第14話 王宮魔術師②
翌日も俺達は王城の研究室を訪れていた。ナタリーは案の定徹夜で考え事をしていたようだ。
「やぁ、おはよう・・・」
目の下にクマをつくった髪の毛がボサボサな女性が顔を出した。
「モノの大きさを変える魔法というのはなかなか難しくてなぁ。体積を変えるには力で圧縮したり、寒暖で膨張、収縮したりすることで可能だが、その場合中身の保証はないからね」
どうやら難航しているようだ。俺も色々と考えてみたがどうもうまくいくイメージが浮かばない。
「おおきさをかえることはいったんわすれて、このおおきさをじゆうにもちはこぶことをかんがえたほうがよさそうですね」
俺は初心に帰るように難しい課題を棚上げして、空間を持ち運ぶことだけに集中する。
「しょうかんのまほうはどこからものやせいぶつをはこんでくるのでしょう?」
この空間をどこかにおいておいて、呼び出して使えば良いと考えたのだ。
「召喚魔法か・・・家に移動可能なルームを作っておいて、それを召喚して使うアイデアか」
言葉にしてみるとなかなか良いような感触だがどうだろうか。
「召喚、召喚。んー、空間を呼び出す・・・。」
少しアイデアとしては弱いか?それならば・・・
「くうかんをふういんしてもちはこんだらどうでしょうか?」
思い浮かんだのは閉じ込めておくための魔法。よく考えたら封印魔法は、空間を固定化し縮めることで巨大なものも封じておくことができる。言ってみれば俺達がやりたいことをそのままやっているのだ。
「なるほど。空間魔法と封印魔法はかなりの部分が共通している理論で成立している。これは組合せの相性としても悪くないな。イメージが湧いてきたぞ。手伝え、プラタス。持ち運びができて、空間の中身を遅延魔法で長期保存を可能にする。これは新しい魔法理論の構築にも繋がる」
ナタリーは頭がフル回転しているようだ。これなら面白いものができるかもしれない。
「はい。ナタリーせんせい。おてつだいいたします」
ナタリーと共に新しい魔法理論の構築と魔法アイテムの作製を進めていく。スピカはしばらくその作業を眺めていたが、フラッと部屋を出てどこかへ行ってしまった。王城の中に他にも知り合いがいるのだろうか?
まあ、俺はとにかくこの魔法理論を構築することに集中する。これはかなり画期的な発明になる。魔王討伐に役立つモノになるかもしれないしな。
ナタリーと共同で魔術式を魔法陣に組み込んでいき、魔力使用量が少なくなるように魔術式が循環し増幅するように立体的なイメージをもつ魔法陣を完成させる。その作業を続けること4日間、俺とナタリーは魔法理論の構築と1つの試作アイテムを完成させるのであった。
「プラタス・・・完成だ!」
ナタリーはやり遂げた顔をして喜びの声をあげる。
「はい!すばらしいまほうりろんですね」
俺も充実した笑顔を見せる。
「こうやって笑っているとただの子供なんだけどな」
ナタリーは俺の頭に手を置くとクシャクシャと髪を撫で回す。
「あらあら。プラタスさんの髪の毛がグチャグチャになってしまいます」
スピカがナタリーを諌めるように喋りかける。
「まあいいじゃないか。今日くらいは。こいつは凄いことを成し遂げたんだぞ!」
ナタリーは興奮を抑えきれない。
「これは輸送の概念が変わるだけじゃない。戦いや日々の生活に至るまで何もかもが大きな変化を迎えるだろう」
まあそうだろうな。多少の魔力を扱えれば家一軒分の荷物なら背中に背負うくらいの大きさにはなる。中に入れるものが大きかったり、大きな魔力を持つものの場合は、使用する魔力が大きくなるが、それは封印魔法の特徴なので仕方がない。
これが市場に出回れば、歴史が変わるほどの衝撃であろう。
あまりにも大きな影響を与えるため、ナタリーは利権を王族に譲渡することを提案する。
「この魔法理論、魔法アイテムはあたしとプラタスの共同研究の成果と言うことでまとめるが、重要な部分は機密として秘匿する。その代わりにその理論を隠蔽した形で試作アイテムを証拠として添付しこの理論とアイテムの所有権をあたしとプラタスのものにする」
ただそうするとナタリーと俺の平和な人生が奪われることになりかねないので、王族に売っぱらうことで安全を買うということか。
「あたしとプラタスには一生贅沢に暮らしても十分に余るくらいの財産が手に入るが、あたしは金のために研究をしているわけじゃないし、8割をプラタスに渡そうと思っている」
俺も金に困った記憶は全く無いが、新しいことを始めるためには金が必要になるかもしれないから、ここは遠慮なく頂いておこう。
「おかねのことはよくわかりませんのでナタリーせんせいにおまかせします」
そう言うと俺は試作品の魔法アイテムを手に取り、
「これはマジックボックスとでもよびましょうか」
ナタリーは異存がないと言うように頷きながら、
「その試作品はプラタスが持っていきな」
と言って魔法陣を書き換えて俺専用のアイテムボックスとして登録を行った。
「よいのですか?」
俺はナタリーに尋ねるが、ナタリーは既に次の構想を練っているらしく、1号機には思い入れはないらしい。
「まだしばらくは王都にいるんだろう?」
ナタリーがスピカに尋ねる。
「あと20日くらいは滞在する予定ですよ」
少し考えながらスピカが答える。
「それまでには王族との話をつけて金を準備しておくから、王都を発つ前にもう一度あたしを訪ねてきてくれ」
そう言うと早速よくわからない書類を書き始める。
「わかりましたよ。ナタリー。よろしくお願いしますね」
スピカはそう言うとドアに向かって歩き出す。
「ナタリーせんせい、みじかいあいだでしたがありがとうございました」
俺は深々と頭をさげる。
「あたしこそ色々と勉強させてもらったよ。また面白いことを発見したら一緒に研究しような!」
そう言って笑顔で俺を送り出してくれる。
かなりいい経験ができたな。俺はナタリーとスピカに心の中でお礼を言いつつ王都での拠点へと戻っていくのであった。




