第22話 サリムの修行
翌日、朝早くに起き出して軽く体を動かしておこうと外に出ると、ルシエとローが組手を行っていた。ルシエは有代な白虎の姿ではなく、可憐な女性の姿となっている。
組手は真剣勝負とも見て取れるほど激しいもので、お互いに重たい一撃を何度も相手に放っている。残念ながらの今の俺はこの肉弾戦に参加できるほどの力はないので、今後のために二人の動きを一時も見逃さぬようにじーっと見つめている。もちろん裸眼では二人の動きを追うことはできないので、目に強化魔法をかけてギリギリ追いかけている状況だ。
時たま短く声を発するが、二人の間には会話はなく、鈍い打撃音が周辺に響いている。
二人が拳や蹴りを放った軌跡には蒼白い光の残像が残っている。これがローやルシエの体内に循環している『気』というものだろう。『気』は自然からもたらされるエネルギーを体内で練って体全体や、体の一部に纏ったり、魔法のように指向性をもたせることで気弾のように飛ばすことも可能だとローから教わっている。この場所は自然がもたらすエネルギーが大きく、洗練されているためこのように蒼白く光って見えるのだろう。俺はまだ使いこなす事ができないがいずれ使いこなすことができるようになれば大きな武器になると思っている。
「プラタス様、おはようございます」
組手を終えたローが俺に近づきながら朝の挨拶をする。
「おはようございます。ローせんせい」
体を動かしてスッキリとした顔のローに挨拶を返す。
「久しぶりに本気で組手をすることができました。ルシエなら何をしても死ぬことはありませんし」
ローは笑いながらルシエの方を見つめる。ルシエは体を動かして満足したのか、白虎の姿に戻り、サリムの家の裏手に向かっていく。恐らく寝直すのだろう。
さて、俺もサリムとの修行の前に軽く体を動かしておこう。先日ロックスが使っていたチャクラムをロックスの伝で手に入れて、まるで生き物のように俺に襲いかかる凶器として用いる。
このチャクラムには魔法が施してあるため、目隠しをした状態でその魔力だけを頼りにかわし続けるという、俺が考案した修行である。しばらくそれを続けていると、サリムがラウンを肩に乗せて山や方から歩いてきた。
「朝から元気なことじゃのう」
フォッフォッフォッと笑いながら近づいて来る。
「おはようございます。サリムししょう」
「うむ。おはよう。だいぶ体は温まっているようじゃな。早速だが少し山を登るぞ」
俺についてくるように促し、山頂の方向に向かって山を登り始める。
しばらくサリムについて山を登っていたが、何やら同じようなところを何度も回ったり、足を踏み入れた瞬間に、どこか別の空間に移動したかのような錯覚に陥ったりしながら岩陰に隠れるように開いた洞窟の前に出る。恐らく何らかの結界がかけられていて、正しい道順で通ってこないと永遠に山の中で迷わされたり、もとの入り口に戻されたりするのだと思う。
「ここがしゅぎょうのばしょですか?」
俺は念の為ここが目的地かどうか確認する。
「そうじゃ。この中に青龍が住んでおるが、その住処の先に今回の修行にはうってつけの場所があるのじゃ」
そう言うとサリムは、なんの警戒心もなく穴の中に入っていく。
俺とローもあとに続くが、ラウンは穴の前で待っているらしい。青龍とはあまり相性が良くないらしく、青龍の住処を破壊しかねないからということを穴に入ったあとでローから教えてもらった。穴の中はひんやりとしており、外に比べて更にエネルギーの高さが感じられる。入り口は狭く作られていたが、中はある程度広がっており、三人が並んで歩くことも容易だ。
「せいりゅうさんはいまはなかにいらっしゃるのでしょうか?」
俺はもう一体の神獣を見ることができるのではないかと少し期待をしていたが、今は長い眠りについているらしく、相当な厄介事がない限りは起き出してこないそうだ。
眠っている間は体に結界を張っているため、俺では認識することもできないだろうとサリムに言われた。
そうこうしているうちに、青龍の寝床を通り過ぎ、目的の場所にたどり着いた。
「ローはそこで待機していなさい。儂らは少々無防備になるで、何かあったときは儂らの体を守るのじゃ」
サリムは更に先に進みながらローにそういった。
「わかりました師匠。プラタス様、くれぐれもお気をつけて」
その場にローを残し、サリムと俺はその先の少し開けた場所で目的の修行を行うことにする。
「今回の修行は、お前さんの中に眠っている力を開放するために肉体を離れ、精神世界での修行となる」
「そんなことをしなくても、いずれその力は目を覚ますであろうが、使いこなすためにはなるべく早いうちから慣れ親しんでおいたほうがよかろうて」
この場所は神獣の力の影響で時空が歪んでいるのか、誰にも干渉されることのない精神世界への扉を開くことができるらしい。精神体への悪意のある攻撃は体に戻ることができなくなる可能性もはらんでおり、それを除外できるこの場所が最適な修行の場といえるらしい。
「では早速だが、共に精神世界へ向かうとしよう」
サリムのその一言で、俺の意識は瞬時にして奪われ、次に気がついたときには周辺が真っ白な空間にただ一人佇んでいたのだった。
すみません。やる気が激減中。なるべく更新できるように頑張ります。




