神域のなんとか
「個人的な……?」
誰もいない店内。カウンター越しに何も気にすることなく話す受付の人。裏にはギルドマスターとかいるんじゃないの……?
「見てのとおり、今は誰もいませんし、騒ぎがおさまっても人はすぐには戻ってこないものなんですよ。なので、今のうちにお願い……というか、ききたいことがあるんです。」
そう言い終わると、受付の人は両手をカウンターにつき、頭を下げて言う。
「お願いします……! カレンさんに、どうやってあの体型を維持しているか聞いてきてくれませんか!? 見る度に信じられない量を食べるあの人は……それなのに全く太らず、いつも細くて綺麗なあの体型なんです!! 羨ましい……きっと何かあるはずなんです! 今着ているこのお気に入りの服が着られなくなる前に……お願いしますっ!! どうやら私が思っている以上にユイさんとカレンさんは仲がいいみたいなので……っ!!」
「は?」
下げられたあたま……後頭部付近を見ながら、そんな声しか出せなかった。なにを……何を言い出すんだこの人は……。
「やっぱりゴールドランクに近いシルバーということでお金が沢山あって、特別なものを使ったり食べたりしてるんでしょうか!? それとも、冒険者は沢山動くから必然的に維持できるとか……そう出なかったらなにか私の知らない魔法のようななにかがあったり、ランクの高い冒険者だけが使える『特別ななにか』があるとか……」
「あの……」
「は、はい!!」
今度はすごい勢いで顔を上げて、期待の顔でわたしを見てくる……なんなんだこの人は……。
「残念ですけど……それは無理です。」
「……やっぱり、きけませんか?」
「あ、そうじゃなくて……はっきり言えば、わたしはカレンがどうして太らないか知ってます。その方法?も一応。でも……無理なんです。仮に今ここに100億ルピアあっても、わたし達2人がダイアモンドランクやカリスマの冒険者だとしても、世界最強の魔法使いでも……カレンの真似はできません。あんなこと、世界で1人しかできないはず……仮にできる人がいたら、それは………いや、やっぱり居ません。」
素直に、言えることだけをちゃんと伝えると受付の人はガッカリしつつも、少し恥ずかしそうに笑って言う。
「はは……ですよね。正直、私もそんなに期待はしてませんです。でも……羨ましくて。私だって一応それなりに努力して、食べたいものを我慢したりもして……でも、いつもあの人は馬鹿みたいに食べてて、でもすごい綺麗で……いや、別に不公平だとかそんなことを言うつもりはなくて……でも、ちょっと悲しいです。努力しても、ダメなものはダメなんでしょうか。」
(な、なんか重くない……?)
こう言っちゃなんだけど、たかが体型の話だよ? それも、わたしから見れば……この人だって、すごい綺麗な人だし痩せてる。そりゃあそれこそ『努力』してるんだろうけど、そんなに重く考えることなのかな……特に、全てにおいて規格外なカレンをみて気に病むなんて、無駄。とはいえ、それを言う訳にもいかないしな〜。(今のわたしはズルでめっちゃかわいいけど、元の世界にいた時は全然だったりしたけど、まあそれはそれで)
「……まあ、この話は仕方ないです。は、恥ずかしいので忘れてください!」
急に我に返ったのか、受付の人は顔を赤くして目を逸らす。……か、かわいい。こんな人が受付だと、男の人の冒険者の人からめんどくさい絡みとかされそうだけど、そういうのはないんかね?
(さてと)
これでも特にやることも無くなったし、帰ろうかな。と、思って出入口の方を見ると、ちょうど誰か入ってきた……ソフィアさんだ。
「あれ? エルザと一緒に行かなかったの?」
こっちに向かってくるソフィアさんは、足をとめずに言う。
「それでも良かったのだけど、ちょっとね……久しぶりね、セレナ」
(?)
「あ! ソフィア……いつ以来ですかね? 同じ街に住んでる上に、ギルドと鍛冶屋もそんなに離れてないのに全然会う機会もないし、来てもくれないし……結局、あれ以来でしたっけ。」
(…………え、そこも繋がるの?)
カウンターから出てきて嬉しそうにする受付の人……どう見てもソフィアとかなり仲良さそう。色んな人が色んな人と知り合いで意外な繋がりもあったりはしたけど、ここか……ここは予想外すぎる。何繋がり??
「あ、てかセレナさんって言うんですね? 今知りました。」
「そうよ、彼女はセレナ……私と同じで、元ダイヤモンドランクの冒険者よ。」
「……?」




