第25話 妹誕生
家に帰ったときはそれはそれは物凄い歓待ぶりだった。母は連日添い寝をしにくるし、父とは毎日お風呂を共にした。だが、喉元すぎればなんとやら、俺の生活は徐々に日常を取り戻していった。
そして、いつもどおりの周回であればそろそろ起こるだろう一大イベントに俺は心を踊らせ、同時に心を曇らせていた。俺が5歳になるあたりで2つのイベントが発生する。その1つ目のイベントがそろそろ幕を上げようとしていた。母の体調の変化とともに。そう、第二子の妊娠である。俺は毎周回の度に妹を溺愛している。辛く険しい繰り返し人生の中で、俺を癒やしてくれる数少ない存在。それが俺の妹パラス・バンクールである。この時ばかりは手放しに父を褒めてやってもいいと思えるのだ。この後に起こる悲しい別れを引き起こした張本人だとしてもだ。
俺は妹との出会いを待ちわびながら、悲しいイベントを心に仕舞い込み、日々の鍛錬を続けるのであった。
そして、母のつわりが始まり妊娠の発覚、あれこれしているうちに時は過ぎ去り、出産予定日が近づいて来る。
もう、この頃の俺は気が気じゃない。なにせ、俺の周回の中でもし妹が生まれてこなかったり、妹に何かあったりした場合、その原因は俺以外にはありえないからだ。俺があの時に何をしたから、俺がその時に何かをしなかったから、そういったことで未来が変わってもおかしくないのだ。過去5年間で妹が生まれてこないようなヘマをやらかしてないか毎日考える。魔王討伐のために俺の運命を変えていかなくてはならない周回人生だが、ここだけは変わらないように細心の注意を払っている。
そしてその時はとうとうやってくる。
可愛らしい産声が家中に響き渡る。
俺は思わず
「イリア、でかした!」
と叫びながらお産を終えたばかりの部屋に飛び込む。
父も母もメイドも何事かと目を丸くしているが構うものか。
「ぼくがおにいちゃんだぞ。パラス!」
父と母よりも先に妹の名前を呼ぶ。
そして産湯に浸かったばかりの妹を見やる。
ん?若干の違和感を感じたが、愛くるしい顔をした俺の妹だ。
だが少しだけ、ほんの少しだけ心に何かが引っかかる。間違いなく俺の妹だ。それは確実に言えることだ。だが何だ?モヤモヤする。とりあえず落ち着こう。前世ぶりの再会だったからテンションがおかしくなっているだけだ。落ち着こう落ち着こう。
「スーーーーーーハーーーーーーー」
よし。落ち着いた。もう一度妹を見てみる。うんうん。俺の可愛い妹だ。指を出すとギュッと握ってくる。俺はニヘラと顔を崩す。これだよこれ。俺の癒し。早く大きくなってお兄ちゃんと遊ぼうな。俺は泣き疲れて眠る妹を見ながら、絶対に俺が守ってあげるからなと誓を立てる。そしてその誓いを胸に今日も修行に打ち込むのだ。
☆☆☆
パラスが生まれて7日が過ぎた。毎日毎日飽きもせずパラスの顔を見ては修行し、修行してはパラスの顔を見に行くということを繰り返している。嬉しいはずの妹の誕生。だが俺は相変わらず引っかかるものを感じていた。いつもと何かが違う気がする。それは些細なことかもしれないが、俺が自ら変えようとして変えた未来ではなく、何かが俺の意志とは異なるところで変わっている気がする。俺は未だに違和感を感じるものの、その正体に気がつくことができずにいる。気がつくことができないのだから些細なことなのかもしれない。俺は無理やり理由をこじつけて、修行に打ち込むことでその不安をかき消すのだった。
☆☆☆
更に20日ほど経ったある日、俺はパラスの顔を見ていて急に前世との違いに気が付かされる。
いつからパラスの髪の色はグレーだった?
ゾクゾクと背筋が寒くなるのを感じながらも必死で考える。生まれたときはグレーだったか?いや、産毛だったし色素も薄かったからハッキリと色はわからなかった。ということははじめからグレーだった可能性もあるということだ。
前世の記憶が操作されていなければ、俺の妹、パラスの髪の色は爽やかなピンク色をしているのだ。何度も何度も巡ってきた人生の中で、髪の色が変わっていた事は無かった。いや、今の俺の記憶の中には無い。
この変化は俺が前世と違う動きをした事が原因か?それとも何か俺には制御できない力が働いているのか?どういうことかわからないがパラスの髪の色が変わっていることは確かだ。愛おしい俺の妹であることには違いはない。何か問題があるなら俺がなんとでもしてやる。そうだ。もしも不都合な変化だったなら、それすら凌駕する成長を俺がすればいい。パラスに罪はない。髪の色以外はいつもの周回と変わることはない。ならばいつもどおり愛し続けるだけだ。
心が決まってしまえばなんてことはない。
たかだか髪の色が違うくらいで怯えることなどない。どんなことがあろうと俺が跳ねのけてやる。俺はそう心に誓うのであった。
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