第9話 旅路
宿場町グリーンタウンまで徒歩で30分程度。俺は訓練がてら重力魔法で自分に負荷をかけつつ歩を進める。
「坊っちゃん、疲れてないかい?」
ロジーナが気を遣って聞いてくるが、疲れているどころか負荷をかけながら歩いているのだから何ということはない。
「だいじょうぶです。ロジーナししょう」
俺は元気にそう答えると飛ぶようにして振り返り、後ろにいるロジーナにニッコリと微笑む。
「おう、そうか。まだ旅は長いからな。無理は禁物だぞ」
ロジーナはそう言うと軽く周辺を警戒しつつ歩みを進める。
この辺りは強力な魔物が出てくることはないが、小型の肉食の魔物がいないわけではないので、油断はできない。普通の子供だったらの話だが。
今は3人の師匠がいるおかげで、その存在感だけで半径1km程度の範囲の魔物は逃げ出しているだろう。俺なら襲われたとしても、自動追撃魔法を遥か上空に設置しているため、どうあっても無事にやり過ごせるのだが、まあ、平和なのはいいことだ。
「プラタスさんは基礎体力が非常に高いですからね。このくらいではなんともないでしょう」
スピカが俺の横に並びながらロジーナに話しかける。
「坊っちゃんのはそんなレベルじゃないぞ。控えめに言って変態だ」
もちろん性癖のことではない。4歳児にしては少しだけ強いと言うことだ。前世においてもこのくらいの歳の頃は魔法はともかく剣術に関しては、極端に強かったわけではない。
「そんなことはありません。ししょうからまだ、いっぽんもとることができていませんから」
俺はそう答えるがロジーナは
「そろそろ気を抜いているとヒヤッとする剣撃が来たりするんだよ。あと一年もしたら騎士団のルーキーくらいは余裕で倒せるだろうな」
と俺のことを評価する。
まだそんなに強くなっている実感はないのだがな。
「プラタス様は騎士団に支給されている程度の鎧であれば、今でも素手で破壊することができますよ」
ロジーナもローも物騒なことを言っている。騎士様に喧嘩を売るわけが無いだろうに。
「そんなことを言ったら、プラタスさんの魔法は既に魔法大学を卒業できるレベルですよ」
スピカも2人に賛同する。
やれやれ。この師匠達は贔屓目が酷いな。俺なんてまだまだヒヨッコだろうに。ただ、褒められて悪い気分はしない。
「ししょう、ありがとうこざいます。まちについたらきしのひとにけっとうをもうしこんでみます」
そう言うと俺はやる気に満ちた目をして師匠達に言い放つ。
「「「まてまてまて!」」」
3人の声が重なる。どこかの3人組のようだ。
「まあ、坊っちゃん。決闘はもうしばらく後でも遅くないな。騎士様もきっと暇じゃないし」
「プラタスさん、その歳で騎士団長殺しの2つ名はいらないと思いますよ」
「プラタス様にはちゃんとした相手を王都で準備していますので、そこまでは我慢しましょう」
全員に止められてしまった。思った以上に体術の訓練が良い方に作用しているのかもしれない。俺は少しだけ王都での腕試しが楽しみになってきた。
「はい!きしだんのひととのけっとうはまたこんどにします」
そんなことを話していると、もう少しでグリーンタウンというところまで来ていた。
その時、遠く1km離れた森の中に、晴天にも関わらず稲妻が突き刺さった。
「「「・・・」」」
「プラタスさん・・・」
「坊っちゃん・・・」
「プラタス様・・・」
「「「何をしてるんですかーーー!」」」
どうやら自動追撃魔法が何らかの魔物を感知して攻撃を仕掛けたらしい。
1km離れたここからでも森の中にできたクレーターがわかる程度には破壊したようだ。もちろん魔物は跡形もなく消え去っている。少し魔法の強度設定を間違っていたようだ。
「ごめんなさい」
俺は反省し今にも泣きそうな顔をして師匠達に謝る。
「プラタスさん、そんな顔しないでください。素晴らしい魔法でしたよ」
「そ、そうだぞ坊っちゃん。よくあることだ。気にすることないぞ!」
「ちょっと森が削れた程度です。問題ありません」
それぞれ慰めてくれる。いやぁ、本当に今のは失敗した。晴天で雷ってのがまずおかしいし、見る人が見たら言い訳のできない状況だ。
周辺に誰もいなかったのが唯一の救いであろう。
「ちょっと行ってきますね」
スピカが地面がむき出しになった森に向かって走り始めた。補助魔法を使っているのかもう見えなくなった。
しばらくすると、俺の魔法で消し飛んだ木々が元通りに修復されていく。土の精霊に魔力を与える代わりに森の修復を頼んだのだろう。いやはや、申し訳のないことをしてしまった。
「ありがとうございます。スピカししょう」
俺は神妙にスピカにお礼を言う。
「こんなのは何でもないですよ。プラタスさん。それでは先を急ぎましょうか」
そう言うと再びグリーンタウンへ向けて歩き始める。このようにして王都への旅はスタートしたのであった。このときグリーンタウンでは森に落ちた落雷の話題で持ちきりだったことは言うまでもない。
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