第4話 師匠との出会い
歩けるようになると、俺は家の中、家の外、どこもかしこも走り回った。走ることは全身運動の基本である。はじめのうちは心配しつつも、元気に動き回る俺を嬉しそうに眺めていた両親も、玩具などには目もくれずいつまでも走り回っている俺を少しずつ脅威の目で見るようになる。走り回るだけではなく、歩き始めた頃に少しだけ魔法や身体能力、知識を両親に見せつける。両親が、うちの子供は天才なんじゃないか?優秀な教師を付けたほうがいいんじゃないか?そう勘違いするくらいに少しだけ能力を開放する。それなりに裕福な家庭に生まれた俺は、その立場を最大限に活かし、俺の望む教育計画を実行するために、少しずつ少しずつ俺に対する両親の評価や想いを誘導していく。
全ては大望を成し遂げるために。
そうして俺は3歳になった。この歳になると本格的に剣術、体術、魔法の訓練を始めている。前世の知識を存分に利用した独自のトレーニングは毎日のように続けているし、前世の記憶があるのだから何でも自分でできるようなものであるが、3歳からはそれぞれに師匠をつけてもらう。
なぜならばここでの師匠との出会いが今後の俺の成長に必要なのだ。もちろんまだ基礎訓練の段階なので、現在の最強である剣聖や大賢者、聖女などは必要なく、才能を引き出し伸ばすことに特化した教師が求められる。このまま普通に過ごしていると魔王までたどり着けず、魔族四天王に殺されて転生させられるのだ。
3歳から5歳までの英才教育が人類の限界を超える才能に繋がる。3人の住み込み家庭教師による英才教育が俺の毎日の日課である。毎回毎回同じ師匠というわけではないが、魔法と剣術に関してはこの二人が、俺の繰り返す人生の中で最良の師匠であると考え、ある周回からは固定している。
3人の師匠は
魔法の師スピカ・スカーレット
剣術の師ロジーナ・ペルセウス
体術の師ロー・オリオン
全員女性だ。
これは父の好みであり、これが大問題を引き起こすのであるが、俺にとっては面白い話でもないのでこの話は話題に困ったときに語るとしよう。
ともかく俺は3人の尊敬できる師との出会いを迎えるのであった。
時間割は概ね、午前中は剣術、お昼過ぎから魔法、夕方から夕飯までは両親から学問を、夕食のあと寝る前までは体術の時間だ。バランス良くかつ効率よく学ぶことが勇者としては重要なのだ。ともかく5歳になるまでは自己研鑽に励むことが魔王を討伐するうえで必要なことだと考えている。まだ討伐したことがないから正解はわからないが、今までの傾向からそう判断している。
俺は順調に成長すれば8歳のときに職業判定で勇者と判定され、国の管理下に置かれてしまう。そうなるとワガママは言えなくなる。それまでに俺は前世を変える準備を進めなくてはならない。前回までは魔法と剣術の修行をしていたが、体術はこの周回から始めている。なのでロー師匠を選ぶときには特に気を遣った。
父親が選んできたとびきりの美人師匠の中から、俺を成長させることができる教育理論を持ち、かつ魔王討伐への罠でないことを慎重に吟味するのである。
俺が選択したつもりになっていても、それは誰かに選択させられたことかもしれないし、誰かに選択させられたことが魔王討伐を困難なものにするかもしれない。俺は呪いによりこの人生を何度も周回しているが、同じような呪い、もしくは祝福を受けてる奴らがいるかもしれない。
そういった可能性も考慮し、この選択が結果にどう反映されるのか、慎重に考え、ただし何かを変えなければ魔王を打ち倒すことはできないため時には大胆に行動を起こしていく。
俺はその未来を変えるために終わることのない思慮と努力を積み重ねる。まだ見ぬハッピーエンドを掴みとるために、ただただ運命に抗うように貪欲に己を鍛え抜くのであった。
まだまだ駆け出しですが、この作品を見つけていただいてありがとうございます。
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