ゴブコボ同盟~前編
「良かった!まだ無事みたいだっ」
僕達は大急ぎで集落へと戻ってきた。
つい2日前集落を出たときは100人もいた仲間達も今は60人くらいになってしまった。その代わりに緑色の肌をした新しい仲間──ゴブリンが10人一緒に着いてきていた。
「おおっ!アキタ、早いじゃねぇか。ん?あれ?なんで"ミドリ"も一緒なんだ?」
「わりぃがお前に構ってるほどヒマじゃねぇんだよ!」
「あぁっ!?そりゃ違えねえ」
いつもアキタと入口の番をしているプードルを素通りして、頭のいる母屋へと脇目も振らずに真っ直ぐ走る。
僕達は走ることが好きだし得意だからまだまだ余裕はあるけれど、さすがにゴブリン達は僕らの速さに着いてこれなかったので、身体の大きな仲間の背中に乗ってもらった。
「着いたぞっ!頭ぁ~。ただいま戻りました~っ!」
頭のいる母屋の番をしている双子のダルメとシアンが僕達の姿に驚きながらも道を開ける。さすがに母屋のなかに全員では入れないので、僕とアキタ、それと年長者としてパグ班長。ゴブリン側からはヒーラー様と呼ばれていた白い服を着た人とトラップさんていう人が僕達に続けて中に入った。
「アキタ、た、ただいま戻りましたぁっ!」
先頭のアキタが片手を上げビシッと背筋を伸ばす。目の前の大きな椅子には、僕と同じ3色のふさふさの体毛をしたコボルトがいる。僕達コボルトの頭──バーナード族長だ。両脇には親衛隊長の灰白毛のハスキーさんと、金色の毛並みのゴールドさんが恐い顔をして立っていた。
「何故、ミドリどもがいる」
「ひっひぃっ!」?
ハスキーさんその手に持つ長槍をアキタの喉元に突き付ける。そのすごい迫力に思わず尻尾を丸めてしまう。
「おいおい。落ち着けってハスキー。まずは話を聞いてからだ。斬り捨てるのはそれからでも遅くないだろ?」
ゴールドさんは正反対に砕けたしゃべり方なんだけど、言ってることはとても物騒だった。
「ま、待ってください!これには理由がありまして・・・」
「では理由を話せ。納得出来なければ全員斬り捨てる」
「は、はいっ──」
少しでもおかしなことを言ったら問答無用で斬られそう・・・。震える足を両手で押さえどうにか勇気を振り絞る。
「それは、私から話しましょう」
僕の目の前をすっと白い影が遮る。
「パ、パグ班長っ?!」
「ここは、年長者に任せておけ」
パ、パグ班長・・・。いつもと違って格好良く見えます。
「早く話せ」
「はっ!ではまず報告から。ドーベル隊長率いるゴブリン掃討及び鉱脈占拠を命じられた我が隊は、ゴブリンに敗北致しましたっ!」
「っ?!」
パ、パグ班長・・・。な、なんて命知らずな・・・。ハスキーさんの眉が八の字に吊り上がり、無言で槍を大きく振りかぶった。
「ひっ、ひいぃぃっっ!!??」
もうダメだ──
「──良い。話を続けろ」
とても低く、でもとても落ち着きのあるどこか暖かな声が槍の穂先の動きを止めた。誰の声かと思ったら、族長が発した声だった。うわぁ~、初めて聞いた。
「・・・はっ」
ハスキーさんは槍を引くと一歩後ろに下がった。ひとまずこれでいきなり斬り捨てられることはなくなったようで、ほっとひと安心。
ゴールドさんが視線でパグ班長に続きを話すよう促す。
「はっ。ゴブリンと相対す前に蛙の偵察隊と思われる一団の襲撃を受け、被害は軽微だったものの任務の失敗を恐れたドーベル隊長が我々に突撃の命を下しました」
パグ班長、なんだか全部ドーベル隊長の責任にしてるような・・・そんな話し方をしている。
「ところがゴブリン達の策は実に巧妙であり、我々は成す術もなく罠に掛かり敗北を喫しました」
「──それで、どうしてここにいる?」
族長の声は恐い──とは少し違うのだけど、優しさのある恐さって言うのか嘘を許さない迫力があった。よく見るとパグ班長の足はブルブルと震えていた。
