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第23話 サリムの修行②

どこからともなく声が聞こえてくる。誰の声なのか、男なのか女なのかもわからない。


「君はまた倒せなかったね」


「やり直しだよ。やり直し」


「今回はいいところまで行けたんだけどね」


「どうせ無理だよ。また殺される」


「何をやっても無駄さ。諦めちゃいなよ」


「今回はどんな悲劇が見られるのかな?楽しみ楽しみ」


誰だ?俺だって好きでこんなことしてるんじゃない。死んで、それで終わりの方が楽だって思うこともある。でも、魔王がいなくなった世界を見てみたいじゃないか。その先の未来を見たいじゃないか。誰がこんなことをさせてる?誰が俺に呪いをかけた?何度も繰り返せることが幸せか?終わりの見えないこの戦いが。俺だけが戦っているこの世界が。何も知らずのうのうと平和に暮らしているこの世界が。誰にとっての幸せか。俺の周回する世界は誰にとっての幸せか。俺は20年の人生を覚えていないくらい周回している。何十年?何百年?何千年?それすらわからない。肉体は新しくなっても心は新しくならない。ずっとずっとずっと続いている。悠久の時をこの世界で過ごし続けている俺の心は疲弊し擦り切れてしまっている。どうせ今回も無理だよ。強くなる必要なんてない。どうせ周回するなら毎回毎回楽しいことだけしててもいいじゃないか。

俺は様々な感情にどんどん押しつぶされていく。


「おい、プラタス。プラタスよ。聞こえておるか?おーい。おじいちゃんだじょー」


ん?なんだ?変な声が聞こえてくる。


「飲まれるんじゃないぞー。お前が聞いているのはお前の心の声じゃ。この精神世界にはワシとお前さんしかおらん。自分に打ち勝つのじゃ」


俺の声だと?なんだこの場所は。俺の知らない俺の声が聞こえてくるのか?ということは、俺の失っている記憶ももしかしたらここにはあるのかもしれない。この周回を終わらせるための記憶が、ここにはあるのかもしれない。

次第に俺は黒く塗りつぶされていた心に希望を取り戻していく。少しずつ俺が戻ってくる。


「そろそろ良さそうじゃの。ワシの声がわかるかえ?」


誰だったか?最近聞いた声だが?うーん。


「わかりません。どなたでしょうか?」


ちょっと思い出せないので素直に聞いてみる。


「ワシじゃ。サリムじゃよ」


サリム?あぁ、ローの師匠じゃないか。昨日会ったばかりで声だけじゃわかるわけもない。


「サリムししょう。しつれいしました。ちゃんともどってこられました」


先程まで独りぼっちだった部屋の中にサリムが鎮座している。


「だいぶ心が乱れておったな。お前さんの持っている力がいつ溢れ出して来るかヒヤヒヤしたわい」


俺の持ってる力?今は失ってしまった記憶の中に何かがあったのかもしれない。


「いまはそんなちからをかんじませんが?」


俺は自分の中に力を探してみるが、特に何も見つからない。


「相当深くに埋もれているか、使いたくない、隠しておきたい力なのかもしれん」


俺が意識して隠しているわけではないので、誰かに隠されているのかもしれないな。周回するたびに記憶の一部を失うくらいだ。元々俺が持っている力を隠すこともできるだろう。


「どうしてかくされているかはわかりませんが、つかえるようにはしておきたいです」


その力が使えれば今後の魔王討伐がスムーズに進むかもしれない。


「今のお前さんには過ぎたる力ぞ。器である体が保たないだろう」


今はまだ早いか。だが自由に出し入れできると便利そうだな。


「そのチカラをいまのぼくのなかにみつけることはできますか?」


俺はサリムに俺の力の在り処を探せないか聞いてみた。


「先程から探ってみてはいるのじゃ。じゃが、どうしてもワシにも触れることができん領域があっての。もしかするとそこにあるのかもしれんな」


なるほど。そこがわかればあとは自分でなんとかできるか。


「そのりょういきにぼくをみちびいていただけませんか?」


俺は道案内をサリムにお願いする。


「ではお前さんにもわかるようにその場所に触れてみるかの」


俺の精神の中に何かが入り込んでくる違和感、気持ち悪さを感じる。だが、それがサリムだとわかっていれば嫌悪感はない。その違和感は迷うことなく一点に向かって進んでいく。


「ここじゃ。ここから先にはワシは触れることができんのじゃ」


ふむ。確かにそこは俺すらも触れようとしたことはない。俺はそこにマーキングしていつでもアクセスできるようにしておく。


「ありがとうございます。いまはばしょだけかくにんしておきます」


その中にどのような力が隠されているかもわからないし、今の俺の体では保たないと言われているのに不用意に解放することはない。時間をかけて調べていったほうが良さそうだ。


「うむ。それが良かろう。力はあるべき時にあるべき形で使うものじゃ。その時に備えて準備しておくが良いぞ」


そう言うとサリムが俺の中から戻っていく。


「さて、修行の目的は果たせたことじゃし、そろそろ体に戻るとしようかの」


サリムは俺を連れて白い部屋から飛び出していく。なんとも不思議な場所だったな。また何かの時分にお世話になることがあるかもしれない。そんなことを考えているといつの間にかに自分の体に戻ってきていた。少し体を動かしてみるが特に違和感は感じない。


「どれ、そろそろ戻るぞい」


俺を促してローの待つ場所へと戻っていく。


「ローよ、特に何かあったかえ?」


サリムはローに訊ねる。


「随分長い時間修行されていましたね。こちらは特に異常はありません」


そんなに長くは感じなかったが、どうやら時の流れが少し違うらしい。

こうしてサリムとの修行は終わりをつげた。精神的にかなり鍛えられたし、自覚していない力もみつかった。成果は上々だ。


「サリムししょう、ありがとうございました」


俺はサリムに謝意を述べる。


「いいんじゃよ。孫弟子に何かを残すことができてワシも幸せじゃよ」


フォッフォッフォッと笑うと優しい目で俺を見つめる。

こうして王都での修行の日々を終えるのであった。

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