禁忌を纏いし罪の炎
(禁忌の魔法ってなんなんだ……)
ここで下手な答えしたら、速攻お城に連れてかれて偉い人達に囲まれて質問攻めにされたり、痛い目に遭わされたりするかもしれない。全くなんの事だかわからないけど、多分それくらいやばいことなんだと思う。メルリア姫の表情と喋り方で何となくわかる。
「……正直に言うと、わたしは禁忌の魔法だとか術とか……何も知りません……わたしがただ、本当に強すぎる天才過ぎてどうしようもなくてこの魔法が使えるだけなんです……血筋とか、脈々と受け継がれてるものとかも特にないんで……。」
「……禁忌とされている邪悪な魔法……それははるか昔に悪しき魔法使いが生み出したと言われています。王家、それからオーリン教会に受け継がれてる文献によると、その魔法で生み出される炎は世界を灼熱でつつみ3日で焦土に変えてしまい、氷の魔法は世界を永久凍土に包み込み、雷の魔法を発動すれば止むことのない落雷が世界を襲う……と。」
いつの間にか風は止んで、日は隠れていた。少し暗くなった湖のほとりでメルリア姫は淡々と語る。
「……どうしてわたしの魔法がそれってわかるんですか?」
すると、メルリア姫は自分の手のひらを開き、そこに小さな火球を創り出して言う。
「私の魔力は生まれつき弱くはありませんし、まだ完璧ではないですが制御も出来ています。なのでこのように小さな火球を安定して創り出すことも出来ます。」
「はい」
少し揺らめくそれは、眩しくない光を放っている。
「……ユイちゃんの使う魔法はとても制御が出来ているとは言えずに、使用者の意思に反して暴れているように感じます……恐らく、知識不足かと……。普通であればそのような状態では威力の高い魔法になることはありませんし、エレメントの力も発揮できません。……しかし、先程の魔法。訓練用に特殊な術でいまの私は守られていますが……それでも感じました。この国のどんな高名な魔法の使い手よりも優れた魔法の威力……」
「お、わたしがすごいってことですか?」
と思ったら、メルリア姫は首を振り強く言う。
「違います! 知識不足でエレメントも上手く制御出来ていないにも関わらずにこのような魔法が使える……それこそが禁忌の魔法と酷似しているんです! あの術は魔法の才能が無いものが究極の魔法を使うために生み出した禁忌の法……。一般の方はそもそも禁忌の魔法をしらないので『なんかよくわからないけどすごい魔法を使うな〜』くらいにしか思わないかもしれませんが、私のようなものが見ればひと目でわかります……とても、野放しにしていい力では無いんです。」
(……最初の頃マリアと魔法の話した時も言ってた。『何も知らないのにこの魔法が使えるのはすごい』って。それが普通に人の感じ方ってことだ。でも、知識がある人から見れば……わたしのやっていることは人智を超えてるんだ。…………)
考えてみれば当たり前だよ。だってほんとに神に近い力なんだし。どんな人間よりも強いに決まってる。でも、それって要するに『ほぼ人間じゃない』ってことになる……。もしわたしがルナみたいな根っからの極悪人だったらこの力で世界をぶっ壊したり、スティアやカレン、それこそナナミも殺して新たなる神にでもなってるかもしれない。……それくらいのヤバい力なんだ。
「……メルリア姫はわたしのこと、どう思いますか?」
意地悪なことを試しに聞いてみると、メルリア姫は剣を構えつつ答える。
「平原で助けていただいたとき……光の魔法を見て、ユイちゃんはすごい人だと思ったのです。強くてかっこよくて、可愛くて優しい……イブ様とはまた違った頼りがいを感じました。実際、怪しい依頼という形式でもここまで来て、いきなり手合わせもしてくれました。……しかし、先程の魔法……あれを踏まえて考えると……ユイちゃん、私はあなたを……ごめんなさい、顔を見ることもできません……」
メルリア姫は目を伏せて、声を震わせている。
「そうですか……」
(…………自分勝手)
勝手に頼ろうとして、いざわたしが魔法を使ったら勝手に恐れて……お姫様として、それはないよ。わたしが憧れた強くてみんなを守れるお姫様……メルリア姫はその理想とは違ったかもね。みんなを守りたい気持ちはあるけど……全然、強くない。今だって、剣を持つ手は震えてるし腰も引けてる。仮にわたしがなにかしても、本気で止めることもできなそう。
「……次はイブに頼んだ方がいいと思います……わたしじゃ……無理なので。」
「ま、待ってください!」
それだけ言って、メルリア姫に背を向けて歩き出すと直ぐに背後から声がした。
「な、なんですか……? まだなにか……」
「私は……私は……禁忌の魔法の力をその身に宿しながらもその力を悪しきことに使わず、それどころか私のような未熟な王族の為に力を貸し……困っている人は危険をかえりみずにたすけ……そして、私の態度をみても怒らない……そんなあなたに……心を奪われました!!!」
「あっ」
(……始まったよ)
振り返ると、恍惚とした表情でわたしを見つめるメルリア姫がいた。




