決意の鮮血
(何してるんだろ……?)
足の痛みに耐えるのももう限界が近い。視界の隅に捉えているスティアとメルの動き……何となくわかってきたけど、もしそうだとしても何を意味してるのかよくわからない。
(あの動作は……首を……)
2人のやってる動きは、まるで自分自身……つまり、わたしの首を斬るような動作にしか見えない。なに? 諦めて死ねと?
(痛い……!)
感覚だからわかんないけど、あと少し強くされたらいよいよ骨まで来ちゃいそう………。骨を砕かれても今すぐに死ぬわけじゃないけど、そういう問題………あっ。
(そうだ……死なない。死なせちゃいけない……殺せないんだ。)
足を砕いて動きを止めて、生きたままわたしを好きに扱うのがカレンの目的だとするなら…あ、それなら……スティア達のあの動作は……!
(わかった……抜け道!)
「ふっ……カレン!! 残念だけど……わたしには人質がいるんだよ! だからそれ以上の攻撃はやめないと……人質、殺しちゃうよ?」
「人質……? ふふ、そんなハッタリにワタシが騙されるとでも………」
「違う! 人質はいる……ここにいるじゃん!」
わたしはわたしの首元に剣を添える。イブの剣はかなり鋭利だから、少しでも触れたらすぐに切れそう。
「……どういうつもりかしら」
奇妙な軟体生物と化したカレンの表情はわからないけど、その声はほんの少しの戸惑いを感じる。現に、足元の力も少し弱まっている。
「どうもこうもない! なんでかはわからないけど、カレンはわたしを生きたまま捕らえたいみたいだから………。そう考えると、さっきまでの触手の攻撃が簡単に避けられたのも納得だよ。元々あの攻撃でわたしを傷つける気はなかったんだから。わざと切り落とされて、今のこの状態に持っていくことが目的……だから、わたしがわたしを人質にすればカレンは下手に動けない……でしょ?」
チラッと客席をみると嬉しそうに頷いてるスティアとメル、その隣でちょっと納得いかなそうなイブとルナ……なんか仲良さそう。
「……だとしたら、貴女はそこから何が出来るのかしらね……ふふ、ワタシには無数の策があるのよ………片や貴女はその場しのぎの思いつき、確証もない賭けのような命の張り方……ふふふ、素晴らしいわ……やはりワタシは貴女がほしいの……」
(強がってる………だけとも言えないね)
ほんとに何を考えてるかわからない。多分、このまま均衡状態を保っていてもそのうちカレンがまたなにかしてきて、負ける気しかしない。それに、どうせこれは単なる脅しだって思ってるに違いない。………
「……カレン。」
「……………」
無視
「わたしは本気だぁ!!!」
剣を喉から遠ざけ、自分の足を切りつける。切っ先がかすっただけとはいえ、細長い傷口が開き、そこそこの量の血がわたしのふくらはぎから滴る。こんなことしてもなんの意味も無いかもしれないけど、自傷することに抵抗はないということを見せつけることで、なにか………
「貴女は……なにを……!!」
「!」
(なに……明らかに動揺してる………)
今までに聞いた事のないような慌てたカレンの声。足に絡みついていた触手は一気に力を失い、わたしを解放する。そして、滴った血が触手の1本の先端に触れる。
「ううっ…!」
「な、なに……?」
苦しそうなカレンの声と共に、血が触れた触手はバタバタとのたうち回って、まるでその触手だけ死んでしまったように動きを止めた。残りの触手はカレン本体の方へ戻り、うねうねと気持ちの悪い動きをしている。
「……突発的な思いつき……それこそが貴女の一番の武器……とでも言おうかしらね………ふふ……」
(……明らかに余裕が無い)
表情なんてわからなくても、動きや声で簡単にわかる。そして、その理由も………。
(カレンはわたしの血が苦手……だからさっきも切断とかはしないで骨を砕くことで動きを止めようとした………苦手な理由までは知らないけど、そんなことはどうでもいい……!)
やっと、真っ当な反撃の余地を見つけた……!
「カレン……ここからが本当の勝負……そして舞台のクライマックス!! 悪趣味で最低なこの舞台、わたしの勝利で終わらせるよ!」
滴り落ちる血を剣に塗り、カレンに向けて宣言する。締めつけと自傷で足の痛みはまだまだあるけど、全然動けるし、いまのわたしならこんな傷どうにでもなる。さあ、ナナミも見てて……大どんでん返しの大逆転、ここから始まるよ!
「異形の神を相手に反撃ののろしをあげた人間……なるほどなるほど、こうなってしまえば結末はどちらに転ぶかわかりませんな。」
(……黙って)
耳障りなナナミの声を聴きながら、わたしとカレンは同時にうごきだした。




