ギルド!
もうすぐ街に着く、という辺りで馬車は止まってしまった。運転手の人曰く『街のなかで馬車を止めるとお金がかかる』らしい。やっぱり都会ってそうなんだ。東京みたいだね。
そうは言っても歩いて10分くらいだった。ここで思ったことは、この世界は街と街、街と村の間はほとんどが人の手の入っていない場所ってこと。なんて言うか………整備された道路もないし、途中にお店とか民家も基本的にはない。『この範囲は街ですよ』『この柵の中は村です』みたいに括られてて、それ以外は『村(街)の外』って感じ?だからモンスターもいるんだろうし、安全の保証はないって感じ。逆に言えば何かしらの手段で街や村は守られているんだろうね。
「では、わたくしは一旦ここで………ギルドはこの道を真っ直ぐ歩けばすぐに着きますわ。」
「ほい」
街に入ってすぐの場所で、一旦マリアと別れた。
(………お城ある)
遠くに少しだけお城の上の方の部分が見えた。
少し歩いたところにある看板を見たところ、ここは正式名称『ライズヴェル城下町』。ここのお城が統治している領地のことを『ライズヴェル領』って呼んで、いわゆる『国』みたいな感じらしい。
ライズヴェル城下町は確かに都会。広い通りを歩く人は多いし、荷物の乗った荷車を引いてる人とか、大きい武器を持っている人、家族で歩いている人………と、色んな人がいる。地面も岩で舗装されてて、建物はレンガや木で出来ている。高い建物も沢山あって、まさに『ファンタジー世界の都会』って感じで、東京みたいな都会では無い。
「あ、ここかな」
真っ直ぐ歩くと大きい建物があった。出入りする人を見てみると、鎧を着ている人とか武器を持った人とか………『それっぽい人達』ばっかり。
(よし………)
いつまでもここで突っ立てても仕方ないし、中に入ることにした。
(おお………)
中に入ってみると、外見の印象通りかなり広くて、人も沢山いる。中心あたりはテーブルと椅子がたくさんあり、食事もできるようになっているみたい。
カウンターの方を見ると、受付の人が何人かいる。やっぱり田舎と違って職員の人も多いんだ。給料もいいのかな…………なんてね。
「ん?あんたも来てたのね。」
「あ、リズ。」
声をかけてくれたのはサイドテールで薄手の鎧を着た女の子……リズ。もうこっちに来てたんだ。
「ふーん……あんた結局何が目的なのよ?わざわざ遠くからこっち来てんだからそれなりに大きい目的があるんでしょ?」
「あ………それは…………えっと……」
「あ、別に無理に言わなくていいわよ。あたしも別にあんたと仲良くする気もないし、聞いても意味ないわ。それじゃあね。」
少し疑う目をしつつ、リズは外に出ていこうとした。……けど立ちどまり、振り返ってニヤニヤしなら指をさし一言だけ
「そうそう、トイレならあっちの奥にあるわよ」
と言って、立ち去った。
(……………ムカつくけど言い返す言葉もない)
まだ平気だけどちゃんと後で行くし………
――――――――――――――――
「いらっしゃいませー」
カウンターの方に行くと、すぐに受付の人が対応してくれた。アリスと違ってわたしより年上の大人の人だ。
「冒険者の登録がしたいんですけど………」
「かしこまりましたー。それでは、こちらをご確認ください。」
「ん」
なにかの資料を渡された。
(…………同意書かな)
軽く読んでみると、長々と書いてある割には対して内容が無い。『怪我とかは自己責任だけど、保険とかあるよ』『ギルドの許可のないモンスターの討伐や希少なものの採取は禁止。破ったら罪になるよ』『依頼の報酬の一部はギルドが貰うよ』……とか。まあ一応読んで、サインをす…………あ
(サイン………文字読めるけど書けないじゃん……)
わたしの名前の『ユイ』ってどう書くんだろ…………と思ったけど、同意書の中から『ユ』と『イ』の文字を探してなんとかかけた。下手だけど。
