めんどくさい人
それから直ぐに、ギルドマスター(名前忘れちゃった)と受付の人が戻ってきた。相変わらずの格好のギルドマスターはわたしを見て直ぐに言う。
「ああ……君。ユイだったか。先日のペガサスの討伐は助かったよ。君の名前を記した掲示物も近々用意できるからもう少し待ってくれ。……さて。俺に用があるのは君だろう……カレン。」
ギルドマスターはカレンのこともちゃんと知ってるみたいで、少し勿体つけてから名前を呼んだ。
「ええ、そうね……ワタシはあなたに用がある。普段の振る舞いを見る限りはとてもそのようには見えないけど、それでもあなたの魂の奥底には世界を懐疑的に見据える心眼が眠っているのね……ふふ……」
「さすがはカレン、俺の隠された神髄さえも見透かしている。やはり君はたんなる冒険者に収まる器では無いようだ。」
たぶん褒められたみたいで、カレンはニヤっと笑いながら答える。
「……元々ワタシはたんなる冒険者では無いつもり。でもそれは未完成。だからこそユイが必要なのよ。」
(……この2人やばい)
全然何言ってるかわかんないのに2人は通じあってるように見える。ちょっと頭おかしい人同士だと通じるの?ギルドマスターの隣にいる受付の人の方を見ると困ったような笑みを浮かべてる。いつも大変そう。
「それで、用とはなんだい?」
ギルドマスターはカウンターに手を付き、妙な格好で言う。なんとなく気になってギルドに来てる人々の方に目を向けてみると、みんなこっちを見ていない。……見て見ぬふり?
「ワタシはアレがきになるのよ……オーリン教会。正義の仮面の下には一体何が眠っているのか……どうやらあなたもそれに気がついている様子。そのことについての意見が聞きたい。」
やっと本題に……と思ったら、ギルドマスターは少し間を開けてから、急に真面目なふうになって言う。
「悪いけど……そこはノーコメントだ。たしかに俺もオーリン教について言いたいことはある。ただ、だからといって俺のような人間がたんなる冒険者である君に何もかもを話すことは不可能なのさ……ああ、残念だが仕方ない。」
なんだかよく分からない答えに、受付の人が口をだす。
「えっとですね、まあその、私がそもそもギルドマスターがとか言い出したのも悪いんですけど……ギルドとお城、それから教会の3拠点はそれぞれ相互に援助したり情報を交換したりしてるんです。なので、その……表立ってギルドマスターがなにか直接的なことを言うと……こんな場所ですし、誰かに聞かれると良くないってことなんです。ほら、カレンさんならわかると思うんですけど……情報の一部だけ切り取って変に騒ぎ立てる人とかいるじゃないですか。」
(それはわたしもわかるな……偏向報道だ。余計な面倒が増えないようにってことかな……)
そんなことより、『カレンさんならわかる』ってことは逆に言えば『わたしはわからない』って思われてるの? なんで???
「なるほど……運命を背負った人間は大変ね……ふふふ……ならいいわ、今日は帰るとしましょう。ほらユイ、いきましょう」
「なんでわたしも……」
まるで保護者にでもなったつもりか、カレンはわたしの手を引いて歩き出す。その直後、ギルドマスターが言う。
「ああ、最後に1つ。ユイ、君が戦ったルナとアルマ……あの2人はめんどくさい奴らだ。そう、俺よりも遥かにめんどうなやつらだ……」
(自覚あるんだ)
「つまり、そう遠くないうちに向こうから君たちになにかしかけてくるはずだ。アイツらがタダで引き下がるなんてことは絶対にありえない……警戒しておくことだ。」
「わ、わかりました……」
言いたいことが言えて満足なのか、ギルドマスターはこちらに背を向けて歩き出して言う。
「じゃ、俺は行くよ。こうみえて忙しくてね。」
「はぁ……」
(絶対暇だ)
ほら、受付の人も冷めた目で背中を見てる。絶対舐められてるでしょこの人。
「ねえ、ユイ」
こちらも歩きだし、カレンが言う。
「なに……」
「少し行きたいところがある……ふふ、もちろん来てくれるでしょう……?」
「はいはい……」
手掴まれてんだし断れないでしょ。ほんとなんなのこの人は……