「はっ。我々はゴブリン達に捕虜とされていたのですが、そこにこのアキタが伝令と共に現れまして急ぎ戻った所存です」
「──そうか。ドーベルはどうした?」
族長は一緒にいるゴブリン2人にはそれほど興味がないのか、それとも敢えて聞いてこないのか、そこには触れてこない。
「はっ。ドーベル隊長はゴブリンの仕掛けた罠により戦死いたしました!」
戦死という言葉にハスキーさんとゴールドさんがピクリと身体を跳ねさせた。確か2人とドーベル隊長は同期なんだって隊長本人が言っていたのを思い出す。主に悪口とか妬みばっかりだったけど。
「──そうか。苦労であった。すぐにここにも戦火が来ると思うが、それまでゆっくりと休むが良い」
「えっ?は、はっ。ありがたきお言葉」
え?報告を聞いて終わっちゃったけど、ゴブリンのことは聞かないの?パグ班長も困惑顔だ。
「──さて、ミドリ・・・。いや、ゴブリン殿。そなたらがここに居る理由を直接聞かせて貰おうか」
と、思ったら族長自らがヒーラー様に話しかけた。これにはハスキーさんとゴールドさんもさすがに驚いた顔をしていた。
「ええ。ですがその前に──」
「──なんだ?」
ヒーラー様はすたすたと前に進むと、パグ班長の横に並ぶ。真っ直ぐに族長を見ながらこう応えた。
「怪我人がいると聞いています。まずは私にその治療をさせて頂けませんか?」
◇◆◇◆
コボルト達の集落には、ヒーラー様とトラップさん、他数名の仲間に先行してもらった。僕はハントさんと鉱脈で資源採集をしていたホブおじさんを連れて一度棲みかの洞窟へと戻っている。
何をしているかって?それは次の戦いに備えて戦力の補強のためだ。せっかく資源をたっぷりと手に入れたのだから使わなきゃ損損。
「オイ、シダ。俺達モ早ク行ッタホウガイインジャナイカ?」
「分かってるよ。でもこのままじゃ蛙さん達には勝てないからね。戦力を強化しないと」
ハントさんには目もくれず、1人で生誕の儀式の準備を進める。いくつか触媒になりそうな物も途中で拾ってきている。
「強化ッテ、仲間ヲ増ヤスダケダロ?何ヲグズグズシテイルンダ」
「まあまあ、待ってよ。ただ数を増やしただけじゃ倍以上いる相手にはどうやったって敵いっこないから、量より質で勝負しなきゃね!」
「・・・シツ?言ッテルコトガヨクワカランガ、トリアエズ急ゲ。遅レタラ何モ関係ナクナル」
ハントさんはイライラを抑えるためか、ウロウロと動き回っていた。もう!分からせるためにまずはハントさんからやっちゃおう!
「はい。準備できたよ!じゃあハントさんから、これとこれとこれ全部持って祭壇に上がって!」
「エ?!ナ、何ヲスルキダ?」
「何って、儀式に決まってるじゃないか。ほら、急ぐんでしょ?早く早く」
「ワ、分カッタカラ押スナッ・・・」
ハントさんに触媒を持たせ祭壇に無理矢理押し込む。困惑気味のハントさんを残して儀式の呪文を唱える。ヒーラー様に教えてもらってやり方はバッチリ覚えている。祭壇が強い光を放ち、ハントさんの姿も声も見えなくなる。さて、上手くできたかな?
暫くして光が収まると、そこには少し雰囲気の変わったハントさんが立っている。
「どう?何か変わった?」
「お、おお。・・・すごいなこれは・・・」
ハントさんは何かが変わった自分の身体を繁々と眺める。見た目は別に変わってないと思うけど。
「さあさあ、ハントさん。そこどいてどいて。急ぐんでしょ?まだまだ儀式をしなきゃいけないんだから、そこどいて。ほら、今度はホブおじさんの番だよ。足元の武器を持って祭壇に上がった上がった」
僕は僕の知っているやり方をどんどんとこなしていく。
さあさあ!急いだ急いだ──
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併せてメイン執筆中の『盾の騎士は魔法に憧れる』も何卒宜しくお願い致します。