第12話 王都
王都は要塞と言っていいほど強固な壁により街全体を覆われている巨大都市であり、この国の中枢は全てここに集まっている。
ありとあらゆる分野の強者がどこからともなく集まってきては、その武を、その知恵を、その商才を、その技術を競い合い、発展させ、一大都市を作り上げている。
強固な壁は、この国がまだ小さく、弱かった頃に隣国との争いが絶えなかった時代に作られたもので、今の世の中ではほとんど機能していない。
この国の王族であるオルストス一族は、先祖代々この地域の豪族として名をはせており、次第にその勢力を増やしていき、小さいながらも国としての礎を築いた才気あふれる一族であり、民からもよく慕われ、非常に良い眼を持っていたことから、国の行く末を常に見つめ続け、成功に導き続けていた。オルストスの予見眼として子供には人気の物語にもなっているほどである。本当にそんな眼があるのか、占術の一種なのか、神託のようなものなのか、色々な噂があるが、王族と俺以外では誰も知るものはいない。
俺は俺の周回しているこの国で唯一勇者として選ばれるため、その答えは知っているし、勇者に選ばれたときに俺自身にもその恩恵が分け与えられる。
今はその時ではないので多くは語らないが、非常に役に立つものである。
さて、俺達は今は王都の門の前にいる。一応王都へ入都する際には身分を明らかにしておく必要がある。そこまで厳しいチェックが行われるわけではないが、犯罪歴などがあると王都での活動に制限がついたりする。
俺達には暗い過去などありはしないので、入都の目的だけ伝えてすんなりと王都の中に入ることができた。
まぁ、前世と代わり映えはしないが、俺の体が小さいぶん、目に映る全てが巨大のものに見えるな。
俺達は1月近くを過ごす王都において、活動の拠点とする家を借りることから始める。
早速だが旅の途中で助けたナルドール商会に行ってみるか。主人が旅から戻っているといいのだが。
俺達は王都の中心にあるナルドール商会の本部に立ち寄る。かなり大きな、そして豪華なお店だ。
「邪魔するよ」
ロジーナは一声かけて店に入っていく。
「借家を探しているのだが主人は戻っているかな?」
お店にいた店員は少々怪しげな目つきで俺達を見る。
「はい。いらっしゃいますがお約束はありますでしょうか?」
既に戻っていたようだ。これで家探しが楽になりそうだ。
「約束はしていないが、バンクールの名を出せばわかるはずだ」
ロジーナが店内を見渡しながら店員に伝える。
「少々お待ちください」
そういうと店員は店の奥へと入っていく。
しばらくするとドタドタと足音をたてて恰幅の良い中年の男性が入ってくる。
「おまたせしました!プラタス・バンクール様!」
あのときよりも血色が良くなったナルドール氏が少し興奮しながら話しかけてくる。
「おげんきそうでなによりです」
俺はナルドールの気迫に引き気味になりながらも挨拶を交わす。
「早速で悪いのだが、王都に30日ほど滞在するために家を探している」
ロジーナが会話を引き継ぐ。
「どのような家をお探しですか?」
ナルドールも流石は商人だ。直ぐに商売人の顔に変わる。そこからの会話は3人の師匠に交渉を任せる。
王都でも修行は続けたいし、街の喧騒は俺には少し害悪となるとロー先生が主張したことから、中心部から少し外れた広めの庭のある一軒屋を借りることにした。
裏手には森もあり、様々なの状況を想定した訓練ができそうだ。
交渉はスムーズに進み今日は家の清掃をしてもらって、明日から入居するとのことで話しがまとまった。
そうこうしているうちにもう夕方だ。
ナルドールにはお礼がしたいと食事に誘われたが、早めに体を休めたいこともあって、誘いを固辞し宿に移動する。
今日は明日訪れる王城の近くの比較的高級な宿をとってある。安宿だと若い師匠達に男共が群がってくるし、俺の教育によろしくないということなのだろう。金は俺の家から出されているので気にすることはない。
2部屋をとり、スピカとロジーナ、ローと俺と部屋を割り振った。部屋にも風呂はついていたが、大人数で入れる家族風呂というものが貸しきれるということで、4人で入りに行く。
流石に、年頃の女性と風呂に入るのは前世の記憶があったとしても恥ずかしい限りだが、今は子供の身だ。存分に楽しんでおこう。
「やはりこう見るとローのそれは反則級ですね」
スピカが羨ましそうにローの胸に目を向ける。ローは恥ずかしそうに手で胸を隠しながら
「大きい下着には種類が多くありませんし、場合によっては特注になってしまいますので、いいことなんて何もないです。動くときに邪魔になりますし」
心底嫌そうに言っているのだが、他の女性からすれば、自慢されているようにしか聞こえない。
俺はローに体を洗ってもらっていて、その胸は俺の頭の上に乗っかっている。
「坊っちゃんも胸が大きい方が嬉しいよな」
ロジーナが4歳児の俺に聞いてくる。俺の意見なんぞなんの参考にもならないのに。
「ははのおむねもささやかなものですし、ぼくはおおきくてもちいさくてもきになりません。じょせいのみりょくはおむねのおおきさではきまりませんから」
俺は当たり障りのない回答をしておく。こういう話はあとに引くから、気にさせないのが1番だ。
「まあまあ、私はロジーナくらいの大きさが好きですよ」
ローほどではないが大きさも形も素晴らしい胸をプルンと揺らしながらスピカが慰める。
「スピカも十分おおきいだろうが!私だけ、私だけこんな貧相なのはズルいだろう」
ロジーナは湯船の中で悔しそうにブクブクしている。
「ロジーナししょうのからだはムダがなくきっちりときたえあげられていて、とてもうつくしいとおもいます」
俺はそう言うと、湯船にいるロジーナの
膝の上に乗っかる。
ロジーナは俺の頭をワシワシと撫でながら
「そうだな!私は剣を極める者。胸の大きさは二の次だ。坊っちゃん、明日からはみっちりと特訓するからな!」
ロジーナは気分が晴れたのか明るい声をだす。
「はい!あしたもよろしくおねがいします!」
俺も元気に返事をする。
「さあ皆さん、のぼせる前に上がりましょうか。明日からたくさんのお勉強とたくさんの修行が待っていますよ。旅の疲れをしっかりと癒やしてくださいね」
スピカがお風呂タイムをそう締めくくった。
明日からの出稽古でどんな出逢いや経験ができることか。俺はこの王都での生活に期待しつつ眠りに付くのであった。




