霊峰ベルズバイン
気がつけば、家の外…というより街の外……もっと言えば目の前にはとんでもなく高い山がそびえ立っている。風が少し強くて、目を大きくあけられない。そんな瞳に映る山は、なんか変。
(……わたしの知ってる、思ってた山と違うな……)
富士山とか、北岳 (日本で2番目に高い山だよ)とか、そういう感じだと思ってたけど違った。K2 (海外のエグい山の登頂ルート)みたいなのが直接地面から生えてるみたいな訳の分からない山で、上に行くほど細い切り立った岩が点を穿つかのようにそびえてる。どうみても登れないでしょ。
それに、周りには何も無い。突然山が聳えてる以外は木も生えてない、荒野。なんかこう……物理的に色々おかしい気がする。
「ここがベルズバイン?」
聳える岩のような山を指して隣にいるスティアに尋ねると、スティアは首を振る。風、それから首を振る動作のおかげでスティアの髪は激し揺れている。
「ううん。ベルズヴァインはあっちよ〜」
スティアに促されて、斜め後ろを向くと……。
「ああ、なんだこっちか……」
(じゃあこの岩山はなんなんだ……)
そちら側に見えたのはわりかし普通の山。まだ少し遠くだけど、まあ麓までは歩いて割とすぐ行けそう。見上げるほど高いけど、木も生えてるし割と緩やかで、『普通に大変そうな山』って感じ。でも、山頂の方は雲で隠れて見えない。
「わたしはもうこれ以上近づけないみたいなの〜……前はもう少し行けたけど、もしかしたらカレンちゃんの反応に気がついて、神様も力を強くしてるのかも…というわけで、お願いね〜」
「……断れない」
(どうしてわたしが世界の命運握らされてるんだ……)
カレンを放置したら、ここじゃないどこか別の世界に被害が出るわけで……もし、何かの間違いでそれがわたしが元いた世界だったら、なんて考えると無視もできない。一応、大切た人たちもいるし。
「じゃ、行ってくる……神様ってどんな感じかな? スティアみたいにおとぼけ?」
歩き出してから、振り返ってスティアに聞いてみる。
「わたしも知らない〜」
「そっか、わかった」
(期待してないし)
また前を向いて歩き出す。風は止まないし、向かい風で歩きにくい。わたしの髪と青いリボンも後ろになびいている。そして、ここに来て、今更ながら割ととんでもない事に気がつく。
(……武器がない………)
いつ、どのタイミングで……そうだ、思い返せばカレンの家(?)で目が覚めた時からなかった気もする。取られた……の? まあ、いいや。所詮は単なる金属バットだし、武器なんてなくてもわたしは戦える(そもそもこの後戦うことになるかわからない)。
「ユイちゃ〜ん……もし神様に会えたら、………よ〜」
「あっ!? なに!? なんて言った!?」
背中に聞こえた声に振り返ると、なぜかもうスティアは居ない。結局なんて言おうとしたのかわからなかったけど、どうせ大したことじゃあないでしょ。
(………世界創世の女神、どんな神様だろ……)
優しいのかな、それとも人を見下してるかな、それともそれとも……なんて考えるのはまだ早い。わたしが今すべきことは……
「登山……苦手……」
標高どれだけか不明な霊峰ベルズバインを踏破すること……か。どうせ神様は山頂にいる。




