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第21話 サリム・ゲッシュタルト

サリムの小屋の中は小綺麗に整理してあり、森の中にいるような香りが漂っている。小屋の中では履物を脱ぐようになっており、地面から少し高いところに木の床板が張ってある。狭い通路を進み適度な広さの部屋に案内される。部屋の一画には食事を準備できる器材が設置されており、部屋の中央には正方形に掘り下げられた床板の上にテーブルが取り付けられたスペースが存在する。

サリムは掘り下げられた部分に足を入れて床に腰掛けると、俺達にも座るように促す。


「ラウン、お茶を淹れてもらえんかの?」


そう言うとサリムの肩に止まっていた鳥が一度羽ばたいた瞬間に人型へと姿を変えた。流石は神獣というランクの生き物だ。常識では考えられないようなことばかり起こる。


「まずはお前さんについて聞かせてくれるかの?」


サリムが俺の方を見てゆっくりとした口調で話し始める。


「お前さんのことはローから聞きおよんでいるところはあるが、聞いておきたいことがあるもんでな」


穏やかではあるが、その目の奥は鋭く俺を見つめている。


「はい。おうかがいいたします」


聞いてみないことにはわからないが、まずは素直にしておいたほうがいいだろう。


「お前さんは十分に強い。このまま成長すれば剣の道でも魔法の道でも最強となれるじゃろう。しかし、お前さんを見ているとそれでも納得しているようには思えんのじゃ。わざわざ世に埋もれたワシの元へ修行に来るくらいじゃ。お前さんはその強さの先に何を見据えておる?」


俺はしっかりとサリムの目を見て答える。


「まだみたことのないみらいのために、ぼくはいまのじぶんをひていしつづけないといけないのです」


サリムは俺の言葉を聞いて何かを考え込むように目を瞑った。俺の発した言葉の意味を、そこにある真実を想像し理解し咀嚼するようにゆっくりと頷く。


「お前さんが見ている景色はワシには見ることはできん。ただ、お前さんが過酷な運命を背負っていることは分かった。今この時には過分な力ではあるが、その力が必要になる時が必ず来ると思っている・・・いや、知っているのじゃな」


俺はそれには答えず、サリムの目をしっかりと見つめる。


「うむ。何やら事情があるようじゃが、その目にははっきりとお前さんの覚悟が見て取れる」


必ずしも隠さなくてはならないことではないが、どこで誰が見聞きしているかわからないし、全てを疑ってかからないと何が結果に影響するかわからないので、どうしても俺の行動は慎重になる。


「分かった。お前さんに稽古をつけてやろう」


どうやら俺の想いはサリムに伝わったようだ。


「ありがとうございます。そしてあらためてよろしくおねがいします」


俺はそう言って気を引き締める。


「体術に関してはローに稽古をつけてもらっているならそれを継続しなさい。ワシはお前さんの能力が最大限発揮できるように少しだけきっかけを与えよう」


そう言うとルシエとラウン、それからローにも何やら言付けをしている。

そして俺に向かい合うと、


「ここから少し山を登ったところに丁度よい修行の場がある。青龍の住処でもあるが最も安全に修行ができる場所であろう」


あっさりと三体目の神獣の名が出てきた。この老人はいったい何者なのだ?伝説の生き物が三体も、しかもサリムという老人の周辺に存在しているのだ。もしかすると俺と同じように呪い、もしくは祝福を受けているのだろうか。そうだとしても、きっとこの老人はそのことを話すつもりは無いだろうが、それは俺も同様だ。誰のものともわからない呪いや祝福はおいそれと誰かに喋るものではない。俺はサリムと出会うのは恐らくこれが初めてだ。まだ信用できるかどうかもわからない。今はまだ慎重に行動するべきだろう。


「いまからせいりゅうのすみかにいどうするのですか?」


そろそろ日が落ちる時間だ。山登りには不向きだろうと考えて質問する。


「修行は明日から始めるとしよう。今日はここまで登ってきた疲労もあるじゃろうて、ゆっくりと休みなさい」


サリムがそう言うと、ラウンが俺とローを客室へと案内してくれた。


「食事の用意ができたら声をかける。それまではくつろいでいるといい」


ラウンに初めて話しかけられた。非常に事務的だがそれで構わない。神獣とて味方とは限らないのだ。


「しょうちいたしました。ゆっくりやすませていただきます」


俺が丁寧に返答すると、ラウンは音もなく部屋を出て扉を閉めた。

俺は朝からの山登りの疲労が残っているのか、だいぶ体が消耗しているように感じる。


「この場所は神獣が好んで住処を作るほど強い力を内包しています。プラタス様は慣れていないのでそのせいもあって疲れやすいんだと思いますよ」


ローが説明してくれているが、俺はあまりの眠気に意識を手放しかけていた。


「お食事の時間になりましたら起こしますので、それまでひと眠りなさってください」


やたら遠くの方から聞こえてくるローの言葉に耳を傾けながら、俺は眠りに落ちる。

ひと眠りしたあとで、ラウンの準備した食事をいただき、風呂で疲れを癒やし、長い一日をようやく終えるのであった。

隔日の更新となりすみません。明日の更新もお休みとなります。

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