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幕開けの戦歌

「先手必勝!」


 開演と同時に、一気にカレンとの距離をつめる。カレンの戦闘スタイルは浮遊する人工遺物を操ること……見た感じ、直感的に手で武器を振りますよりは()()がある気がする。それなら、一気に距離を詰めれば……!


「甘すぎるわ……そんなもの、全てよめているのよ……いきなさい、人工遺物!」


 でも、そんなのは向こうもの予想してたみたいで、距離を詰めるまでに動き出す。


「くっ…!」


 カレンはふわりと、まるで浮き上がるようにジャンプして、わたしの背後に回ってきた。そして、後ろから三本の剣を飛ばしてきた。


「余裕余裕……浮遊してるだけあって斬撃が軽すぎるよ!」


 振り返りながら、イブから借りた剣を振り回す。人工遺物に剣が当たると甲高い金属音が鳴り響き、カレンの作り出したそれはいとも容易く吹き飛び、消滅する。……メルの力のおかげもあるかも。


「余裕なのはいつまでかしらね……無限に続く斬撃の嵐……」


 カレンは一定のペースで浮遊する剣を飛ばし続けてくる。


「……体力切れ待ち? 残念だけど、ルナのおかげでそれは無いから……!」


 わたしもそれを軽く弾きながら、笑って答えてあげる。自分でも驚くくらい疲れない。


「……攻めるならいま!」


 数歩で詰められるような距離しか離れていない今なら、一瞬の隙で今度こそ攻撃が届くはず。いまのわたしは飛んでくる斬撃と斬撃の間を見逃すほど馬鹿じゃないから……!


「ふふ……距離を詰めたところで何も変わりはしないのよ……」


 合間をかいくぐり、三歩、四歩と足を踏み出し、カレンに剣が届く距離までたどり着く。相変わらず余裕そうなカレンに向かい、躊躇いなく剣を振り下ろす。でも、カレンは半歩後ろに下がってそれを紙一重でかわ……せてなかった。


「あら……ワタシとしたことが……ふふ、どうしてかしらね……」


 わたしの振るった剣の切っ先は、カレンの頬を掠めていた。鋭く研ぎ澄まされたその剣の切っ先は、かすっただけでもカレンの皮膚を切り裂いた。でも、カレンは変わらず笑っている。そして、その傷口からは


「うそ……赤くない……」


 そこから誰流れるのはカレンの体液……でも、赤い鮮血じゃない。半透明の青色の、血よりもドロっとした謎の液体。カレンの頬を伝い地面に落ちたそれは、木製の舞台の床を少し溶かした。


「カレン……」


「何を驚いているのかしら……ふふ、ワタシは人間じゃないのよ……貴女達と同じような血が通っていなくてもおかしくはないのよ。さあ……次は貴女が血を流す番……ふふ……さあ、力を示しなさい……我が魂の人工遺物……!」


「……!?」


 何をしてくるか警戒していると、カレンは自分の周りに数十本の人工遺物を召喚し、その全てを自分自身に向けて突き刺した。


「あいつなにやってんだ!?」


「……自害……などするわけが無い……くっくっくっ……神をこえんとする神の奇行……」


「…………ユイちゃん、カレンちゃんが何をしてきても驚いちゃだめよ……」


(……うるさいなぁ)


 どうしてみんな揃って静かに出来ないの……メルは黙ってるけど、代わりにスティアが喋ってるし。


 その間にも、人工遺物はカレンを突き刺し続ける。不思議なことに、あの気持ち悪い血が吹き出すことも無く、カレンの体が欠損しているようにも見えない。まるでマジックみたいに、人工遺物だけが体を貫き、それ以外は綺麗なまま。


「……あっ」


(近づけない……って思ったけど、ここから魔法で攻撃できるじゃん……隙だらけだし、やっちゃお!)


「闇を払うは光の使命……熱く燃える炎と共に邪神を焼き払え!! 煌めき(Shining)業火(Flare)!!」


 わたしの手のひらから放たれた、光と炎の合成魔法。うねる炎のような光は一気にカレンを包み込み、人工遺物諸共その身を焦がす。直視できないほどのその輝きから目を逸らし、ナナミの方を見て言ってあげる、


「……決まったね」


「その程度で勝ちを確信など笑止千万。ワタクシの見込んだお嬢さんであればわかっているはず。カレンがこの程度で果てることなど有り得ぬと。……さあさあ、ここからが舞台の真髄、本番でございます。醜く美しい完全なる力を手に入れたかつての紙に立ち向かう、愚かな人間の舞台……」


「……くだらない」


 ナナミの話を途中で遮り、カレンの方に目を向ける。輝く炎が消え去ると、やっぱりそこにはカレンがいた。でも、様子が変。人工遺物は全て消え去り、舞台の上でうつ伏せで倒れながらこちらを見て笑っている。


「残念ね……もう手遅れ……ふふふふふ……全ては揃った。後は貴女さえワタシの体に取り込めば全ては終わる……そのためにワタシはこの舞台にいる……さあ、はじめましょう……見せてあげる……美しい、本当のワタシを……!!!!」


「うっ………」


 直視したくない、でも目を離したら何をされるか分からない……。


 カレンは力なく顔を地面に付け、しばらく動かなくなる。そしてしばらくすると、急に全身が動く……というか、激しく痙攣しだした。気持ち悪い……。


(……ま、まさか………)


 痙攣はどんどん激しくなり、それがピークに達すると、カレンは奇妙な呻き声をあげ、着ていたドレスの背中側を破って……いや、違う……背中の皮膚ごと破ってる。()()()()から、蝶のような羽が生えてきた。その羽はカレンの体を流れているあの気持ち悪い体液でベチャベチャと濡れている。


 そして、その羽をゆっくり動かし、カレンは立ち上がり、浮遊する。わたしに向けるその顔は、今までとは違う、遊悦を感じるような気味の悪い笑顔。


「……美しいでしょう? この羽はワタシの体の中に蠢くココロが形となったもの……人の身では到達できない領域を相手に、貴女はどう戦うのかしらね………」


「余裕ぶってるけど、逆に言えばそんな変身して本気にならないとわたしに勝てないって思ってるんでしょ………!」


 ここで弱気な姿勢を見せたら向こうペースに持っていかれる。ホントは驚いたけど、その感情は隠して、剣を構えて強気でカレンと相対する。……だけじゃない、もっとかき乱せ……!


「あ! カレン……パンツ見えてるじゃん!! そんな格好で浮遊するから!!」


「……さあ、舞台の第2幕をはじめましょうか……ふふっ……」


(ダメか……! )



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