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第19話 魔物との修行

遅くなってごめんなさいm(_ _;)m

王都は山の麓に作られている。誰も超えてきたことがないと言い伝えられている巨大な山だ。このおかげで王都は難攻不落の都市として発展することができた。言ってみれば自然が作り上げた奇跡の要塞都市である。王都の民はこの山に並々ならぬ感謝と純然たる祈りを捧げており、屈指の霊峰として山岳信仰の対象となっている。その手付かずの霊峰には多くの天然資源や食物が眠っており、冒険者たちの狩場としても有名であるが、王都の冒険者は信仰もあって山での活動は王都に害をなす強力な魔物が出たときに討伐に向かうくらいである。

この目の前にそびえ立つ山、オリンポス山の麓に俺とローは立っている。


「ローせんせい、せんせいのししょうはこのやまのなかにおられるのですね?」


「プラタス様、その通りです。私もこの山の中で修行をつけていただきました」


誰も越えたことのない山の中で暮らすのは常人ではあり得ないことだろうがローの体術を見ていれば納得できる部分もある。


「せんせいのししょうはどのあたりにおすまいなのでしょう?」


俺は雲よりも高いところに位置する山頂をみやる。


「今は山頂より少しくだったところにある平原に居を構えているようです」


一応連絡手段はあるようだな。


「それでは早速修行を開始します」


おっと、そこに行き着くまでも修行か。魔法を使って移動しようと思っていたが楽はさせてくれないらしい。まぁ、魔法で登るのも一般的には難しいのだが。


「わかりました。よろしくおねがいします」


俺が言い終わると同時にローは木々を巧みに避けながらかなりの速度で駆け上がる。今の俺がついていけるギリギリの速度だな。

俺はローの姿を見失わないように高速で近づいてくる岩や木を避けながら進んでいく。死角の部分に何があるのかわからない以上、神経は極限まで張り詰めておかないと危険だ。岩を避けた先の地面が裂けていたり、木の影に毒の胞子を飛ばすキノコが自生していたり、この山には自然の罠が至るところに仕掛けられている。俺はローが先行しているおかげで罠と遭遇する数が少ないが、少しでもルートを外れると罠にハマりそうになる。移動速度に対して動体視力と危険察知能力が劣っている。今後の強化ポイントだ。今はともかく、ローの背中を追って最速かつ慎重に登っていくだけだ。と、ローが足を止めて俺が追いつくのを待っている。


「どうしましたか?ローせんせい」


追いつくと俺はローに話しかける。


「あそこを見てください。プラタス様」


ローが指をさした先には何やら魔物がこちらを伺っている。


「あれはブラッディベアですか?」


血のように真っ赤な毛並みをもつベア種の上位の魔物だ。


「そうです。今の時期は獲物が少なく凶暴性が増しています」


既にこちらの存在は認識されており、エサになるかどうか値踏みをされているところだろう。


「どうしますか?なわばりのそとににげるのはかんたんですが」


ローと俺なら逃げることも戦うこともどちらも容易だが、縄張りに踏み込んだのはこちらなのでできれば無駄な殺生はしたくない。


「そうですね」


ローは少しだけ考えると


「魔法と剣を使わず、体術のみで意識を奪ってください」


意識を奪うか。殺せと言わないということは、そういうことだろう。俺達は食料を欲しているわけでも、この魔物に脅威を感じているわけでもない。無視して逃れることもできるのだから殺す理由がない。これは修行なのだ。相手は言葉が通じず本気で俺をエサとして仕留めにくるだろう。道場ではこんな殺気を感じることはない。良い訓練になるな。


