第2話 成長
赤ん坊の1日は短い。体力がなく大体を寝て過ごすからだ。時間がもったいないが、こればっかりはどうにもならない。俺はしばらくの間は寝て、起きて、泣いて、また寝てというサイクルを繰り返して過ごした。
☆☆☆
1ヶ月が過ぎた頃、俺はまだ自由に動き回れずベッドの上に寝転んでいた。知識はあっても筋力も体力もない赤ん坊では寝転んでいる以外にすることがない。俺は寝転がりながらでもできることを毎日の日課として黙々とこなしている。
それは魔力操作であったり、魔力を枯渇させての魔力増幅である。家の中での魔法行使は危険を伴うことから、初級の光魔法を小さい球体にしてクルクルクルクルと部屋の中を飛ばし続ける。
たまにメイド達や両親が部屋に入ってくるので気をつけて行使する必要があるが、効率よく魔法技術を向上させるには丁度いい。魔王と相対するにはどれだけ準備していてもしすぎるということはない。そして、魔力切れを起こすまでそれを繰り返し、魔力枯渇を引き起こし意識を失う。それを繰り返すことで魔力総量を増やすことができる。これは人生を繰り返す中でどこかの賢者が提唱していた魔法教育理論であったが、誰も信用せず誰にも支持を得られなかった理論である。その賢者は頭のおかしい学者として人知れず消えていったらしいが、俺は妙にその理論がしっくりきた。繰り返す人生の中で何度か魔力総量の増加について確かめているうちに、幼少期、特に3歳頃までの魔力総量の上昇が著しいことがわかった。3歳以降の増加量はどんなに努力をしても著しく小さい。殆どの場合は3歳までにこんな訓練をすることはないから、魔法総量が生まれつき決まっているという学説が信じられていても無理はない。3歳までにやらなくちゃいけないんだったらこんな魔力総量の増加理論が誰にも信じられないことも納得がいく。もしかするとその賢者も俺と同じような転生体だったのかもしれないな。
そんなことを考えながら、魔力操作の訓練を行っているとイリスが部屋の中に入ってくる。
「プラタス、ご飯の時間よ」
ふむ。もうそんな時間だったか。
母は俺を持ち上げると椅子に座って控えめな乳房を出す。
「はい、沢山飲んで大きくなってね!」
俺は前世の記憶がある分、その行為に気恥ずかしさを感じるが赤ん坊としては当然の行為なので遠慮なくむしゃぶりつく。まだ2、3回目の人生の時はあまりの恥ずかしさに母乳を吸うことを拒んでいたが、やれ母乳に異常があるだとか、病気なんじゃないかとか国の医療機関を巻き込んだ大騒ぎを引き起こしてしまったので、それ以来大人しくされるがままにしている。
「今日も沢山のんだわね。大きく、強く、優しく育つのよ」
たっぷりと吸ったおかげで、より貧相になったように見える胸をしまいつつイリスが俺に語りかける。
そしてイリスは俺をベッドに寝かしそっと頬を撫でると俺が眠りにつくのを待ってから部屋の外へと出ていく。もちろん狸寝入りだが。
イリスが出ていったのを確認すると、俺は再び魔力操作を始める。今度は重力操作だ。窓際の花瓶に刺さった薄紅色の花を一本だけ浮かせてふわふわと浮かべる。重くしたり軽くしたりを繰り返しながら、ゆっくりとベッドのそばに運んでくる。俺が軽く息を吹きかけると、花は綿毛のようにふわふわと上昇していく。今度は花瓶に刺さっている色とりどりの花をそれぞれ浮かべていく。一本一本が別々の動きをするように縦横無尽に動かしていく。その総数30本。30本の花がそれぞれ異なる動きをとっており、その操作は精密を極める。強大な魔法が使えないぶん、繊細な魔力操作、そして操作できる数を増やしていくことで、一度に行使できる魔法の数を増やしていく。まずは同じ魔法を別々に操作し、いずれは異なる魔法を異なる強度で発動するといった応用を加えていく。
色々と考え事をしながら操作をしていると、一本の花が寝ている俺の顔の横に突き刺さった。
危ない危ない。こんなことで切り傷でも作ったら何を言われるかわからない。気を取り直して制御を再開する。
地味だが家の中でも効率よく成長することだけを考えて毎日を過ごすのだった。
まだまだ駆け出しですが、この作品を見つけていただいてありがとうございます。
これからも書いて行きたいと思いますので、よろしければブックマーク、下の☆で応援をよろしくお願いします。