11話
すずお君が目覚めるともう朝だった。
昨夜にトレ氏から聞いた事は本当なのだろうか。ふとそんな疑問が脳裏をよぎる。が、目覚めていたテッド氏がすずお君に声をかけてきた。
「……はよ。すずお」
「……おはようございます。テッドさん」
何でか、テッド氏はすずお君を呼び捨てにしている。ちょっと眉をひそめながらも返答した。
「ふぃ〜。昨日は散々だったぜ。すずおはなんともないか?」
「いえ。なんともないですよ」
「そっか。じゃあ、俺は顔でも洗ってくるよ」
すずお君は頷くと。テッド氏を見送った。
トレ氏も声をかけてきた。
「おはようでござる。すずお君」
「おはようございます。トレさん」
「昨夜はよく眠れたでござるか?」
「はい。ぐっすりと眠れましたよ」
「……良かったでござる。実はこっそり睡眠魔法を使っていたのだが。よく効いていたようであるな」
トレ氏は爆弾発言をしてくれる。すずお君は驚いてしまう。
「え。そうだったんですか?」
「うむ。まあ、内緒でしたのは謝るでござる。申し訳ない」
「いや。それはいいんですけど」
すずお君が言うと。トレ氏はにっと笑って肩を軽く叩いた。
「では。すずお君も身支度をするが良かろう。もうグリーン達も目覚めている故」
「わかりました」
頷くと麻袋から歯磨きセットやタオルを出した。身支度を済ませに湖に向かうのだった。
その後、朝食をいつものように済ませたら出立する。すずお君はいつかのようにテッド氏の後ろに乗せてもらう。
「……グリーン。以前に借りたペンダントであるが。今の内に返しておくでござる」
「ああ。本当だ。トレに預けっぱなしだったな」
「このペンダントにあしらわれたアクアマリン。これは珍しい魔石でござるな」
トレ氏が放った言葉に皆が耳を疑う。珍しい魔石?
「……トレ。わかるのか?」
「わかるぞ。このアクアマリンは普通の石ではない故。このカイドーの北方にあるワッカイの町でしか採れぬ希少な魔石でござる」
「そうか。このアクアマリンはワッカ・ブルーと言われていて。持ち主の居場所を同じように持っている者に教えてくれるという不思議な力が備わっている。この力でわかったんだな?」
「そうでござる。グリーン」
「なんだ」
「物の試しではござるが。すずお君にそのペンダントを預けてみたらどうだ?」
トレ氏に言われたが。グリーン氏は難しい顔で黙り込んでしまう。
「……グリーン」
「……わかったよ。すずお君。私のとレミリアのを君に預ける。2つを身に着けていたら。共鳴し合ってレミリアの居場所を教えてくれるはずだ」
「ぼくが預かっていいんですか?」
「拙者が思うに。そのペンダントはすずお君が持っていた方が良かろうな」
「……わかりました。大事に預からせてもらいます」
すずお君はテッド氏に頼んで一旦馬の足を停めてもらう。鞍から降りるとグリーン氏の元に向かった。近づくとグリーン氏は馬上からまずは自身のペンダントを外す。それを受け取るとすずお君はお守り用にと胸元からさげている小さな巾着に入れた。今度はトレ氏からレミリアのペンダントを受け取り同じように入れようとするが。
「……それは君が身に着けると良かろう。よいか。グリーン」
「構わないよ」
グリーン氏の言葉を受けてすずお君は自身の首にペンダントを通した。それを服の中に仕舞い込む。すると小さな少女らしき声が頭の中に響いた。
『……た…すけて』
ぴちゃんと鳴る雫の音に不思議と反響する場所。すずお君はその少女がいるのが洞窟らしき場所だと直感でわかった。
「あの。グリーンさん。ヒダーカに洞窟ってありますか?」
「……ヒダーカに洞窟ね。いきなりどうしたんだ?」
「……実は。さっきに……」
すずお君は簡潔に先程に聞こえた少女の声などについて説明する。そうしたらグリーン氏とブランカさんが視線を合わせて頷き合った。
「……すずお君。たぶん、さっきに聞こえた女の子の声は。レミリアちゃんの物だと思うわ」
「そうなんですか?」
「ええ。よし。そうときたら。すずお君を転移魔法でヒダーカの町に送るわ」
「私も協力しますよ」
「そうね。2人で転移魔法を使いましょう。あたしとグリーンさんだったら。テッドさんやトレさんも一緒に送る事ができるわね」
ブランカさんはそう言うと懐から折りたたみ式の杖を出した。グリーン氏も同様にする。
「さ。すずお君、テッドさん。トレさんも。馬から降りてちょうだい」
「わかり申した。テッド、すずお君。降りるぞ」
「おう。んじゃ。レミリアちゃんの居場所がわかったんだな?」
「まあね。すずお君の話で大体はわかったわ。レミリアちゃんの居場所は。ヒダーカのカムイ洞窟よ」
「……そこにレミリアさんはいるのか。わかりました。ぼくらを送ってください。お願いしますね」
「任せなさい!」
ブランカさんはにっこりと笑いながら頷いた。馬から降りると杖を手早く組み立てる。そして地面に突き立てた。グリーン氏も同じように降りて杖を組み立てる。彼は頭上へと掲げた。
「では。行くわよ。グリーンさん!」
「……はい。ラ・デルク・ルナ・エスティ・リア……」
「……フィジー・ハイラル・イェン」
「「かの者らを我らの望む箇所に送らん!テレポリート!!」」
ブランカさんとグリーン氏の詠唱する声が重なり合う。途端に辺りは白に黄金、銀に若葉色と4色程の色鮮やかな眩い光に包まれた。地面には複雑怪奇な幾何学模様の魔法陣が浮かび上がる。すずお君にテッド氏、トレ氏の3人はあまりの眩しさや浮遊感に瞼を閉じた。そして空中に放り出される感覚を最後に意識が途切れたのだった。
ぴちょんぴちょんと天井から落ちてくる雫が額に当たりすずお君は意識を浮上させる。
「……ん。ここは?」
「……気がついたか。すずお」
「テッドさん」
すずお君は固い石床の上に自身が倒れているのに気づく。そして薄暗い中にいたが。既に目覚めていたトレ氏が光魔法で辺りを明るく照らしてくれたのですぐにどこかは分かった。
「……ここがヒダーカのカムイ洞窟ですか?」
「そのようでござるな」
「成程。じゃあ。ここにレミリアさんがいるのか」
すずお君は不意にきぃんとペンダントが鳴るのを感じ取った。これがグリーン氏が言っていた共鳴のようだ。立ち上がるとこの共鳴を頼りに歩き始める。慌ててテッド氏とトレ氏は後を追いかけたのだった。