「これでいいですか?」
「はい!」
わたしのサインを確認した受付の人は、綺麗な笑顔で頷いてくれた。
「それでは、もう1枚こちらをご確認ください。こちらは任意となっているので、よく読んだ上でご自分の必要な場所にサインをしてください。」
「………はあ?」
(…………あーそういうことね)
渡された書類を読んでみると、冒険者のランクについて書かれていた。冒険者になってすぐは『ランク無し』扱いで、少し依頼を達成するとすぐに『ブロンズ』。そこからさらに依頼を達成したり、なにか貢献したりすると『シルバー』になって、そのまま同じようにやっていくとどんどん上がって、『ゴールド』、『プラチナ』『ダイヤモンド』、さらに上で『カリスマ』、最高ランクが『ゴッド』……つまり神。
ランクが上がる=ギルドからの信頼が高いってことになるから難しくて報酬のいい依頼を紹介してくれるってことみたい。ちなみに未だかつて『ゴッド』到達者はいないらしい。じゃあなんであるんだ。
(なんかアイドルのゲームみたいなランク付けじゃん………)
とにかく、普通はそうなるわけなんだけど、手もとの書類のによると、登録する時……つまり今、任意で依頼を受けてもいいみたい。それを達成出来たら、その依頼の難しさに応じて最初から高いランクでスタートできるんだとか。
(………ただ、当然危険が伴うと………)
普通に考えて、シルバーとかゴールドのランクの人達が受ける依頼を登録に来た初心者に任せるなんてありえないし、めちゃくちゃ危ない。だから任意だし、同意書には『安全のため、受ける依頼に対応したランクの冒険者の同行(手助けをされた場合は無効)が条件』とある。わたしはめちゃくちゃ強いからいきなりゴールドとかから始めたいけど、残念なことに今は一緒に行ける冒険者がいない。諦めるしかないね。
「どうされますか?」
「いやー……わたし、強さにはめちゃくちゃ、ほんとにもうめちゃくちゃそれはそれはすごいかなり自信あるんですけど、それでもやっぱり同行者いないとダメですかね?」
「ダメですね〜。結構昔に、そういう風な『自称強いひと』を一人で行かせたことがあったらしいんですけど、かなり酷い怪我をして帰ってきたり、依頼を達成してないのに達成したふりをして帰ってきたり………と、色々あったらしいですよ。」
「まあそうなりますよね……じゃあ」
仕方ないので普通に登録します……と言おうとした時に、ちょうどまさにその時に、後ろから声をかけられた。
「あなた………とても強さに自信があるようですね。」
「だれ!?」
振り返るとそこには………知らないけど、腰くらいまである銀髪の、綺麗な女の人がいた。
全体的に白と銀色の物を身につけていて、着ている服はなんとなく神々しい感じがする白銀のドレス。膝の下くらいまである丈のスカートは少し硬そうで、多分防具としての役割もあるんだと思う。
上半身も綺麗な白銀の服。派手な装飾はないけど長めの袖には小さな紋章みたいなのが入っていたり、所々に謎の模様がある。あとネックレスつけてる。似合う。
「あ、エルザさん。何かご用で?」
(エルザっていう名前か…………)
「そうですね………失礼ながら、おふたりのやり取りをすこし拝見してました。………そこのあなた」
「わたし?」
(まあ指を刺されてるからそりゃそうだろうけど)
「はい。あなたがもしそこまで自信があると言うなら……私と一緒に行きますか?私はゴールドランクなので、規則上全く問題がないはずです。成功すればあなたはゴールドランクとして冒険者のスタートをきれますよ。」
「ゴールド……!」
すごい人じゃん!とてもそうは見えないけどすごい強いってことだよね!
「エルザさんが同行するからもちろん問題ありませんが………どうしますかユイさん?」
受付の人は、心配そうな目でわたしを見ている。でも迷うことは無い………!
「もちろんやります!やるに決まってますよ!」