冒険者になろう
ブクマや評価沢山ありがとうございます!
「エルザさんはゴールドランクなので、ユイさんもゴールドランクに挑戦をする……でよろしいですか?」
受付の人は、改めて念を押すように確認してくる。
「わたしはいいですけど………なにか問題あります?」
「いえ、もしも失敗した場合の話ですが………あくまでもこれは普通に依頼ということなので、失敗の場合は違約金を頂くことになります。もちろん、成功すれば通常通りに報酬を支払いますよ。」
「なるほど〜………ちなみにその違約金はわたしが払うんですよね?」
チラッとエルザさんの方を見ると、真顔で頷いてる。ですよね〜。
(ていうかお金持ってないから絶対失敗できないよ………!)
「と、言うわけでどうされます?やりますか?これが最終確認なので、もし本当にやるならここにサインをお願いしまーす。ちなみに挑戦は1回しか出来ないのでもし失敗したり途中帰還した場合は通常通りに『ランク無し』からのスタートになりますよ。」
(なるほど……)
受付の人が示した場所を見ると、『ゴールドランク』と書いてある。
「…………よし!これでいいですか!?」
サインをしっかりと書き、受付の人に返す。
「はい、確かに受理しました。……エルザさんも大丈夫ですよね?」
「はい。私はいつでも準備は出来ています。ところで、依頼の内容はどのようなものでしょうか。」
(確かに依頼の詳細聞かずにおっけーでサインしちゃったよ……)
「はーい、こちらです。『蟷螂龍』の討伐をお願いしたいんです。街の北西の方の、美味しい木の実が沢山取れる森に居座ってしまったみたいなんですよ。人里を襲うことは無いのですが、かなり凶暴で木の実の収穫に来た人が襲われたとか………放置すると木の実も食べられてしまうかもしれないので、是非討伐をお願いしたいんですよ。」
「蟷螂龍ですか……珍しいですね。」
エルザさんは依頼の詳細が書かれた紙を読みながらつぶやく。
(カマキリドラゴン………信じられないくらいダサい名前じゃん………どんなマヌケな姿なんだろ)
「ふ〜ん………まあいいや、早速行きましょう!ちなみにどこから向かえばいいですか?徒歩?馬車?」
「ちょちょっとユイさん!武器も持たずに防具も身につけずに行くんですか?受付員として偉そうなことは言えないですけど、さすがにそれはちょっと危険すぎでは……?」
「ええ、私もそう思います。ユイがどれほどの実力なのかはまだわかりませんが、いくら自信があるとはいえそのような装備、格好で討伐できるほど蟷螂龍は楽な相手ではありません。」
(2人とも目がマジだ……こわい)
まあ確かに、わたしの強さを知らない方から見ればそう思われても仕方ない。特に受付の人とか、自分が対応した人がそんな適当な舐め腐った格好で依頼にいって、大怪我でもされたら困るもんね。でも!
「平気です!平気平気!それにもし何かあってもそれは全てわたしのせいなのでおふたりが気にする事はないんです!ほらエルザさん行きましょ行きましょ」
「…………それならあなたを信じましょう。全ては女神様の導きなのでしょうから…………」
(ん………教会のひとかなにかなのかな?)
女神………か。わたしの方が多分かわいいよ。
「そ、それでは……街を出たらそのまま北西に向かってください。徒歩でも30分ほどで着くはずなので、どうかお気をつけて……。」
徒歩30分圏内の森にいる凶暴なモンスター……もし木の実の被害がなかったとしても………いくら人里に来ないと言っても、ちょっと放置するのは怖いよね。
「じゃいってきまーす」
エルザさんと並んで歩いてギルドを出ようとすると、店内(?)でボソボソと話しているほかの人たちの声が少し聞こえた。耳を澄ますと大体の人達が、『あんな格好でいきなりゴールドを受けるなんてバカ』『新手の自殺』『死にに来たアホ』『ゴールドランクを舐めてる田舎のガキ』とか、普通に傷つくえぐい悪口言ってるじゃん。
繊細な乙女心はガラスのハートだからすぐに壊れちゃうんだよ………っ!嘘でーす。わたしの心は金剛偏光子だから無敵さ………。
―――――――――――――――――
さて早速街の外に行こう!……そう思っていたけど、ギルドを出たところでエルザさんが立ち止まって言う。
「しかし……やはり武器すらないのは危険です。なにか用意をした方がいいでしょう。」
「え〜……平気ですよ〜」
「自信があるのは結構です。しかし、備えをすることも冒険者としては大切。私の知り合いで装備を作っていたり売ったりしている方がいるので、そちらの店に寄ってから行くことにしましょう。」
「んー………でもわたしお金持ってませんよ。」
「えっ」
わたしの衝撃の告白をきいたエルザさんは素で驚いたような声を出し、なんて言葉を返すか迷っているように見える。
「いやマジですよこれ。」
(そもそもこの世界のお金の単位も知らんし)
「…………とりあえず行きましょう。なんとかしてくれるはず………です。」
「あ、はい」
(完全にひいてるじゃん)
エルザさんの案内で街の中を数分歩いて、広い通りにある建物に入った。その中はムワッとして蒸し暑い。………鍛冶屋さんかな?
