ある種の答え合わせ
露骨すぎる
………
「えっなに?」
気がつくと、変な場所にいた。
「いやはや、見ての通りでございます」
どこからかナナミの声がする。
「………その見ての通りが分からないって話だよ!」
戦う場所の移動って、どこで戦うのかと思えば………いや、どこなんだここは。さっきまでの空間とはうってかわって、薄暗い場所。見渡すと、少し向こう側が低くなっていて、椅子が並んでいる。よく見ると、そこにスティア達が座ってる。上を見ると大きいカーテンみたいなのがぶら下がってるし、床は木でできている……舞台の上かなにか?
「ご明察。実はこれワタクシの趣味でございまして。人間はもちろんとして、ワタクシに作られた存在同士が譲れない思いを掲げて女神であるワタクシの元で争い、命をかけて戦う……それを安全な高みから見物……これほど楽しいことはございません。そしてここはそのための舞台。人間達にとっては本来娯楽の場である空間……ともあれ、ワタクシにとっては娯楽故間違ってはいないかと。とはいえいつでもこのような場所とも限りませんな。吹き荒れる荒野や深い深海、はたまた天空で戦っていただくことももちろんございます。今回に関してはお嬢さんとカレンはこれが1番似合ってると思いましてな。」
よく見ると観客席の奥の方にナナミが座っている。なんかやたらと椅子が大きい。
「……え、は? なに? 何言ってるのナナミ……趣味? 娯楽? なにが?」
すると、観客席からも声がする。
「おい女神! 何言ってんだお前? 遊びのつもりか!? さっきまで全然そんなこと言ってなかったじゃねーか!」
「ワタクシからすれば下級の存在のいざこざなど退屈しのぎの娯楽でしかございませんな。時折こうして声をかけ、その身に余る対価を示して、ワタクシの作る空間に誘っているわけでございます。今回は人間VS元女神、少しは楽しめそうですな。十中八九、元女神の勝ちですが。まあ、カレンが勝ったらその時はその時……お嬢さん方は死ぬでしょうがその後でワタクシが何とかしてあげるのでご安心くだされ。」
「……意味わかんないし、わたしとカレンにはここが相応しいってのも意味不明。」
「お嬢さんもカレンも常日頃から本当の自分を出し切らずに、偽りの自分を演じているように感じる訳でして。そんな偽りの演者とならばやはり舞台、歌劇、演劇……それが似合うかと。まあ、ワタクシからすれば人間なんてみんな同じようなものですがな。」
「ナナミ…………今のナナミ、悪い意味でめっちゃ神様っぽいよ……」
(ここまでずっと都合がいいとは思ってた……落とし穴もなく、上手く来てた……けど、やっぱり落とし穴はある。やっと見つかった穴は……ナナミ。結局のところナナミは最初からわたし達人間に大して期待もしてなければ、自分でなんとかできると思ってたんだ。なのにわざわざ嘘ついて、わたしがいないとダメみたいな空気にして、協力する姿勢をみせてここまでこさせて……全部、暇つぶしか……気まぐれだったわけね。………所詮は神、人間のことなんて………)
信じてたのに、ナナミは本気でカレンを止める気で、わたし達に協力してくれてるって。ナナミですらもどうしようもない存在になってしまったカレンを止めるために。
「で、お嬢さん。準備はいかがですかい? どうやらカレンの方は何時でもいいらしいですが。」
まだカレンの姿は見えないけど、おそらく向こう側の舞台袖にいるはず。
「……始まったら、どっちかが死ぬか消えるかまで戦い続けるってことでしょ。……もう、いいよ。それでいいから……準備できてる。タダさえ強いわたしがみんなの力を貰ってる……女神だろうがなんだろうが負けるわけがない!」
(多分、カレンは死ぬってよりも消滅するんだろうね。……それにしても、ナナミ……逆に凄いよ。ここまで全くこんなこと考えてるなんて微塵も感じさせなかった。人間に対して優しい女神にしか見えなかった。……なのに、裏では色んな世界でこんなことしてたんだ。人が殺し合うところを見て楽しんでた……世界創世全知全能の女神がそれって……そりゃあ世界平和なんて無理だよ。)
「ユイちゃん!! 私たちも全力で応援します!! できることは他にないので!!」
「分かってるよな! 負けたらぶっ殺すからな!」
「くっくっくっ……まさかこのような悪趣味な舞台に我らの命運が託されるとはな……!」
「………」
(スティアだけ黙ってる……ていうかみんな黙ってて欲しいな……うるさい………)
今日はオーディエンスは要りませんので!!
