立ち止まらなければ道はあるから
(絶対アレだ……)
メルの持ってるあの石。転移石?とか言うやつでしょ……王家に伝わるチートアイテム。どこでもワープ出来るやつ。めっちゃ楽しみ……。
「では、行きます……。」
「おっけー!」
メルが石とわたしの手を強く握る。その瞬間、視界が光に包まれ、何も見えなくなる。そして、次の瞬間には。
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「着きました、街の入り口です。」
目の前にはライズヴェルの街への入口の門。確かに、間違いない。ほんとにこんな石ひとつで転移できた。出来たけど……
「ま、まって……やば、やっば……これ、なに……めっちゃ酔ったんだけど……気持ち悪い……なんか食べた後なら絶対終わってた……」
メルは全然平気そうにしてるけど、わたしは無理、気分が悪すぎて立ってられない。少しして近くの柱に手をついて何とか立ち上がると、メルが近くに来て囁く。
「私も最初はそうでした……この転移石は慣れないと尋常ではないくらいに三半規管に刺激が来るようで……先に言うべきでした。」
「ああ、うん……ちょっとまだ無理そ………ごめん、先行ってて……」
(まともに歩けない……)
今歩いたらすぐ倒れそう。いつ以来だろ、こんなに気分悪いの……インフルエンザ罹った時に車の中で本読んでもこんなに酷くはならないと思うよ、知らないけど。
「……大丈夫でしょうか……」
メルは心配そうにわたしを見つめてる……その眼差し、少しだけマリアに似たものを感じなくもない……さすが。
「平気…わたし強いから……」
「そういう問題……わ、わかりました。それでは私はお城へ帰るので……あ、今日はありがとうございました……最初から最後までいきなりで申し訳ありませんでした。……いくら街の人々が王族に興味が薄いとはいえ、私がこの格好で街中を歩く訳には行かないので、また転移させていただきます……それでは、またいずれ……」
そして、メルは深くお辞儀して、転移石を握って転移を……
「ん!! あっ!待って!! ちょまっ……うっ、あぶな……」
「ユイちゃん!?」
言わなきゃいけないことを思い出して、急に大きい声を出したらまだまだダメで、危なかった。そんなわたしをみて、メルは転移をやめて肩を支えてくれた。
「ご、ごめん……えっと……あー……なんというべきか……今すぐじゃないんだけど、いずれか……途方もなく面倒なことに巻き込んじゃうと思うのと……イブよりもっと変な人となかよくなってもらう……とか、あるかも……」
「……?」
われながら、何を意味のわからないことを言っているのか……とは思うけど、だからといって今すぐここでメルに全部話す気にはなれない。でも、何も言わないのもね……お姫様を巻き込んで、(多分)命をかけて戦うなんてことになるんだろうし、一応伝えたい……その気持ちが混ざった結果、こんな訳の分からないことに。
「ユイちゃんの伝えたいことはわかりませんが……もし、いつかなにか私に頼みたいことがある……ということなら、私は喜んで引き受けます。それがこの国の姫として、そしてユイちゃんに戦いを教わる身として当然のことだと思うんです。」
「そっか……ありがとね」
お礼を言うと、メルはまたなにか言いたそうにして、でもそれは言わずに少しだけ口を動かして、転移してその場から消えた。……よく連続でできるなぁ、わたしなら死ぬ。
「う〜……」
(ギルド行くかぁ……)
まだまだ歩きたくないけど、そこそこ人も通る場所で(なのにメルに誰も気が付かなかったのやばくない?)、そんな場所でいつまでも死にそうにしてるのも嫌だし、ゆっくり向かおう……。
――――――――――――――――
(……ん)
体調は戻ったけど、普段の3倍くらいの時間をかけてたどり着いたギルド……の入口付近。人がたってる。ただそれだけならなんとも思わないし、人なんていつでもいるけど……髪が、髪の色が……
(青黄緑の3色……なんか久しぶりにみたな……)
久しぶりでも忘れてない謎のセンスの髪色。鍛冶屋のソフィアさんだ。服装はいつも通り、とても鍛冶屋には見えない綺麗でふわっとした服とスカート。何してるのかな? エルザのこと待ってるとか? たしか、唯一エルザが仲間とか、友達と思ってる人だとか……。
「どうも」
黙って通り抜けるのもなんかアレだから、ギルドに入りつつ軽く頭を下げて挨拶を……と、そこで腕を掴まれて止められた。
「わっ……なんですか?」
(そういえば……この人もだいぶ怪しい……)
マリアとメルくらい、効いてる疑惑がある。視線を上げて顔を直視すると、少し困ったような笑顔。
「ユイちゃん……ちょっと今は中に入らない方がいいかもしれないわね…。タイミングが悪いかしら…。」
「? どれくらい悪いですか?」
「お湯が湧いた瞬間に大きい荷物が届くくらいかしら?」
「わからん〜……」




