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悩めるお悩み

「ギルド……閉めちゃうの?」


「はい、そうです。」


(そんなあっさりと……)


 だって、ここ閉めちゃったら依頼とかどうするの。


「………なんで閉めちゃうの?」


「……見ての通りです。ギルドに来る人だーれもいないんですよこの村。過疎です、過疎。住んでる人のほとんどは依頼を受けるような人達じゃないし、だからといって依頼を出してきたりもしません。農家やってたり洞窟で採掘してたり、そういう自己完結する仕事の人が細々と住んでるだけなんです。更に、この辺りは幸か不幸かモンスターも少なくて、はっきり言ってギルドの価値がほぼないんですよこの地域。」


 随分早口でアリスは言い切った。


「でも……ギルドが無くなるのは………」


「あ、違います違います。ギルドは無くなりません。言うならばここは………この国の中心の街にあるギルド本部に対しての支部みたいなものです。なのでここが無くなっても特に問題は無い………ので、申し訳ないですけど登録をするなら……ここから1番近いのは本部なので、街の方に行ってもらうことになります。………実は、今日付けでこの国のギルド支部の15%が無くなるんです。ここ数年は特に本部のある街【ライズヴェル】に人が集まって………一極集中問題ってやつです。地方は辛いですね。」


「あ、うん………」


 日本みたいな問題抱えてるじゃん………東京一極化問題かな?


(ていうか、本部が近いの?)


「本部が1番近いなら、ここももう少し人がいてもいい気が………だって、1番栄えてる街からそう遠くないんでしょ?」


 なんとなく聞いてみると、アリスはすこしため息をついて答える。


「あー………近いと言っても馬車で2時間くらいですよ。まあまあ遠いです。今回閉められる支部の条件はある程度本部に近い上で過疎ってるところなんです。つまり、その支部の近くに住んでいた冒険者はライズヴェルの街のギルドに行けってことなんですけど、これって逆に一極集中を招きますよね。だってみんな街の方に行っちゃいますよ。やりたいことが全く一貫してなくて困りますよ〜。まったく、偉い人達は一体何を考えているんでしょうか。」


「そ、そうだね」


 どうしてわたしは異世界転生してまでこんな切実な行政の愚痴をきいてるのかな?


 とその時、ギルドの入口のドアが開いて誰か入ってきた。


「あ、リズさん。いらっしゃいです。」


「ん………あんたも来てたのね。」


 リズ、そう呼ばれたのは昨日の女の子だった。わたしの方を見て、カウンターに近づいてくる。


「なんか話してたけど、何の話?」


「何って、もちろんギルドが閉まるって話ですよ。リズさんも知ってる通りです。」


「え、知らないわよ。」


 リズは心底驚いたように言う。


(だと思った)


 知ってたらわたしにここに行けなんて言うわけないし。この子もなかなかぬけてるなぁ。


「えー言ったじゃないですか。もう17回くらいは言いましたよ!」


「やば………」


 思ってたよりヤバめじゃん。


「そんなに言ってたかしら?」


「嘘でーす。本当は24回ですよ。」


(なにこれ)


「ま、まあいいわ………ということはアレよね、街の方のギルドに行けってことでしょ?」


「はい!」


「ならいいわ。あたしは早速向かうわよ。あんたもいつまでもこんなところいないで自分の目的が果たせるといいわね。それじゃ。」


 そう言い残してリズは直ぐに行ってしまった。……元々なにしに来たんだろ。


「あ、そういえばお名前聞いてなかったです。教えて貰ってもいいですか?」


「ん、ユイだよ。名前何かに使うの?」


「い、いや別にそうじゃないんですけど………その、素敵な人なので名前くらいは聞いておきたくて!私、このあとはライズヴェルの街のギルドで受付業務をやるのでもしまたお会い出来たら嬉しいです!あ、私は『アリス』です!もし良かった名前と顔覚えてくれたらすごい光栄です!」


(………ん?)


 アリスの顔は嬉しそう……と言うより、なんか恍惚としてるようにも見える。これは………


(気のせいかな………)


「というわけで……ユイさんとももっとお話したいです…………しかし名残惜しいですけどここまでです。内装の片付けがあるので外に出てもらわないとなんです………!」


「あ、おっけい。また今度会えるといいね。」


 アリスに手を振って、外に出る。


(さて…………どうしよう)


 お金はないし、お金を稼ぐ手段もたたれた。街に行くにしても、馬車って多分タクシーみたいなもんだろうからお金ないとダメだよね?


(……詰んだ)


 その辺の森にでも行って売れそうなものでも探そうとも思ったけど、こんな過疎過疎の過疎みたいな村じゃあみんな自給自足してそうだし売れないよね………。


「やばいじゃん………」



――――――――――――――――


 しばらくあてもなく村をさまよった。確かに人も家も少ない。わたしが住んでいた地域の100分の1くらいしかないかも。見渡す限り畑や林。遠くには山が見える。道は泥と砂利で適当だし。ちなみにわたしは埼玉県に住んでた。


「………?」


 見通しのいい道の向こうの方、何かを探しているような女の子がいる。周りをキョロキョロしたり、地面を見つめたり………落し物?


「ねえ、どうしたの?」


「!!」


「うお」


 わたしが声をかけた途端、すごい勢いで飛び退いて距離を取られた。なに?