「いらっしゃいま…………あら、エルザ………」
「すこし久しぶりでしょうか?」
店のカウンターにいた人は、エルザさんをみると直ぐにその名前を呼び、こちら側に出てきた。鍛冶屋の人なのに、綺麗でふわっとしたスカートを履いていて、髪も長い。
(ていうか髪の色やば。青と黄色と緑の3色じゃん……なにそのセンス……)
「久しぶり……そうだったかしら?…………そっちの子は?」
「あ、わたしはユイです。えっと………武器が欲しくて、エルザさんの案内でここまで来ました。」
わたしが答えると、女の人は笑顔になって言う。
「あらあら、そうだったの。ということはこれから冒険者になるのかしら?」
「まあそんなところです。」
「ということで、なにかユイが扱うに都合のいい武器はないでしょうか。」
「そうねぇ………ユイちゃんはどういう戦闘スタイルがお望みなのかしら?」
(戦闘スタイル………)
「なんかこう……魔法でどかーんてやって、武器でバーンって戦うかんじですかねー?」
「………………後ろにいくつか武器があるから好きに選んでいいわよ…………」
呆れたような顔で言われちゃったよ。
「ソフィアの作る武器はどれも素晴らしいものです。どれを選んでもユイにとってはきっとプラスになるはずですよ。」
(ソフィアさんっていうんだ……)
そのソフィアさんがカウンターの裏の仕掛けをいじると、上から吊るされた武器がいくつか出てきた。どれも綺麗で、元の世界じゃこんなもの見る機会なかった。だって本物だよ………刃が煌めいていて少し怖い……。
(片手用の剣に長い槍、斧やら弓やら………ありがちな武器が多い…………ん?)
そんなファンタジー風の武器たちのなか、一つだけ異彩を放っているものが………
「ソフィアさん、あれは………」
わたしがそれを指さすと、ソフィアさんは困ったように言う。
「あれは………気にしなくていいわよ。ただのバットよ。」
「そうですよ、あれってバットですよね?野球とかで使うやつ。金属バット。」
そこにあるのは高校野球とかで使いそうな金属バット。綺麗な形でわたしの世界にあったものと変わらない。
「……野球?」
「え?」
「なんでしょうかそれは………」
ソフィアさんもエルザさんも困っている。なんで?
「野球ですよ、ベースボール。そのバットでボールをうつ競技。このくらいのボール」
ジェスチャーでボールの大きさも示してみる。
「ボールを打つ……?」
「こんな細い棒でそのサイズのボールを……?」
「え、まってほんとに知らないんですか?ていうかもしかして野球って概念無いのこの世界?」
「そうね………きいたことないもの。」
「私もです。」
(なんで野球の概念ないのにバットだけ先に作ってちゃってんだこの世界は………意味わからん………どうやったらバットの発想にいたるんだろ………謎)
「え、それならわたしにこれくださいよ。ダメですか?」
お金無いし。
「こんなものでいいならあげるわよ。ほら、どうぞ。」
ソフィアさんはバットを外して、わたしに渡してくれた。まあまあ重い。
「おぉ……完璧な金属バット………素晴らしいです!」
「ユイはそれでいいのですか?もっと他にも……」
心配してくれるエルザさん。でもいいの。
「いいんです!わたしはこれで!武器なんてなくても平気だし!」
「………変わった子ね。冒険者になるなら危ないこともあるから気をつけるのよ。」
ソフィアさんはカウンターごしに優しく微笑みながら言ってくれた。
「はーい!また今度来ます!それじゃあエルザさん今度こそいきましょー!」
「そうですね………それではまた。」
金属バットを背中に背負い、わたしとエルザさんはお店をあとにした。
(………現段階ではソフィアさんはわたしに惚れてる様子はない………か。)