第11話 王都への旅路
ここからは乗合馬車に揺られ一路王都を目指す。馬車で王都へ行くのは初めてのことで、ゆっくりと過ぎる時間を3人の師匠と楽しんでいる。基本的に夜は馬車を走らせないため、宿場町にて宿泊しながらの旅となる。比較的治安の良いルートを選んでの旅であり、イベントらしいイベントもないまま3日目の夜を迎えた。馬車に乗りっぱなしというのも、かなり疲れるので、ロジーナ師匠と剣の打ち合いをして体を動かす。
「坊っちゃん、私の種族には代々伝わる闘気術というものがある」
前世でも何かのタイミングで聞いたことがあるスキルだな。
「ロジーナししょう、それはどのようなじゅつなのでしょう?」
ちょっと記憶が曖昧なので、率直にロジーナに聞いてみる。
「私らにしたら生まれてから当たり前のようにやってることなんだけどな。自分の体の外側にものすごく薄いが、とても頑丈な膜を張るようなイメージだ」
「全ての攻撃を防ぐようなものではないが、込める闘気によってある程度のダメージを無効化できたり、武器に闘気を纏わせることで、その剣の性能を何倍も引き出すことができる」
そうそう、そんな感じのスキルだったな。今までに習得の糸口すら掴めなかったから記憶の彼方に追いやっていた。
「それはおうようがききそうなじゅつですね。ぼくもつかえるようになるでしょうか?」
反則気味の優れたスキルなのでぜひとも習得したいものだが、もうすでにダメ元である。
「一応私の国の秘術となっているから、簡単に教えられるものではないが、坊っちゃんが私の国に来ることがあればなんとか学びの機会くらいは作ってあげるよ」
今までの人生では一度も行ったことがないな。
「ロジーナししょうのくにはどこに・・・」
途中まで声に出したときに街の入り口の方から悲鳴が聞こえた。
ロジーナと俺は咄嗟に入り口に向かって走り出す。
そこにはボロボロになった商人らしき格好の男が、街の衛兵に助けを求めていた。
「助けてくれ!大旦那の乗った馬車が盗賊に囲まれてちまった。俺は助けを呼ぶようにと言われて一目散に街を目指してきたが、雇った傭兵達がやられるのも時間の問題だ」
そう言うと痛みを堪えきれずにうずくまってしまう。逃げてくるときに盗賊に捕まりかかったのだろう。足に大きな傷がついている。
それを横目に見ながらロジーナと俺は町の外に向かってスピードをあげる。
普通にロジーナについていくことはできないので、俺は魔法により脚力を強化している。
「ロジーナししょう、まっすぐいってがけのてまえをもりのなかにはいったところでせんとうのけはいをかんじます」
俺は探索魔法で探った位置をロジーナに知らせる。
「坊っちゃんはあとから来な。私は先にブチのめしておくよ」
そう言うとロジーナは更に加速し、俺の視界から消えていく。強化魔法を使っても俺はロジーナの本気には着いていくこともできない。
あー。そろそろ傭兵たちは全滅する頃かな。戦闘の気配が次第と消えていき、恐怖に支配されていくのを感じる。
お、ロジーナが間に合ったか。
盗賊の数は20人程度。俺が到着する頃には終わっているだろう。
俺は念の為俺の周辺も探索魔法で探りつつ現場に近づいていく。
「坊っちゃん、遅かったな」
ロジーナが白い歯を出してニカリと笑っている。
「ほんきのししょうにおいつけるわけないじゃないですか」
俺は不貞腐れ気味にそう答える。
「まあ悪く思わないでくれよ。坊っちゃんのペースに合わせていたらもう何人か犠牲が出ていたかもしれないんだ」
救える命があるなら救うほうが良いに決まっている。
「おこっているわけではないですよ」
まだ少し不貞腐れ気味でいると、ロジーナは俺の頭をワシャワシャと撫でる。
「坊っちゃんにはこんなくだらない奴らを斬らせるわけにはいかないからな」
そう言って倒れた盗賊達の方に目を向ける。
全員が気を失っているようなので、とりあえず商人の馬車から魔法を使ってロープを取り出し、盗賊を縛り上げていく。
「た、助かりました。なんとお礼を言っていいことか」
顔色は悪いがいい身なりをした中年のおっさんが話しかけてくる。
「何もなかったなら良かったよ」
ロジーナがそう受け返す。
そうすると馬車の裏からきれいな女性と子が出てきて、口々にお礼を言っている。
「ああ、別にいいって。ちょうど少し体が鈍っていたところだからちょうどよかった」
お礼を言われ慣れてないのだろう。ロジーナはぶっきらぼうに返答する。
「私は王都で店を開いているナルドールと申します。今はたいした持ち合わせはありませんが、必ずお礼をいたします。王都にお寄りいただいた際には是非ともお立ち寄りください」
ナルドール商会は王都で最も有名な商会の1つだ。様々な業態に手を付けている。
「ちょうど今から王都に向かうところだ。到着したらぜひ寄らせてもらうよ」
ロジーナはそう言うとさっさと街に戻ろうとする。
「もうすぐ街の衛兵が来るはずだ。盗賊は衛兵に突き出すといい」
そう言うと、すぐにでも立ち去ろうとする。
「あ、そうか。この子の名前はプラタス・バンクール。商店に行った際にはよろしく頼む」
そう言うと俺を連れて街への移動を始めた。
「本当にありがとうございました!」
大きなお礼の声にロジーナは右手を挙げて答えた。
そうして夜はどんどん深まっていくのだった。
街に戻ってから俺達を心配したスピカとローから説教を受けたのは言うまでもない。
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