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14話

 翌朝、すずお君はいつも通りに目を覚ました。


 ……はずだった。目の前には信じられない光景が広がっていたのだが。昨夜までいたはずの金の髪に青い瞳の美少女――レミリアの姿がなかった。

 すずお君は慌てる。寝袋が空だった。急いで起き上がり寝袋から出た。一通り辺りを歩いて回ってみたが。やはり彼女はいない。


(……どこに行ったんだ?!)


 仕方なく元いた場所に戻る。もしやと思い、寝袋の中を恐る恐る探ってみた。着ていた衣服が残されている。そしてそこには。


『……ごめん。この姿の方がいいかと思ったのだけど』


「……こちらにいたんですね。驚かせないでください。レミリアさん」


『本当にごめんってば。けど。モルモットの姿ならおんぶはしなくてすむでしょ?』


「確かにそうですね」


『すずおさん達には感謝しているのよ。なら。せめて負担にはあまりなりたくなかったの』


 そう言ってレミリアはじっとすずお君を見つめた。つぶらな瞳には邪な感情は一切見受けられない。2人して見つめ合っていたら。ふわぁと誰かの眠そうな声が聞こえた。


「……あ。もう朝かよ。ちょっと肌寒いな」


 声の主はテッド氏だ。すずお君はすぐにわかった。我に返るとレミリアに言う。


「……レミリアさん。テッドさんが起きたので。ぼくは水を汲んできますね」


『わかったわ』


 レミリアは頷く代わりにキュウと小さく鳴いた。すずお君は慌てて小さなバケツを手に近くにあるであろう小川に急いだ。


 水を汲んできたすずお君は皮袋に移し替えた。それが終わると起きてきたトレ氏やテッド氏と交代で身支度をすませる。その際にレミリアがモルモットの姿に戻った事を説明した。2人は知っていたのか意外とすんなり聞き入れてくれる。


「あー。俺はグリーンやレミリアちゃんと3人であちこち旅をしていたからな。あの子がモルモットの姿の使い魔なのは前から知ってたぜ」


「ご存知だったんですね」


「まあな。今朝みたいな事は何度か経験していたし」


 テッド氏はそう言うと麻袋から携帯食を出す。水と一緒に食べ始めた。トレ氏も同じようにしている。


「……拙者も使い魔が動物の姿をしている事が多いのは存じ上げていたでござる。だから今更驚かぬな」


「そうなんですか」


「うむ。すずお君の場合がちょっと特殊なのでござる。君が人の姿や元の姿に自在になれぬのは。たぶん、主のサンショー殿の魔力を浪費させぬためではないかと思う」


「……え?」


「やはり自覚はなかったでござるか。君には強い封印術がかけられている。それのせいで人型になれないのだ。だが。今はサンショー殿の作った薬で一時的に封印が解けたのでござるよ」


 トレ氏が驚愕の事実を淡々と告げた。が、1つ疑問が出てくる。一体何のために誰が封印術をかけたのかだ。するとトレ氏は携帯食を食べきって水でぐいと流し込む。そうしながら説明する。


「……おそらく。封印をかけたのはグリーンでござるな。あれはカイドー国の魔術士団長をしている故。それだけの実力はある。何だったら。サンショー殿に訊いてみたらいいと思うでござるよ」


「……わかりました」


「さ。すずお君も朝飯を早く食べるでござる。腹が減っては戦はできぬからな」


 トレ氏に言われてすずお君はノロノロと麻袋から携帯食を取り出す。油紙を開いて口に含むが。何故かあまり味を感じられなかった。


 日が高く昇る前に一行は出立した。すずお君はモルモットの姿のレミリアを布袋に入れた上で抱えながら歩いている。ちなみに布袋は首からさげていた。


「レミリアさん。コダーテまでは歩くと片道でどれくらい掛かりますか?」


『そうね。10日は掛かるかしら』


「……10日ですか。随分と掛かりますね」


 すずお君はふうとため息をつく。かなり遠い場所に飛ばされたものである。仕方ないかとは思うが。テッド氏とトレ氏もちょっと諦め顔だ。


「すずお。コダーテからだとヒダーカはかなーり遠いぞ。まあ、グリーンとブランカさんが転移魔法を使ってくれたからな。俺達は運がいい方だ」


「そうでござる。拙者からするとホンシュ国とカイドー国の距離よりは知れている故」


「……そうですね。今は弱音を吐かずに進むだけです」


 すずお君が言うと2人はニッと笑った。元気づけるつもりらしい。また歩くのを再開したのだった。


 朝から夕方近くまで歩き、野宿をして。そんな風にしていたら5日が経っていた。ヒダーカはだだっ広い草原が続く土地だ。一行はグリーン氏から預かった2つのペンダントの共鳴を頼りにしながら進む。


「……もう5日が経ちましたね」


「おうよ。もう夏だからか、あちいな」


「ええ。トレさんも大丈夫ですか?」


「……拙者も暑いでござる。が、コダーテに着くまでの辛抱だな」


「言えていますね。レミリアさんも大丈夫?」


『私は平気よ。袋の中にいるからそんなに疲れていないし。すずおさんはバテ気味に見えるけど』


 レミリアが言うと。すずお君は苦笑いする。


「わかってたんだね。けど。少しでも先を進まないと。早めにサホロに帰れないし」


『……ご主人の元に早く戻りたいのね』


「うん。主のサンショー様や旦那様には恩義があるんだ」


 そう言うとレミリアは黙った。何かを考えているようだ。


「……レミリアさん?」


『……何でもないわ。今は先を進んだ方がいいわね。すずおさんの言う通りではあるから』


 すずお君はとりあえずは頷いた。レミリアに問いかけたい気持ちはあったが。それに蓋をして歩くのだった。


 さらに5日が過ぎた。やっとコダーテに戻れた。トレ氏はギルドでしばらく休んだらいいと言ってくれた。何でも部屋数は少ないが。頼みさえすれば、宿泊もできるらしい。言葉に甘えてテッド氏が1人部屋、すずお君はレミリアと2人部屋を取った。荷物を置き、食事スペースにて夕食にする。


「……すずお。やっと戻ってこれたな」


「本当にそうですね」


 テッド氏は鳥の手羽先唐揚げをつつきながら言う。スープを飲みながらすずお君は同意する。ちなみにブランカさんとグリーン氏は明日になったらこちらに追いつくらしい。


「……レミリアちゃん。窮屈な思いをさせてわりいな」


『大丈夫よ。案外袋の中も快適なの』


「そっか。すずおじゃなく三十路のおっさんだと嫌かもなと思ったが」


 レミリアは『そこまでは考えていないわ』と言った。3人で笑い合ったのだった。


 

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