「はい。やってみます。それではよろしくおねがいします」


俺はブラッディベア相手に一礼し拳を構える。スピードは俺が上、パワーは相手が上、あの鋭い爪で切り裂かれれば今の俺の体では死の危険もある。一撃ももらうことはできないな。左手を軽く曲げ顔の前に構え、右手は腰の位置で後ろに少し引いた構えを取る。ブラッディベアは低く屈んだ構えから全身の筋力を使い一直線に俺に向かって跳躍してくる。リーチは相手のほうが長い。動かなければあの爪が刺さるが、さてどう動くか。まだどちらの爪が飛んでくるかわからないが少なくとも上から振り下ろされることはないだろう。相手の攻撃の可能性を絞っていき、最も安全なカウンターを放つため俺は相手の攻撃をギリギリまで見極める。俺はブラッディベアの爪による切り裂き攻撃を1歩後ろに飛ぶことで躱し、勢いの止まらない相手の顎に蹴りを食らわし、そのまま宙返りして距離を取る。


ブラッディベアの顔が怒りに染まっていくのがわかる。俺は今の攻撃によるダメージが殆ど無い事を確認した。今の俺の蹴りではカウンターで急所に入っても意識を奪うことはできないな。ならばどうするか。怒りに我を忘れより直線的になったブラッディベアの攻撃を躱しつつ次の一撃を考えていく。相手の力を利用するか。今のブラッディベアは直線的にしか襲ってこない。攻撃も単調だ。俺はある程度ブラッディベアから距離を取ると、地面に落ちている石を軽く投げつける。ブラッディベアのヘイトを集め、今までで最高の突進を引き出す。それにあわせて、俺は一気にブラッディベアとの間合いを詰め、眉間を右拳で貫いた。ブラッディベアは意表を突かれ一瞬棒立ちになったが、すぐに俺へと視線を落とした。あれでも意識を刈り取ることはできないのか。


思った以上にブラッディベアがタフなことと、俺の筋力のなさが明らかとなった。この状況でいかに相手を倒すか。剣の応用をしてみようか。ロックスと立ち合った時に利用した、波長のズレを利用した攻撃。拳で体現するとしたら刹那の時の間に2連撃を加えるイメージか。一撃目の打撃の波長が倍増するような二撃目を極短時間に打ち出す。打ち出す拳は二発だが、波の倍増により大きな力が一点に伝わる。


ぶっつけ本番だが、これが効かなかったとしても相手の攻撃は俺に届くことはないだろうし、賭けてみるか。

今までのブラッディベアの攻撃で奴の癖もだいたいわかってきた。次の一撃で勝負をつけよう。

俺は神経を研ぎ澄ませ、拳に意識を集中させる。ブラッディベアは俺の考えなど気にする素振りもなく、俺に向かって飛び込んでくる、俺は俺の左から飛んでくる奴の右拳を避けると同時に、がら空きとなった右こめかみに刹那の連撃を放つ。この攻撃で脳が揺れたのか、ブラッディベアはようやく前のめりに倒れ込んだ。


ふー。なかなか疲れたな。緊張が解けると疲れが押し寄せてきた。同時に最後の一撃を放った左腕に鋭い痛みを感じた。


「いてて」


思わず声に出してしまう。


「プラタス様、お見事でした。仕留めたときの連撃は、今のプラタス様の筋力ではまだ厳しいでしょう。十分に筋力がつくまでは使用禁止とします」


俺の左腕を優しく揉みほぐしながらローが話しかける。


「とはいえ、あの動きはプラタス様の剣術にも通じるものです。これからもプラタス流戦闘術として磨き上げてください」


流石にプラタス流は恥ずかしいな。俺流であることは間違いないのだけど。


「はい。これからもしょうじんいたします」


そう言うとローは満足そうに頷いた。


「さあ、そろそろ出発しましょうか」


ローはまだ倒れているブラッディベアに気付けの一撃を入れる。そうするとノソノソとブラッディベアが起き上がった。まだ意識が混沌としていそうだが、他の魔物に襲われることはあるまい。


「せんせい、いきましょう!」


俺がそう言うとローは再び駆け上がり始める。俺もローを追ってその場を離れていく。いい修行ができた。ローの師匠に会うまでにもう少し強くなれるかもしれない。そう感じながらローを見失わないように慎重に駆け上がるのであった。

GWは頑張って書くぞー。


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