第24話 閑話 旅の終わりに
そろそろ家に帰る時が来たようだ。いつもの周回であれば、スピカやロジーナと毎日変わらずに修行を行っている時期であった。だが、今回の周回では新しくローを師匠として迎えたことにより新たなイベントが発生した。たかだか30日ほどの旅ではあったがいつもの周回とは違う経験ができた事は俺にとって新鮮で有意義なものだった。ナタリーとアイテムボックスを開発したのは時間と空間の魔法をレベルアップさせるためにおおいに役に立った。アランのところでは将来旅を共にするであろうロックスという隠れた才能に出会うことができた。サリムとの修行は俺の潜在能力の存在に気が付かせてくれたし、俺の隠された記憶に触れることができるかもしれないあの場所は、確実に俺にプラスになる場所だ。
何か新しいことが自分の意志とは別に勝手に進んでいくことは、どういう結果をもたらすかわからないこともありとてつもない不安を伴うが、俺の人生が決まりきった結果だけではないという安心感もまた生み出している。旅に出て本当に良かった。心から三人の師匠に感謝する。
「ししょう、こんかいのたびはほんとうにありがとうございました」
三人ともキョトンとした顔で俺を見る。
「プラタスさん、この旅は私達の休暇ですから。私達は好きに王都を楽しんでいただけですわ」
「そうだぞ坊っちゃん。久しぶりに師匠に会うことができて良い息抜きになった」
「私は王都を楽しむなんて今までしたことがありませんでしたので、初めて色々と楽しませていただきました」
三人ともこの旅をそれぞれ楽しんでいたようだ。
「それでは帰る前にナタリーのところへ寄って行きましょう」
そういえば帰る前に寄れと言われていた気がするな。
「はい、いきましょう!」
俺はウキウキしながら王城へと向かっていく。
研究室につくとナタリーが笑顔で迎えてくれた。
「よく来たねプラタス」
そういって机の引き出しから革でできた腰につけられる装備のようなものを出した。
「これがあたしたちで開発したアイテムボックスを装備に埋め込んだものだ。お前に渡す報酬はこの中に入っている。持っていきたまえ」
どうやら開発費をアイテムボックスに入れておいてくれたらしい。
「いいのですか?ぼくはもうしさくひんのアイテムボックスをいただいていますが」
そう、俺は第一号機をすでにもらっているのだ。
「ああ、試作機はお前が改良して使いやすいものにしたらいい。これはあたしからの餞別だよ」
戦闘時にも邪魔にならないデザインに作り変えられたアイテムボックスを新たに準備してくれたようだ。
「ありがとうございます。だいじにつかいます」
俺はナタリーにお礼を言うと、腰のベルトにアイテムボックスを通して身につけた。
「よくお似合いですよ。プラタスさん」
スピカが褒めてくれる。
「あたしとしては、プラタスと話をしていると新しいアイデアがどんどん生まれてくるから、家に帰ってほしくはないんだがな」
ナタリーは名残惜しそうに俺の頭を撫でる。
「すぐにはむりかもしれませんが、またかならずあいにきます」
俺はナタリーとそう約束する。
「そうだな。あたしも研究を続けて、プラタスをあっと言わせる成果を出しておこう」
実は空間移動の魔法の研究を始めたんだ。
コソッとナタリーが教えてくれた。
もしかするといずれは転位魔法が完成するかもしれないな。
「はい。ナタリーせんせい、たのしみにしています。ぼくもアイデアをまとめておきます」
そういうと俺はナタリーと握手を交わす。
こうして俺の王都の旅は終了した。
これからの自分の人生がどのように変わっていくのか、期待を胸に膨らませつつ30日ぶりの我が家に帰還するのであった。




