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魔物による魔物のためのストラテジー  作者: めぐ
ここから始まる僕らの物語
1/16

オープニング

 重たい瞼をなんとかようやく開く。


 瞼はまだ少しヒクヒクと痙攣していて、本当は閉じてしまいたい。


 それでもなんとかもう一度瞼を開く。


 辺りは少しだけ射し込む日射しと崩れた焚き火が燻ったほんの少しの灯火以外、真っ暗闇。


 皆はどうしてるだろうか。


 身体を動かす──ダメだ。あちこち痛い。


 無事なのは右腕くらいだ。


 右腕を支えにして痛みを堪えどうにか身体を起こす。


 動かす度に変な音が鳴る首を左右に動かし、辺りを見回す。


 僕の仲間──だった()()が沢山転がっている。もう既に消えかけている()()もある。


「オイ。無事ナ奴ハイルカ?」


 いつのまにか射し込む日射しを背にした黒い影が少し離れた位置に立っている。


「オ前、無事ナノカ?」


 最初、誰に言っているのか分からなかったが、この場で生きていそうなのは僕だけみたいだ。


「うん。死にそうなくらいあちこち痛いけど、生きてはいるみたい?」

「ソウカ。動ケルカ?向コウデ無事ダッタ『ヒーラー様』ガ治療ヲシテクダサッテル。オ前モシテモラウトイイ」

「うん──でも、ははっ。動けそうにないや」


 右腕だけで起こせるのは上体だけで精一杯。両足は──どうにも骨が折れちゃってるかな?


