メルリア姫
「ひゃっ!? だ、誰ですか……?」
イブがいきなりドアを開けて中に入るもんだから、中にいた女の子……メルリア姫はめっちゃくちゃビビって、部屋の隅に行ってしまった。
「あ、ほら見ろよ。こいつこの前街の中で見たやつだろ?」
イブは全く悪びれもせず、部屋の中にいるメルリア姫は指さす。仕方なくわたしも中に入って、ドアは閉める。
「あ、いや……うん、確かにそうだけど………そうなんだけどさ……」
(そんなこと言ってる場合じゃないでしょ……)
確かにその見た目は、この前街の中で見た……もっと言えば、平原で助けてあげた女の子そのもの。服装こそ違うけど、髪型や色も同じで、声も同じ。ただ、今のこの状況は……
「あ、あなた達誰ですか……一体どうしてここに……兵士たちはなにを……」
(そりゃそうなるよね)
いきなり入ってきて好き勝手喋るし、よく考えたら武器まで携帯してる。王族に対してこの振る舞い、許可があるとはいえ普通に何かしらの刑に処されてもおかしくなくない?
(……っていやいや、おかしくない?)
確かにわたし達の今の突撃の仕方はヤバいけど、そもそもの話……メルリア姫がわたし達を呼んだんだよね? なのになんで、わたしとイブの顔みてもそういう感じにならないの? 呼んだんなら気がついてよ……。
「あの……お父様のお客様でしょうか……それなら下の階におりて……」
「はぁ? お前、自分で呼びつけておいてなんなんだよ。」
イブも同じことを思ったようで、露骨にイラついたふうにいう。
「私……あっ……あれ、でも……」
メルリア姫はなにか思い当たる節があったようで、わたしの方を見てなにか考えている。
「な、なに?」
「その……たしかにそうですが……あなたは以前私を助けてくれた方……で間違いないです。」
「あ、うん。」
「………私は、教会の方にお願いをして、私を助けてくれた方と、この国に来ている勇者様に対してここに来るようにお願いをしました。」
「ん? だからそれでいいんだろ? こいつが、お前を助けた人で、ボクは勇者……何が不満なんだよ? お前だったボクの顔見た事あるだろ?」
(そういえば、イブが前に言ってたような……)
この国に来て、最初にお城で王様に会った時にいたとか。
メルリア姫は、イブの顔を少し帯びた様子で見ながら言う。
「……以前、お父様とお話されているところを拝見しました………が、あの時のイブ様は……」
「あっ!?」
メルリア姫がそこまで言うと、イブはなにか思い当たることがあったようで、声を上げた。
「イブ、どうしたの?」
「あ、いや……なんでもねーよ。」
(嘘だ……)
「イブ様は……お父様に対して、『ライズヴェルを救うために尽力することを誓います』『たとえこの力が及ばずとも、命を捨てる覚悟で戦う』……と言って」
「おい!」
メルリア姫がそこまで言ったところで、イブはそれを遮ろうと大きい声を出した。
「あー! バカ!! 言うなよクソ!! だいたいアレは……ちげーし!!」
「えっうそ?マジで?」
(イブがそんなこと言ってたの?)
想像つかない。口を開けば暴言で、敬語なんて生まれてこの方使ったことの無いような、無礼講そのものみたいなイブが?
「ですので……いま目の前にいるイブ様をみても、その……別人に見えてしまい………」
「あれは……ノーザンライトの偉いやつにやれって言われてたからしょうがなく演じてやったんだよ。今のボクが本当のボクだぜ。もう今後はあんないい子の振りなんて絶対やらない。で、なんのようなんだよ?」
どうやらメルリア姫は、自分を助けてくれた人……わたしと、丁寧な態度で信頼できる勇者イブ……に何かをお願いしたかったみたいだけど……残念ながら、イブはその理想から大きくズレていた。……わたしは多分平気だけど。
「………わかりました。私の理想を押し付けるのはいいことではありません………。で、では……お願いしたい事なのですが………」
「おう」
「な、なんだろ……」




