剣を混じえて誇りをかけて
「て、手合わせって……え、要するに……戦うってことですか?」
メルリア姫はふざけてる訳でもないし、どう見ても本気。手に持った剣の輝きを見るにいつでつかえるように手入れもしてある。
「そうです……もちろん、練習なので心配はいりません。」
「いやいや! そうじゃなくって……だって仮に、何かの間違いでわたしがメルリア姫を傷つけてしまったら……王族に傷をおわせるなんて、さすがにわたしでもヤバいってわかるんですけど……」
御前試合で友好国の王族を間違って殺してしまって色々やばい、とかお話ではよくある事だし、この世界でもあってもおかしくないでしょ。流石のわたしもお姫様やっちゃったら嫌だからね。
「心配はいりません。とにかく遠慮はいらないので、私と本気で剣を混じえて欲しいのです。……お父様に認められ、本物の姫になるために必要なのです。」
「あー……」
本気の目で、力強くうったえてこられると断りにくいし、お姫様の頼みを断るのもしのびない。とはいえ、わたしが本気出したら……あと、どうでもいいけど剣を混じえてって言うけどわたしは金属バット。
「……はじめましょう。」
「えっちょっ」
有無を言わさず、と言った具合にメルリア姫は剣を地面から抜き、わたしに向ける。切っ先を向けられると否が応でもやるしかない。……もう知らない。メルリア姫が頼んできたんだ。何がどうなっても責任なんてとれないからね!
「わかった……やりますよ。」
わたしもバットを持って向き合う。北から僅かに吹く風は冷たくなく、わたしとメルリア姫の長い髪とスカートの裾を揺らす。お互いに瞬きもしないで睨み合う。モンスターと向きあった時とかルナ達と向き合った時とは全く違う、妙な緊張かん。
「……先手必勝!」
待つのは嫌い! とっとと決める! 大きく1歩踏み込み、躊躇わずに頭に向けてバットを振り下ろす。ルナの時とは違ってわたしはもう迷わない。たとえそれがお姫様でも。
「……見えてます」
「んな!?」
そんな覚悟なんて知ったことではないといった様子で、メルリア姫は半歩動くだけでわたしの攻撃をかわした。無様に隙を晒したわたしに向けて、メルリア姫は剣を振るってくる。
「……これが勝負です!」
「そっちも甘い! 生クリームくらい甘い! 甘々激甘!」
体をひねって斬撃をかわす。服が少しカスって脇腹の当たりが破けた。えっちだね(は?)。連続して攻撃されても、すべてかわせる。ルナに比べたら動きもにぶすぎる。
「わたしの強さはこんなもんじゃないし! 魔法がある……太陽の輝き……わたしの祈りと思いに呼応して! 顕現して……大宇宙の業火!!」
叫ぶと同時に、わたしの指先からはとんでもない火力の魔法が放たれる。まるで意思を持っているかのようなその炎は迷いなくメルリア姫を包み込み、呑み込む。
(……さあ、どうなる……)
メルリア姫の服は多少防具としての能力もありそうだったけど、この魔法に耐えられるとは思えない。鎧諸共溶かしてしまいそう。大丈夫かな……。
「…………この力は…」
「うわ、無傷」
普通なら辺りの草も燃やし尽くしてしまってもおかしくないほどのその炎、それが消えた跡には……傷もやけどもなく、防具もそのままなメルリア姫が立っていた。
「……どういう仕組みですか、それ……」
でも、メルリア姫はその質問には答えず、武器をしまってわたしの手を取り問いかけてくる。
「ユイちゃん……その魔法、一体どのように習得をしたんですか?」
さっきまでの真剣な瞳とはまた違う、不思議な表情でわたしを見つめているメルリア姫。どうしたんだろ……?
「この魔法は……頑張ったんです。努力したら使えました。もしかしたら才能があったのかも知れませんけど……」
「いいえ……ちがう。そうじゃないんです……私が言いたいことはそうでなく……このような魔法、有り得ません。存在していいはずがない。あってはいけないんです。」
「は? え? なに?」
(†罪の炎†だったのかな…)
ちょっとふざけたこと考えてると、メルリア姫はさらに強くわたしの手を握り、少し険しい顔になって言う。
「直接浴びたかこそわかります……これは禁忌の力……はるか昔に封印された邪悪な魔法と完全に同じ力……。再び現世に現れることなどありえないと思っていましたが……どうしてユイちゃんが……ユイちゃんは何者なんですか?」
(くぅ〜……なんかまたわたしの知らないめんどくさい要素出てきた〜)
それにしても、熱くなってるだけかもしれないけどなんかメルリア姫思ってたよりゆるい喋り方するね〜。なんて思ってる場合じゃなさそうだけど。