「・・・仕方ナイナ。運ンデヤル」

「ありがとう」


 その人の背に乗せてもらい何処かに運ばれる。途中の通路ではあちこちに消えかけている()()が転がっている。


「おじさんは無事だったの?」

「オヂサン──アア。俺ハ外ニ出テイテナ。獲物ヲ捕マエテ戻ッテミタラコノアリサマダ」

「そう。運が良かったね」

「アア。ソウダナ。ホラ、着イタゾ」


 そこは、幾つもの焚き火が灯り、今まで居た場所や通路とは異なりとても暖かい。


 視界の先ではこのおじさんが捕まえてきたという獲物なのかな?大きな猪を何人かの仲間が解体している。


 そういやお腹空いたな。


 パッと突然部屋の奥から暖かな眩しい光が灯る。


 視線を向けるとそこには白い鳥の羽根を編んで作られた服を着た『ヒーラー様』が、怪我をした仲間に癒しを与えてくださっていた。


「ヒーラー様。コイツモオ願イシマス」


 おじさんはその手前に僕を降ろすとすぐ何処かへ行こうとする。


「あっ!おじさん。運んでくれてありがとう」


 おじさんは一瞬だけ立ち止まったが振り返りはせず、片手を軽く上げただけだった。


「オヤオヤ。コレハマタ酷イケガデスネ。良クゴ無事デイテクレマシタ」


 ヒーラー様はそう優しく微笑むと、そっと傷口に手を添えた。その手はとても暖かくて──なんだか安心する。

 優しい光が眩しくて目を閉じるとそのまま眠気が僕を包んだ──



 ◇◆◇◆



 パチッパチッと焚き火の弾ける音に目を覚ます。


 どのくらい寝てたのかな?辺りにはすっかり夜の臭いが立ち込めている。


 両手を地面に着け身体を起こす。


 あっ!左腕は──痛くない?そういえば両足やお腹とかもう痛みはなくなっている。


 はぁ~~。ヒーラー様は本当にすごいな。


 改めて辺りを見回すと、この場所には自分を含めて10人が居た。


 部屋の真ん中にはヒーラー様。その回りには僕を運んでくれたおじさんと、一際身体の大きな通称『ホブおじさん』。あとは僕とそう変わらない6人。中にはメスもいる。


「──コノママデハ、イツ蛙ヤ犬ドモニ襲ワレルカワカリマセン。ドウニカ数ヲ増ヤシ、戦エルモノヲ増ヤサナケレバ」


 おじさんの声が静かな闇に響く。


「──死ンデシマッタ仲間ノ分、『命ノ資源』ハ沢山アリマスガ、残念デスガ『身体ノ資源』ガ今ハ手許ニ2ツシカアリマセン」


 資源?何の話をしているんだろう。


「ココカラ一番近イ身体ノ資源ガ採レル鉱脈ハ、犬ドモノ集落トノアイダ・・・。戦闘ハサケラレナイナ」

「サスガニ俺ト、ホブサンダケジャ厳シイ」


 鉱脈?戦闘?意味が分からないや。


 まだ少し寝惚けた頭を悩ませていると、突然僕の下の方から『グウ───』っと、大きな音が鳴った。


 話をしていた3人が一斉にこっちを向く。


「あ、ははっ──何か食べれるもの・・・ある?」




 おじさんが捕まえてきた猪の肉を焚き火で炙ったものにかぶりつく。食べてる間にさっきの話の内容をおじさんが説明してくれた。


 僕ら──いや、それ以外もそうみたいだが、『命の資源』と『身体の資源』という物を使って仲間を増やしているらしい。

 確かに、どうやって増えてるんだろうと思っていたが、その事実に若干の衝撃を覚える。


 身体の資源は基本、ひとつにつき1人の仲間になる。その時に命の資源をどれだけ使うかでその仲間の強さや役割りが変わってくるらしい。

 中には触媒として、『剣』とか『弓』とか、『薬草』などを入れると特種固体として、ここにいるヒーラー様やホブおじさんの様な仲間が産まれることもあるようだ。


 ちなみにおじさんは弓を触媒にした『ハンター』だ。


 沢山の仲間を殺され、このままではまた襲われると全員やられてしまう。そのためにどうにか仲間を増やしたいらしいのだが、その為の『身体の資源』が2しかないってことらしい。


 それをどうにか手に入れるにはどうしても戦いは避けられないってわけ。


「アリッタケノ命ノ資源ヲ注ギ込ンデ、儂並ノ仲間ヲ増ヤシタライインジャナイカ?」

「イヤ。奴ラハスバシッコイ上ニ数モ多イ。力任セデハ無理ダ」

「ナンダトッ!?儂ヲナメテイルノカ?」

「アアッ!?」


 2人が立ち上がる。凄い迫力だ。周りの6人はガタガタと怯えている。


「2人トモ、ドウカ落チ着イテクダサイ。皆怖ガッテイマス」

「「・・・・・・」」


 ヒーラー様に窘められ2人は無言で腰を降ろす。


 ホブおじさんの腰にぶら下げられた剣がカチンと固い地面に当たる音が響く。

 ハンターのおじさんの腰には、今僕が食べている猪を捕まえるのにも使っただろう、罠に使う縄や色々な道具がぶら下がっていた。


「シカシ・・・イッタイドウスレバ」

「少ナイ数デ大勢ノ奴ラニ対抗デキル何カ・・・」


 ピコンッ!


 急に頭の中で何か明かりが灯った様な気がした。


「ねえ。僕に考えがあるんだけど──




 頭に浮かんだアイディアを3人に話す。最初はそんなこと無理だと言っていたが次第に疲れた目が輝きだす。


「──ドウダロウ。上手クイクノカ?」

「──コレバカリハヤッテミナイト分カリマセンガ、今マデヤッタコトガナイダケデ出来ナイトハ言エマセン」

「──失敗シタラ1ツ資源ヲ無駄ニシテシマウガ、ドウダ?ヤッテミルカ?」

「──エエ。ヤッテミマショウ」

「ドチラニシロ、ドウニモナラナインダ。駄目元デヤッテミテモ損ハナイ」


 3人は無言で頷き合う。


 部屋の奥にあった『生誕の祭壇』と3人が呼ぶ場所に無色透明の綺麗な石が置かれる。

 ヒーラー様が何かを唱え始めるとキラキラと翠色に輝く球体がいくつも現れ、その周りを飛び始めた。


「命ノ資源ハドウスルンダ?ドレクライ使ウ?」

「アッテモ使イミチハナインダ。思イキッテ10個分クライ入レテモイイダロウ」


 その言葉に合わせてちょうど10個になった翠の球体は、より一層明るく輝くと綺麗な石に勢い良く飛び込んで行く。


 透明だった石は翠に色を変え、まるで生き物の様に動き始める。


「成功シタカ?」

「マダ、終ワルマデハ分カリマセン・・・」


 石は次第に大きく膨らみ、次第に人型に調っていく。そして最後にまた一際眩しい光を放った。


 咄嗟に瞼を閉じたが、それでもかなり眩しい。


 暫くして光が収まりそっと瞼を開けるとさっきまで石が置いてあった祭壇の前に、見知らぬ人が立っていた。


「──オレハ『トラッパー』。ソノ名ノトオリ、罠ヲ仕掛ケタリ外シタリヲ得意ニシテイル。ヨロシクナ」


「──成功・・・シタミタイダナ」

「──アア。資源ヲ多ク使ッタオカゲカ、知能モ最初カラ高イヨウダ」


 始めての光景に言葉が出ない。


 僕の考えが上手くいった感動もあるけど、目の前で起きた『奇跡』に心を奪われた。

 僕もこうやって産まれたのだろうか。僕には何か触媒はあったのだろうか。


「オ前。ソレデドウスル?ドウヤッテ奴ラと戦ウ?」

「ハッハッハッ!ヨクヤッタ小僧。コレデマタ我ラ『ゴブリン』ハ繁栄スルッ!」


 そう。


 僕は──僕らは『ゴブリン』。


 しがない魔物のひとつの種族である──

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