一回、すずおにも見せたくてね。だから、旦那に無理を言ったの」
「そうだったんですか、主なりに考えていたんですね」
「あら、私はいつもちゃんと考えているわよ」
主の言葉に苦笑いをする。主は豪快だが、意外と細やかな一面もあるのだ。そう思っていたら、ソルトさんが近づいてきた。
「すずお、早いけど。食事にしよう」
「わかった」
僕もソルトさんが抱えているバスケットを持つのを手伝う。ピクニックシートを敷いた。ちなみに、あまり風が吹かない場所を選んでいる。景色は見えにくいが、安全面を考えたらここに決まった。
「よし、シートは敷けたから。すずお、バスケットを開けてみな」
「うん。主特製のサンドイッチとか入っているかな」
僕はそう言ってから、バスケットを開けた。中には切り刻んだゆで卵をマヨネーズで和えたのを挟んだ物やレタスにハム、チーズを挟んだ物、鶏肉の照り焼きなど豪華なメニューが盛りだくさんだ。水筒もあり、中にはコンソメスープが入っていた。
「美味しそう」
「ふふっ、たくさんあるから。好きなだけ食べたらいいわよ」
「いただきます!」
僕はそう言うと、手渡されたおしぼりで手を拭いた。そうしてから、サンドイッチを取り口に運んだ。
「うん、美味しいです!」
「そう、なら良かったわ」
主もまんざらではなさそうだ。僕はモゴモゴしながら味わう。ソルトさんも鶏肉の照り焼きをお箸と言う2本の棒で器用に食べている。ポテトサラダもあり、僕はそれも食べた。しばらくは主特製の料理を味わった。
夕方になり、食事の後片付けを済ませる。ソルトさん曰く、今晩は近くの宿屋にて泊まるらしい。部屋割りはソルトさんと僕が2人部屋、主は1人部屋だ。
その後、魔導車で宿屋まで行った。僕は宿屋の料理も美味しくてつい、食べ過ぎてしまう。主に怒られながらも胃薬を飲んだのは、良い思い出になった。