「あ、あ……申し訳ありませんわ………!まさかこのような田舎の道でわたくしと同年代の方と出会うなんて思ってもいなくて………」


(…………絵に書いたようなお嬢様)


 白と赤のフリルのついたドレスを着てて白いタイツ履いてる。さしてはいないけど日傘も持っている。髪は腰まである金髪でふわっとしてる。まじでお嬢様。超☆お嬢様。


「なんか探してるの?」


「あ、そうですの……。実はわたくし……大切な、ものすごく大切なものを落としてしまいまして………あれがないと………わたくしは…………」


 オロオロして、泣きそう………。


「えっと、何落としたの?」


「わたくしがわたくしであるための証明書………冒険者としての登録証ですわ。あれがなくなってしまうと今までのわたくしの実績がなくなってしまうだけでなく、身分の証明も困難になってしまうのですわ…………。」


「それは大事だ………」


 つまりこの子は冒険者………とてもそうは見えない。


「一緒に探すよ。どんな見た目?」


「た、助かりますわ………!確か………皮の袋に入れていたはずですわ。今日歩いた道はこの当たりだけなので誰かに拾われていなければ絶対あるはずですわ………!」


「わかった!みつけよ!」


(……お嬢様っぽいし、助けてあげればワンチャンあるかもしれないし…………ね?)


 お金ください。


 ――――――――――――――


 しばらく歩きながらじっくり探したけど、全く見つからない。拾われちゃったのかな………


「ねえ………他の場所…………ん??」


(…………まさか)


 あの子の膝の裏………なにかくっついてる……引っかかってる?

 焦げ茶色のような袋に見える…………


「……落とした袋は何色?」


 女の子に近づいてきいてみる。


「黒と茶色の間くらいですわ。」


「重い?」


「いえ………登録証は紙を少し加工しただけのものなので軽いものでしてよ。腰に着けていても重さは特に感じていませんでしたわ……。」


「…………膝の裏」


 わたしがそう言うと、女の子はしゃがみこんで膝の裏を触った。


「ああ!!ありました!ありましたわ!!まさかこんな所に引っかかっいたなんて!!全く気が付きませんでしたわ!」


「そっか…………」


(気がついてよ…………)


 まあ見つかってよかったけどさ。


「あ、あの!!」


 女の子は立ち上がって顔をグイッと近づけてきた。


「うお、なに?」


「とても親切で可愛くて綺麗で素敵な方……お名前は!?」

 

「ユイ………」


(これは………)


「ユイ……ユイ様!本当に助かりましたわ!貴女のような素敵な方と出会えるなんてわたくしはとっても幸せですわ!」


「…………」


 女の子は頬に手を当て、さらに顔を赤らめていう。


「ああ………わたくしはユイ様のような素敵な方と…………結婚したいですわ。」

 

「ちょ!?何を!?そんな冗談………」


「いえ!わたくしは本気でしてよ!出会ってからの時間などは関係ありませんわ!わたくしは見ず知らずのわたくしに親切にしてくれたユイ様のその心に惹かれましたの!」


「ダメだよ!だってさ、ほら……わかんないでしょ?もしかしたらわたしは【法と秩序を無視した者(カオス・バーサーカー)】で通りすがりの人を全員ぶん殴って歩いてるようなカスかもしれないし?」


(何を言ってるんだわたしは)


「もしそうでしたら是非わたくしも殴って欲しいですわ!」


「それに可能性としてはわたしは人が道に吐き捨てたガムを拾って食べるような頭おかしい人かもよ?」


「だとしたらわたくしの吐いたガムを食べて欲しいですわ!!!」


「もっと言えばわたしはこんないい歳してトイレまで我慢できなくて漏らしちゃうような子かもよ?」


(これはほんとだけど……)


「そのようなことがあるのでしたらわたくしはそれを飲みたいですわ!!!!」


「いやマジでキモイ………ひくわぁ」


(何この子………目マジだし)


 わたしを見つめるサファイアみたいな綺麗な瞳は本気にしか見えない。普通に考えたら少し親切にしただけで同性にここまで言うなんてことはありえないよ(いや異性でもヤバいけどさ)。でも、今のわたしにはそれを可能にしてしまう力があるんだ………【モテモテになる】力と【異性から好かれなくなる】このふたつを同時に発動してしまっている……つまり【同性からはモテモテになる】…………可能性が極めて高い。


 考察としては、まずこの子は完全にその力のせいでわたしに惚れてる。間違いない。さすがに通りすがりの人とか少し目が合った人を惚れさせるなんてことはないけど、親切にしてあげるくらいまで行くと惚れるみたい。


 次にアリス。あの子多分惚れてたよね。この子ほど露骨じゃないけど、別れ際の感じだと多分………。


 最後にリズ。リズは多分惚れてない。理由はひとつしかない………目の前で漏らしたから。さすがに幻滅するよねそりゃあ。まあわたしだって別に百合ハーレム作る気なんてないからいいけど。


「あの………どうかなされましたか……?」


「あっ!ごめん!」


 ふと気がつくと顔を覗き込まれていた。ぼーっとしすぎた。


「え、えっとさ………まあ今のは冗談だとしても、さすがにまだ早いと思うから………まずは友達……でどう?」


(まさかわたしがこんなセリフを言う日が来るとは………)


 告白されたことなんてなかったのに!


「………わかりましたわ。そうですわね。もっとお互いをよく知るために、まずは一般的な友好的な関係から………とてもいいですわ。よろしくお願い致します。」


 女の子はスカートの裾を少し持ち上げて、お辞儀をした。絵になるなぁ。


「あ、そうだ……名前は?」


「わたくしは【マリア】………好きに呼んでくださいまし。」


「うん、よろしくねマリア。」


(よし………これなら何とかなりそう………)


「ていうかさ、女の子同士で結婚できるの?」


「もちろんでしてよ。」


(あ、そうなんだ………結構理解が深い世界だな………)


「わたくしが武器をもって役所に突撃すればできるようになるに決まってましてよ……!」


「それはできるって言わないから!!」


 だ、大丈夫かな………






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