「ナナミ。始めていいよ。」
「……………」
(覚悟はとっくに決まった。この悪趣味な舞台をわたしの勝ちで飾ってやる……見ててよナナミ……大番狂わせの大逆転、退屈させない!)
相手が邪神みたいな女神なら悪趣味だろうが躊躇いなんてない。斬ってやる!
……でも、ナナミは黙ってて奥まった高所の席からわたしを見下ろして何も言わない。さすがに遠くて顔はよく見えないけどなんか不満そう?
「え、なに」
「……口上」
「は?」
「せっかくの闇が咲く花の舞台でございます。その命を散らしてぶつかり会う2人ならば、まずは名乗りを上げて欲しいものですな。」
「……武将?」
(やっぱりムカつく……完全に遊びに付き合わされてるじゃん……こっちは世界と命かけてんだよ……? ナナミは真っ当な女神だなんて思ってたわたしが間違ってた。でも……)
やれって言うならやる、全ては本気で!!
「ふっ………わたしの本気………」
(口上……要するに、かっこつけてリズム良くポエム読めばいいんでしょ……余裕余裕、超得意だからそれ……!)
イブから預かった剣を右手に持ち、舞台の天井に向けて掲げる。すると、それに呼応するようにわたしにスポットライトが当たる。なんかこういうの見たことあるし、それを真似する気で……。
「死して散らしたこの命 再び咲かすは異界の地……集いし因果をひと束に 討ち取る女神は虚構の化身……! 勇者や姫や女神を仲間に、わたしは絶対負けられない! 女神に刻む! 我が名は七海ユイ! 世界も友もわたしが守る!」
「…………」
「…………ぷっ」
「…くっくっ………」
「ユイちゃん………んふっ……ふふ……」
「オーディエンス!! 笑うな!! わたしも恥ずかしい!!」
(今すぐ客席におりて剣振り回したい……!)
その直後、わたしのスポットライトが消えてまた舞台は暗闇に包まれる。そして、今度はわたしの向かい側が赤いスポットライトで照らされた。もちろん、そこにいたのはカレン。カレンはいつもみたいにうっすらと笑みを浮かべ、数本の剣を浮遊させながらゆっくりという。
「ふふっ……天地開闢太古より 人を見守り行きつく答………破滅も救いも与う価値無し 世界を捨ててワタシは旅立つ………ふふふ………完全覚醒混沌の闇……ワタシはカレン。貴女はワタシと共に。」
(ノリノリじゃん……!)
完璧……一切の迷いも恥もない、完全無欠な口上…敵ながら天晴れと言ったところかな。観客席に目を向けると、名乗ったのがカレンだから黙っているんだろうけど、みんな何か言いたそう。絶対オーディエンスの皆様も同じこと思ってる。………まあそれはいいとして。
「箱庭の神がどこまで力をつけようとそれは虚構に過ぎぬこと。ワタクシのような全知全能には永遠なる時を刻んでもたどり着くことは叶いませぬ。しかしそんな虚構の神にすら及ばぬが人の運命。数奇で特異な因果を背負おうと所詮は小さく非力な人の身で、神を討つなど夢物語……。しかし見果てぬ夢を叶うと言うなら先に待つは悲劇の塗り替え……さて、始めると致しましょうか。」
ナナミも独特のポエムを読んで、指を鳴らす。それに合わせて舞台の上が一気に明るくなる。つまり、開演の合図……!
(……いまのわたしに敵はいない!!)
わたしはここで勝って、やるべきことがある。ナナミはこんな女神だったけど、多分約束は守ってくれるはず。そう信じる。……わたしの願いはただ一つ、元の世界に戻りたい。……もう一度、会いたい人がいるから。




