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顕現

(さて……まずは)


 話を始める前にこれからするべきことを脳内で巡らせていると、突然聞き覚えのある声がする。


「いやはや、これはこれはワタクシも想定外。こうも手早く、複雑に乱れねじれたようにみえた、そしてか細い糸のような因果をまとめあげるとは。お嬢さんは万物早世の女神の考えすら及ばぬ領域にいらっしゃるやもしれませんな。」


「んなっ…!?」


(ナナミ……っ!?)


 それはほんとに突然だった。わたしの目の前に、前回あった時と同じ姿のナナミが立っていた。幸い、兵士の人たちも撤収してて周りに他の人たちはいないから見られてはいないけど、イブ達にはバッチリ見られている。


「……なんだコイツ? どっから出てきやがった?」


「……スティア、貴様の仲間か? 突如として現れるなど真っ当な人間であるなら不可能。」


「あ……」


(……スティア?)


 スティアの方を見ると、なんだか見たこともないような表情をしている。驚いてるような、怯えてるような、なんか……いつもよりさらに子供っぽく見える。


(あ、そっか)


 そういえば前に言ってた。霊峰には行けないって。神の力が上回る存在がいると近づけないだとかなんとか。なのに、そのはずなのに……今その女神が目の前にいる。そりゃあどうしようも無くなる……ってことか。大丈夫かな、存在ごと消えたりしないかな?


「おっとこれはこれは失礼いたしました。ワタクシとしたことが自己紹介もなしに突然語り出してしまいました。これはいけませんな。それに、どうやら……そちらのお姉さん、()()()()()()()()()()()なにやらワタクシに対して奇妙な感情を抱いているご様子ですな。」


「ユイ、こいつ知り合い?」


「一応……」


「くっくっくっ……貴様の周りにはどうあろうと常識から外れた者共が集まるようだな……それは正しく貴様の因果……持って生まれた逃れることの出来ぬ運命……」


(マジでめんどくさい人しかいないんだよね〜)


「それもまた一興というものですな。」


 ていうかあなたたちが筆頭ですからね。


「ねえ、スティア……平気?」


 ナナミがイブとルナに気を取られてる隙に、スティアに小声で囁く。すると、何故か少しビクッとしながらスティアも小声で答える。


「へいき〜……でも、やっぱりちょっと変な感じ……だって、あの子は……本物なんだもん。わたしみたいな嘘じゃないし、カレンちゃんみたいな箱庭の女神じゃないの……全部、気まぐれ。」

 

「気まぐれ?」


「あのこ……ナナミちゃんって呼ばれてる女神様の気まぐれ……その気になれば、一瞬で世界ひとつ消せるの、もちろんこの世界も。……ユイちゃんのことを気に入ってくれたみたいだからそんなことはしないだろうけど、わからないから……こわい。」


「えっ……いやいや、スティア。それは無いよ。そんなの、意味無いし。ナナミは言ってたよ。世界はできるだけ多く長く存在して欲しいって。」


 でも、スティアは変わらない調子で言う。


「……それはもちろんそう。でも、言った通り……気まぐれなの。何かの間違いで、ナナミちゃんがそういう気になったら有り得なくはない。……そういう意味だと、今こうやって友好的にしてくれて、ユイちゃんを気に入ってるのは奇跡かもしれないのよ……『これはこれは、この世界色々ぐちゃぐちゃになっちゃったし壊しますか』なんて思われたら、その時点で終わりなの。」


「………マジ?」


(そんなわけないでしょ……ナナミは誰にも認知されてないこの世界を気に入ってるみたいだし、多分今の状況でこの世界壊してもカレンの存在は消せな………ってことは、逆に……カレンの存在が何とかなったら? わたし達がカレンを倒しかなにかして、その脅威を取り除いたら? もし今後ここよりももっと居心地のいい世界が出来たら?)


 あれ?


「あ〜勇者のお嬢さんと狂気のアナタ、ワタクシ実はこう見えても女神でございまして。そうなんです、全知全能の女神でございます。」


「あ、お前が?」


「全知全能だと? くだらない……戯言を」


(そう……ナナミは全知全能。それは絶対。よくよく考えたらここも上手く行き過ぎてるんだ。幾千、それよりももっとあるかもしれない世界の中から偶然にもナナミがこの世界を気に入っていて、わたしはナナミと会うことが出来て……カレンに関するアドバイスまで貰った。カレンは既に全知全能の女神の力だけではどうしようもないくらいに本物の神に近くて、ナナミもそれをとめたいからわたしに協力してくれた。それこそ、カレンも気まぐれでこの世界を壊すかもしれないしね。)


 それは良い、間違ってない。


「勇者のお嬢さん、これはあくまでもワタクシの勘ですが、ワタクシになにか頼み事でもあるのでは……と、勝手ながらも思っておりますが……いかかでしょうか」


「………わかってて言ってるだろ。全知全能なんだからさ。」


 隙があるついでに、スティアの腕を引っ張ってナナミ達から少し距離をとる。


(……そもそも、イブはナナミ会うために嘘ついてまでライズヴェルにきて、ゴッドランクを目指してる……ここであってしまったのは予想外だけど、多分イブは今自分の頼みを優先したりはしない。……でも、考えてみればなんかこれも出来すぎてる。イブが求めたいた存在とわたしが知り合いだなんて。…まるで、なにか必然的にそうなって………そうだ、そういえば………!)


 前にスティアが言ってた。『偶然なんかじゃない』って。その時ははぐらかされたし、『スティアはなんでも知ってる女神』だと思ってたけど、実際はそうじゃない。そうじゃないのに、まるでわたしの運命を知っているかのような口ぶり……あれの意図はなに? きになる……それなら、今ここで問いただすだけ。


「スティア、教えて……」


「なにかしら〜」


 そう、スティアは以前言ってた。……


『偶然なんかじゃない。自意識過剰とかでもないの。本当に、ある程度の事象は……ユイちゃんに集まっている。勇者がこの国を訪れたのも、何かを企む黒の人物がいるのも、教会に従う白の女の人がいるのも、誰かがユイちゃんに心を奪われたのも、王の器を持つ人が声をかけてきたのも……偶然じゃない。』


 ただ、思い返すと若干腑に落ちない。勇者がこの国を訪れた理由はナナミだし、箱庭の女神がわたしを狙うのは単にわたしの境遇が都合がいいだけ。メルやマリアはよくわからないけど……それって因果の糸がわたしに集まってるって言える?


「前に言ってたやつ……ある程度の事象がわたしを中心にしてるだとか、集まってきてるだとか……あれ、なに? 今教えて欲しい……ダメ?」


 すると、スティアはチラッとナナミの方を見た。釣られてわたしもそっちを見ると、イブとルナを相手にお得意の喋り方でのらりくらりと質問をかわしながら大したことない話をしている。なら、尚更チャンス……。


「そうね〜、せっかくだし話そうかしら」


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