第8話 初めての旅
充実した修行ライフを1年間続けてきたある日、3人の師匠から遠征しての戦闘訓練の申し出があった。前世までではこんなイベントはなかった。ロー先生が加わったことで変化が生まれたようだ。今の俺の実力からして、この遠征で死ぬことはないだろうが、今までに経験したことのないイベントには少々ナーバスになる。魔王討伐に向けてどのような影響を及ぼすか予測し前向きな結果となるように考えていく。
「ししょう、それでどこにいこうとかんがえているのでしょう?」
俺はスピカに聞いてみる。
「私もロジーナもローも王都に知り合いがいるから、王都まで行ってみようと考えているのよ」
1番お姉さんのスピカがこの遠征を仕切ってくれるようだ。
「魔物との戦闘も考えていたんだけど、ロジーナ、ロー、それとご両親と話し合って、まずは対人経験を積みましょうと言いうことになったの」
ありがたいことに俺の教育について色々と考えてくれたらしい。
「人との戦闘訓練は素晴らしい経験になると思うんだけれど、プラタスさんの実力が知れ渡るとあまりいいことがないし、それに他の貴族との関係もあるから気をつけないといけないわね」
ふむ。多少裕福な貴族のお坊ちゃんが偉いとこの貴族ご子息、ご子女をやっつけたりすると面倒くさいことになるし、実力を発揮してしまうと良からぬ悪巧みに巻き込まれる可能性もあるといったところか。まぁうまいことやるしかあるまい。
「どのくらいのきかんおうとにいることになるのでしょうか?」
実力を隠して戦闘訓練するくらいなら師匠とここで修行していたほうが身になるんじゃないかと考えなくもないが、短い期間なら遠征を試してみてもいい。
「そうね、今のところは1ヶ月くらいを考えているわ」
まあ、妥当なところか。
「わかりました。ししょうにハジをかかせないようにどりょくします」
俺はどんな旅になるかはわからないがとりあえず当たり障りのないことを言っておく。
「ふふふっ、そんなに気負う必要はないですよ。楽しい旅にしましょう」
☆☆☆
いよいよ王都に向けて出発する日となった。ロディとイリスは3人の師と並び立つ俺を見て、寂しそうに、そして心配そうに話しかける。
「プラタス、大丈夫?昨日はよく眠れた?あぁぁ、どうしましょう。私もついていこうかしら?そうね、それがいいわ。ロディ、私もちょっとそこの王都まで行ってくるわ。大丈夫よ!心配しないで。ちょっと行ってすぐに帰ってくるから。さぁプラタス、私が抱っこして連れて行ってあげるわ。心配することは何もないのよ」
母は若干錯乱気味である。
「イリスよ、プラタスなら大丈夫だよ。3人の先生方もいらっしゃることだし何も不安になることはない。プラタスは大物になる男だ。見聞を広めるためにも外の世界を見て回るのはいいことだ。それに俺達がいては先生方の気も休まるまい。1年間休みもなくプラタスの面倒を見てくれたのだ。休養も兼ねて王都で羽を伸ばしてもらおうと、そう言っていたではないか」
ロディがなだめる。
「そうよね、わかっているわ、わかってはいるのよ。でも1ヶ月よ?そんなにプラタスと離れて暮らすなんて想像もできないのよ」
イリスは少し落ち着いたように見えるが、その目はまだ不安1色である。
「ちちうえ、ははうえ、ぼくはいえをつぐものとしてりっぱにせいちょういたします。おうとでいろいろなけいけんをしてまいりますので、ぼくのせいちょうをたのしみにおうちでまっていてください」
俺は母を落ち着かせるように話しかける。
「ししょうもいらっしゃいますし、たびのあいだのあんぜんはまちがいありません」
母はようやく落ち着いたのか、穏やかな目つきになり、師匠に挨拶をする。
「スピカ先生、ロジーナ先生、ロー先生、何卒プラタスをよろしくお願いします。プラタスはどう見ても優秀で顔立ちもよく、優しさもにじみ出ております。必ず悪い虫が近づいて来ますので、駆除をよろしくお願いします」
どうやらまだ錯乱しているようだ。
ロディは俺の耳元に口を寄せると
「王都にはいい女が沢山いるがその半分は罠だ。そしてもう半分はお前を利用しようと近づいてくる輩だ。本当に信用のできるいい女はほんのひと握りだからな。それを忘れるな」
ロディは4歳の俺に何を求めているのだろうか。
師匠たちは苦笑いをしながら俺に問いかける。
「プラタス様、忘れ物はありませんか?」
「坊っちゃん、疲れたら運んでやるからいつでも言うんだぞ」
「プラタスさん、バナナはおやつには含まれませんよ」
何かおかしな発言も聞こえたが、まあ聞き流しておく。
あまりにも混迷を極める出発であったが、ようやく俺と師匠達は旅立つ。
「ちちうえ、ははうえ、いってまいります」
まずは近場の宿場町まで向かい、そこで乗合馬車に乗り王都へ向かう。
そうして俺達は王都へと旅立つのであった。
読んでいただきましてありがとうございます。
なかなかアクセス数が増えていきませんが、読んでいただいている方々のためにも書き続けて行きます。